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生忌物倶楽部  作者: 鬼居かます
22/55

22「第三話 獣使い」私の親友は曽祖父に会う。

【毎日昼の12時に更新します】



この作品には以降のストックがありません。

そのため書き上げてからの投稿となるので一日一回の更新となります。

すみませんが、よろしくお願いいたします。



 


 その日の夕方。

 三ヶ木ゆうの姿は自宅にあった。

 広大な敷地を持つ屋敷の一角にある離れの洋間にいたのだ。




「ゆう、学校の暮らしはどうだ? 

 もう友達はできたか?」




 曾祖父の三ヶ木(みかげ)又一(またいち)が一時帰宅していたからである。

 又一は常に病床にあり、健康状態が安定したことから総合病院から先日、帰ってきたのであった。




「ええ。とても楽しいですわ。

 お友達もできました。千木良きいって言うとても元気な女の子なの」




 ゆうはなるべく楽しげにそのことを話す。

 実は又一は余命幾ばくもない身であったからだった。

 なのでできるだけ楽しい話題を話すつもりでいたのだ。




 平日にも関わらず、ゆうが実家に帰ったのは、この又一に話があるからだ。




「そうか。

 ……青春時代の友人は一生ものだから、大事にするのだぞ」




 ベッドから身を起こした又一はそう笑顔でゆうに言うのであった。




「ひいおじいさま。

 今日はお話ししたいことがあるので参りました」





「そうか。……お前の話は楽しいが、今日は私に話をさせてくれないか。

 ……若いお前にはつまらない話だとは思うが、私もそう先が長くないのでな……」




「そんな、ひいおじいさまは大丈夫です。

 お元気になってまた私と遊んでくださいな」




 ゆうはそう答えるが、曾祖父の状態はわかっていた。

 曾祖父の病状は末期癌。

 年齢が高いので進行は遅いが確実に身体全体を蝕んでいる。




 病院の医師の見立てではもってここ数日だと言うのであった。

 ゆうは涙を抑えて笑顔を振りまいているのだ。




「お前は優しいな。

 ……そこの引き出しを開けなさい。ああ、そこじゃなくていちばん下の大きな引き出しだ」




「これかしら?」




 言われたゆうは曾祖父が示す引き出しを開けた。




「なにかしら?」




 そこには風呂敷に包まれた小ぶりなものが入っていた。




「開けてみなさい」




「ええ」




 ゆうは結びを解く。

 すると堅い木枠で作られた太鼓が出てきた。

 赤と黄色を基調としていて側面には羽ばたく鳥が彫られている。




「これは太鼓ですね?」




 ゆうは思わず息を呑んだ。

 実は今日、訪れた理由は、

 この太鼓を曽祖父から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それを又一の方から提示されるとは思ってもいなかった。




 この太鼓は昔に一度、又一から見せられたことがある。

 手に入れた由来は聞かされていないが、

 伝説の猿使い垂涎のアイテムだと説明されたことだけを憶えていた。




「ああ。それをお前にやろうと思ってな。

 私が若い頃にもらったものだ。まあ、宝物だな」




「そんな大切なものを私に?」




「お前なら役に立つだろうと思ってな。

 ……鳥が彫られているだろう。それはガルーダだ」




「ガルーダ?

 確かインドネシアの神様じゃないかしら?」




「よく知ってるな。

 ……その彫り物は伊達じゃない。それは神に通じる太鼓だ……」




 そう言った又一は咳き込んだ。

 ゆうは太鼓をサイドテーブルに置くと、毛布を曾祖父にかける。




「少し私の思い出に付き合ってくれ。

 それを手に入れた不思議な話だ……」




 そう言って又一は目をつむり静かに話し出したのであった。




 ■




 今から数十年前。又一はインドネシアの大地にいた。

 辺りは昼でも暗い鬱蒼としたジャングルで、

 顔まで泥まみれになって数時間も歩き続けていたのである。




 肩には小銃。背中には背嚢。足にはゲートル。戦争中だった。

 青年であった三ヶ木又一は陸軍の下士官として南方戦線に赴いていたのだ。



 

 又一がいるのは大きな島の中央部。

 沿岸には街があるが、この辺りに人家は一軒もない。




「三ヶ木。

 ……俺のことは構わん。お前だけでも行ってくれ」




 戦友の川端(かわばた)がそう告げた。

 川端は敵弾を受けて足を負傷していた。




「馬鹿なことを言うな。

 貴様の傷は浅い。……戻れば軍医殿が診てくれるんだ。しっかりしろっ」




 そう答えた又一だが川端の状態は芳しくないのは知っていた。

 応急処置として止血していたが、血が止まらないのだ。




 三ヶ木は辺りを伺う。

 幾重にも幾重にも枝葉が重なった緑の闇、ときおり聞こえる気味の悪い鳥の声。

 これだけ深いジャングルの中なので敵の追撃は受けないだろうが、

 自分たちの身の安全も保証がなかった。




 戦線は崩れていた。

 日本軍は総崩れで圧倒的な物量を誇る米軍の前に屈しようとしていた。

 それが前線の三ヶ木たちにもわかっていた。




 いや、わかってしまっていた。




 敵の攻撃以外にも深刻な問題があった。

 川端の治療に使う医薬品はもちろんだが、それ以前に食料がない。

 そのため空腹で目が回りそうである。もう二日間まともな食事は取ってない。




 そして部隊は米軍の集中攻撃のためにちりぢりとなり、仲間と連絡を取る術もない。




「俺は食料を探してくる。

 川端はそこで休んでいてくれ」




 そう言い残して三ヶ木は膝上まで水につかりながら先へと進んだ。




 川端が又一に言った言葉、俺を見捨てろの意味はわかっていた。

 ただでさえ生き残れるかどうかわからないのである。

 重荷は捨てた方が賢明に違いない。……しかし。




「……だからと言って戦友を見捨てるわけには……」




 又一は首を振る。

 そして恥じた。一瞬でも川端を置いて行こうと思った自分が情けなくなったのだ。




「……はは。俺は泣いているのか?」




 気がつくと視界がぼやけていた。

 目から次々と熱い涙があふれている。

 敵に追われる恐怖からなのか、仲間を見捨てようとした恥ずかしさからなのか、

 それとも空腹だからなのか、とにかく涙が止まらない。




「……クソッ」




 又一は涙を拭う。何度も何度も拭う。

 そしてそのときだった。




 前方の斜面の上からカサリと音がした。

 枝葉をかき分ける音だ。




「……っ!」




 身構えた又一だったが、ぎょっとした。




 ――そこに人がいた。




 それも金色(こんじき)の人だった。

 木漏れ日から差し込んだ日の光を浴びて全身がきらきらと輝いているのだ。




「……俺は夢か幻を見ているのか?」




 金色の人はしばらく又一を見つめていた。

 だが、やがて手招きを始める。どうやらこっちに来いと伝えているようだ。




「ま、待ってくれっ……。な、仲間が怪我をしてるんだっ」




 乾きで張り付いたのどから、ようやく絞り声を出した又一はガサガサと草をかき分けて、

 川端の元に行くのであった。




 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「いらぬ神に祟りなし」連載中


「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み

「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み

「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み

「墓場でdabada」完結済み 

「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み

「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み

「空から来たりて杖を振る」完結済み

「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み

「こころのこりエンドレス」完結済み

「沈黙のシスターとその戒律」完結済み


 も、よろしくお願いいたします。

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