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生忌物倶楽部  作者: 鬼居かます
23/55

23「第三話 獣使い」私の親友は曽祖父の昔話に思いを馳せる。

【毎日昼の12時に更新します】



この作品には以降のストックがありません。

そのため書き上げてからの投稿となるので一日一回の更新となります。

すみませんが、よろしくお願いいたします。





川端(かわばた)っ! 助かるぞっ。

 ……人がいた。助けてもらえるぞ」




「人?

 ……現地人か?」




「わからん。

 だが食料や貴様の手当てができそうだ。

 それにもしかしたら部隊と連絡が取れるかも知れない」




 又一は大木の幹に腰掛けた川端に肩を貸し、立ち上がる。

 そして手招きを続ける金色(こんじき)の人に声をかける。




「頼む。

 こいつの手当てがしたい。そして食べ物が欲しい」




 すると斜面の上に立つ金色の人は話がわかったのか、

 手招きを続けたまま歩き出したのである。




 助かった。

 又一は思った。

 案内してくれているのはおそらく現地人だろうから、

 近代的な治療は受けられないかも知れないが、少なくとも食料は融通してくれるだろう。




 道中は困難だった。

 道はないに等しい。幾重にも重なった枝や大木の根が行く手を遮る。




 そんな中、金色の人はひょいひょいと身軽に歩き抜ける。

 又一は疲労と空腹で目が回りそうな上、重傷の戦友に肩を貸しているのだ。

 気を抜くと姿を見失いそうになる。




「……まずいな」




 又一はつぶやいた。

 助けてもらえるかも知れないという安心感からだろうか、突然に睡魔が襲ってくる。

 身体は歩いているのに、気を緩めるとついウトウトとしてしまうのだ。




 それでもなんとか金色の人の姿だけは見失わないよう歩き続ける。




 そして小一時間も経った頃だろうか、急に視界が開けた。

 いきなり周囲が明るくなったかと思うと、ぽっかりと開拓された場所に出たのだ。

 見ると造りは粗末だが、大きな人家が一軒ある。




「助かった……」




 又一は急に崩れた。

 傍らの川端といっしょにへなへなと座り込んでしまったのだ。




「ああっ……」




 そのとき又一は気がついた。

 前方を行く金色の人の姿がはっきりとわかったのだ。




「……サ、サルだったのか」




 それは確かにサルだった。

 金色の人はインドネシアに住むオランウータンだったのである。




 辺りを見ると金色のオランウータンは一頭だけではなくて、

 木に登ったり地面を寝そべったりとたくさんの数がくつろいでいるのがわかった。




「ははは。

 ……サルに助けられるとはな」




「まったくだ」




 又一と川端は互いに笑い合う。

 だがもう一歩も動けなかった。体力が限界なのだ。




 そんなときだった。

 案内してくれたオランウータンが人家に入ったかと思うと、やがて人が姿を現したのだ。




 それは間違いなく人間だった。

 白い麻のジャケットを着てゆっくりとした足取りで近づいてくる。




「……日本語、わかりますか? 

 食べ物が欲しい。それと怪我の治療がしたい」




 ようやく目前に到着した人間に又一はそう告げた。

 立っているのはインドネシア人の白髪の老人だった。




「日本語、少しわかります。

 待っててください」




 助かった。

 そう思ったときに限界が来た。すうっと気が遠くなり意識を失ってしまったのだった。




 ■




 耳に心地よい声が聞こえてくる。

 だがなにを言っているのかはわからない。




 だんだんと意識が覚醒してきたとき、又一は自分たちを見下ろしている視線に気がついた。

 若い女性だった。




「……っ」




 女性が息を飲むのが見えた。

 目が合ったので驚いたのだろう。きれいな女性だった。




「ああ、気がつきましたか?」




 老人が話しかけてきた。

 どうやら女性は日本語はわからないらしい。




「川端。

 ……えーと、私の友達は?」




「休んでいます。怪我が大変です」




 見ると同じ部屋の別のベッドの上で川端が眠っていた。

 治療もしてくれたようで足には包帯が見える。

 そして女性が濡れタオルを交換してくれていた。




「どうもありがとう。

 ……わかると思うが、俺たちは日本の兵隊だ。元気になったら帰りたい」




 又一はそう老人に尋ねた。

 すると老人は考え顔になり、しばらく黙っていたがやがて頷いた。




「戦争は私には関係ありません。元気になるまでいてください」




 それだけ告げると立ち去った。

 やはり軍人が来たことが気に入らないのかも知れない。




 ところがしばらくしたら戻ってきた。

 食事を持ってきてくれたのだ。見ると果物と米をいっしょに煮た食べ物だった。




「お粥みたいだな。ありがとう」




 途端に腹が鳴る。

 相当空腹だったようだ。

 そして又一はありがたく頂戴しおかわりもした。味は異なるが日本のお粥を思い出させた。




 気がつくと涙があふれていた。

 時間をかけてゆっくり食事をすることが、

 思い出せないくらい久しぶりだということに気がついたのだ。




 そして見ると川端も起きていて食事を取っていた。

 若い女性が、かいがいしくスプーンで口まで運んでいるのが見えた。




 ■




「大変なお話ね。

 ……ひいおじいさまはそんな体験をなさったのね」




「ああ、そうだ。

 まあ、それもこれもいろいろ含めて今では懐かしさばかりが募る」




 ゆうはサイドテーブルに置かれたカップに紅茶をつぎ足す。

 又一が長話で喉が渇いた様子に見えたからだ。




「それで、ひいおじいさまと川端さんはどうなったのかしら?」




「ああ。……それから老人の世話になった。

 老人はオランウータンの研究家でな。

 それで人里離れたジャングルの奥で孫娘と暮らしていたという訳だ」




「素敵なお仕事ね。動物に囲まれて」




「ああ、そうだな。

 ……そう考えると私らも米軍も単なる迷惑な存在だ」




「戦争は嫌です」




「……そうだな。

 ただ当時は違った。私らも米軍も大義のためだった。


 ……でもそんな大切なこともあのときの暮らしでは忘れていた。

 私らは毎日のんびりと暮らせた。……だが」




 そこで又一は咳き込んだ。

 ゆうはあわてて背中をさする。




「げほん……。

 そ、そこにヤツらが来たのだ」




「……ヤツら、ですか?」




 ゆうは嫌な予感がした。

 曽祖父の昔話が、良からぬ展開になりそうだと思ったのだ。



 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「いらぬ神に祟りなし」連載中


「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み

「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み

「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み

「墓場でdabada」完結済み 

「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み

「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み

「空から来たりて杖を振る」完結済み

「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み

「こころのこりエンドレス」完結済み

「沈黙のシスターとその戒律」完結済み


 も、よろしくお願いいたします。

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