20「第二話 出現」第二話最終話 私はワヒーラの上位種を知ってしまう。
第二話が終わりました。
締めの第三話の件です。
プロットはあるのですが細部が決まっておらず、
このままでは見切り発車になってしまいます。
そのため、細部を決定してから更新したいと思います。
3月18日の昼12時に次の更新を致します。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
その間、もちろんヤマトの攻撃は止んでいて、
獣の攻撃範囲から逃れるために上空に避難していた。
ただ月明かりがあるとは言え、夜空を舞う鳥を見分けるのは難しい。
ときおり啼き声がすることで存在がわかるだけである。
結果、攻撃はムサシのみとなったため、
減らすネズミたちの数が少なくなったことから、
ジェヴォーダンの獣は勢いを取り戻しつつあり、きいたちは苦戦していた。
だが、きいにはヨウコを責めるつもりは毛頭ない。
「大好きな勇平さんがいなくなっちゃったんだっ。
もう少しだけでも、
ヨウコちゃんには休んでもらうんだっ」
きいの本来の性格から考えると、ヨウコを休ませることも、
それ以上に勇平の消失に伴う頼りにできる人物不在の状況は、
完全に想定外で、ここまで戦うことはできない。
だが、勇平に託されたことと、ムサシを意のままに操れ始めている状況が、
きいを強気にさせていた。
それは、――覚醒と言っても良い。
そしてそんなときだった。
ムサシの噛みつきが腹部に入ったことで、
獣はその身を霧散させ多数のネズミたちへと再び姿を変えたのだ。
「きい、ここでなんとかしないと、
またいつまでも繰り返すだけ。
……千日手よ!」
「……せんにちて?」
「あー、ごめん。
詳しくは後で説明するわ。
要するにキリがないって意味!」
「イエッサー」
と答えたものの、正直、対策は思い浮かばない。
例えムサシが四足すべてを使って捕殺しても、
一度に四匹しか倒せないのだ。
……ムサシがぶっ飛ばすってのはどうかなっ?
ふいにそんな考えが浮かんだ。
するとそのイメージが動きとなって、きいの脳裏に浮かんだのだ。
それはムサシの身震いだった。
ムサシは水浴びや風呂が好きだった。
そしてきいは初めて飼った動物がムサシだったことで、
その嬉しさのあまりから風呂もいっしょに入っていたのだ。
そしてムサシは湯船から上がるとき、シャワーで石鹸の泡を落とすときなどに、
全身を震わせて水気を飛ばすことをよくやっていた。
イヌがするのと同じ行為で、側にいるきいはびしょ濡れになるのだが、
ムサシが気持ちよさそうなので、嫌な気分にはなっていない。
きいは、ネズミたちをムサシがぶっ飛ばすイメージを、
その水気を吹き飛ばすシーンと重ねたのだ。
「きっと行けるっ。
ムサシ、ネズミたちをぶっ飛ばしてっ!」
きいはムサシができないことは命じられない。
先日、ムサシに空を飛べと命じて失敗したし、
勇平にもできないことをさせるのは不可能だと忠告されている。
でも、なぜかできる気がする。
なぜならば、きいを見つめるムサシの目がそう告げているからだ。
「思いっきりっ、ビューンっと吹き飛ばしてっ!」
ッーーーーー!
人には聞こえぬ笛の音が辺り一帯に響き渡る。
――あり得ないことが起こった。
ムサシはきいに命ぜられるままに、身を屈めたかと思うと、
そのままその巨体全身でブルブルブルッと身を震わせた。
すると、最初は木の葉、そして小枝、轢き潰された死骸、次には小型のクマネズミ、
そして大型のドブネズミが次々と舞い上がったかと思うと、徐々に加速を付けて
四方八方にてんでバラバラとなり吹き飛んだのだ。
猛烈に渦を巻く風の中には真空も発生したようで、巻き込まれたネズミたちの
血飛沫が空間を真っ赤に染めた。
やがて竜巻のような風が収まり静寂が訪れた。
そこには仁王立ちのムサシと、きい、ゆう、ヨウコ、そして純平の姿しかなかった。
あれだけ無数にいたネズミたちが、跡形もなく吹き飛び細切れにされ消滅していたのだ。
「……ムサシ、スゴイっ!」
きいはダッシュでムサシに駆け寄り、その大きな頭に飛びついた。
そして左右の腕で抱擁しながら撫で回す。
そのときピュィーーーっと啼き声がして、ヤマトが舞い降りてきた。
そしてヨウコの腕に止まる。
だが、ヨウコはそれに意識を割いていない。
余りの驚きでムサシから目が離せなかったのだ。
「……ムサシ、風を起こした……」
そして、そう呟いた。
「ええ。まるで風の魔法でも使ったみたいだわ」
ゆうが呆然としながらも答える。
「ムサシはワヒーラっていう可能性があるって兄が言ってたけど、
ワヒーラってそんな術を使えるのかい……?」
「……ないわ。ワヒーラは伝説の巨大オオカミ。
大きいのと身体能力の高さはふつうのオオカミ以上だけど、そんなことはできない。
……できるとしたら、ワヒーラの上位種……」
「高見澤さん。ワヒーラの上位種って、なにかしら?」
ゆうはヨウコに向き直った。
純平も話の行方に注目し無言でヨウコを見つめている。
そしてヨウコはムサシときいを見つめていた。
「……ワヒーラの上位種は、
……フェンリル……」
ゆうと純平が息を呑んだ。
二人ともその名前は知っていた。
だがそれは、おとぎ話の中に登場する怪物であって、
現実に名前を聞く存在だとは思っていなかったのだ。
深夜の公園の噴水前。
ジェヴォーダンの獣が出現し、戦いとなった。
そして勇平が天に召され、獣の正体であった無数のネズミたちが消失した。
その戦いなどまるでなかったかのように、静寂があり、痕跡はなかった。
「……千木良さん。あなたいったい何者なの……?」
ぽつんと呟いたヨウコはムサシときいの元へと歩を進めたのであった。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「いらぬ神に祟りなし」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




