17「第二話 出現」 私は深くイメージする。
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そのため書き上げてからの投稿となるので一日一回の更新となります。
すみませんが、よろしくお願いいたします。
そしてそのときだった。
グワゥーーーーッ!!
先頭のジェヴォーダンの獣が合図のように咆哮すると、
後方の四頭が一気に跳躍してきたのだ。
その高みは地上五メートルに達していた。
空中で頭を下にした獣たちは逆落としに牙を剥いた口から、
地上のきいたちを狙う。
「きゃあ……っ!」
ゆうが悲鳴を上げる。
「うぎゃああああっ!」
きいも悲鳴を上げる。
だが、ゆうのような乙女な悲鳴ではなかった。
そのときだった。
「身体を低くしていて。
そして絶対に動かないでっ!」
勇平だった。
勇平がきいたちにそう告げたのだ。
きい、ゆう、純平は言われるがままにそうするが、元々恐怖で動けない。
そして勇平はピィーーーーッ! と指笛を吹く。
バウッ!
準備万端で身構えていたムサシが吠えた。
そして一瞬だけ身を屈めると、
それをバネにして一気に上空へと跳躍したのであった。
「ムサシっ。お願いっ」
きいが祈りにも似た叫びを上げる。
それが効いたのかは不明だが、
ムサシは空中で身を固めると一撃で五頭を弾き飛ばした。
「スゴイっ!!」
きいは感嘆の声を上げる。
自分よりも大きなジェヴォーダンの獣たちを空中で蹴散らす。
考えられる理由としては質量の差があるのかもしれない。
見た目と異なり獣たちは自重が軽いと思われた。
ずっしりと身が詰まったムサシとは重さが違うのは明らかなのだ。
ヴボォォォー……!
ヴボォォォー……!
ヴボォォォー……!
ヴボォォォー……!
ヴボォォォー……!
空振りで地に落とされたジェヴォーダンの獣たちが一斉に吠える。
すると驚いたことに、互いに身を寄せ合ったのだ。
異変が起きた。
一頭に一頭が重なって、また次の一頭が重なる。
それを繰り返すことで、あり得ない事態が発生した。
――ジェヴォーダンの獣が合体して巨大化したのだ。
きい、ゆう、純平は言葉を失った。
それは理解の外の現象に圧倒されてしまったのだ。
ジェヴォーダンの獣は生忌物と聞いている。
生忌物とは化け物のことだ。
だが、化け物と言っても見た目からして生物に違いないと思っていた。
ところが肉体と肉体が融合して巨大化する事態を目の当たりにしたときに、
今まで自分たちが知り得ていた知識が、
まったく通用しないことを知ったからであった。
「――千木良さん、
イヌたちを公園から逃してくれないか?」
「えっ……?
ワンコたちをですかっ?」
「ああ。
彼らは僕を慕って集まってくれただけなんだ。
怪我をさせる訳には絶対にいかないんだ」
「わ、わかりましたっ」
きいは犬笛を取り出そうと服の中に手を入れている。
首から細い鎖で下げていて、
ネックレスにして身に着けているからだ。
「そして残念だけど、
君たち三人はこのまま居残った方が安全だ。
人間の足は遅いからね。
あっと言う間にヤツら追いつかれてしまう」
勇平の言葉にきい、ゆう、純平は頷いた。
「じゃ、じゃあ、みんな公園の外に逃げて。
お家に帰っていいんだよっ」
ッーー……。
きいが人には聞こえぬ笛を吹いた。
すると変化が起こる。
それまで勇平の指示で固まって静かにしていたイヌたちが、
そわそわし始めたのだ。
「えっ。えっ。
……ど、どうしてっ?」
確かにイヌたちは動いた。
だが動いたのはチワワのような小型犬だけだった。
そしてその小犬たちだが、ばらばらの方向にのろのろと歩き出すだけなのだ。
「ゆうへ、……っ」
この事態に戸惑ったきいは、勇平に助けを求めようとした。
だが、勇平を見て止めた。
勇平はしきりに指笛でムサシを動かしていて、
こちらを見る余裕はなさそうだったからだ。
……イメージが大切。
きいは勇平から言われたことを思い出した。
……そっか。
みんな、ここから逃げてっ、じゃ、ワンコたちには通じないんだっ……。
きいはイメージした。
足の速さは大型犬の方が速い。
そして身体の強さも大型犬の方が強い。
ならば……。
きいはイメージした。
脳裏に詳細な想像をして、確固たる映像を思い描く。
そしてそのイメージのままに、再び犬笛を吹くのであった。
すると大きな変化があった。
レトリバーやジャーマンシェパード、セントバーナードと言った大きなイヌたちが、
小犬たちの首根っこを咥えると自分の背に乗せたのだ。
そして数匹ずつ乗せると大きな犬は公園の外へと走り出す。
中型犬の柴犬やシェットランドシープドッグなどは、自力で逃走を始めたが、
コーギーなどの足が短いイヌはやはり大型犬の背に乗っての移動となっていた。
「きい、お見事よ」
ゆうが称賛の言葉を送ってきた。
そして戦いである。
ムサシと巨大化したジェヴォーダンの獣の戦いが始まっていた。
ヴァルルル……。
グガァァァ……。
互いに咆哮しながら突進し、噛みつこうとし、空振りに終わり距離を取る。
そんな争い方をしていた。
だが、そんな戦いに変化が起きた。
体格は劣るが勝負は互角だったのだが、ムサシが獣の喉笛に噛みつこうとすると、
獣の身体が霧のように実体が消えてしまう。
つまり霧散してしまうのだ。
だが獣はすぐに実体化して、
ムサシの側面や後方に回り込んで、身体に噛み傷を与えてしまう。
その傷も最初はかすり傷程度だったのだが、回を重ねるごとに傷は深くなっていた。
それだけムサシの体力が消耗し、流れた血液が多くなり動きが鈍くなっているのがわかる。
――実体の消失。
……これがジェヴォーダンの獣が捕獲できなかった真の理由だった。
十八世紀のフランス人たちも獣を退治しようとした。
だが追い詰めても追い詰めても、煙のように姿を消してしまうのだ。
特に夜間に出没することから、一度見失ってしまえば再び視認することは難しい。
「ムサシ、大丈夫かなっ……」
きいがハラハラして見ている。
「……姿を消してしまうんだもの。
いくら勇平さんが戌使いの達人でも、難しいのよ……。
せめて一撃だけでもいいから深手を与えられば、状況は逆転する可能性があるわ」
ゆうが状況を冷静に判断する。
そんなときだった。
満月の夜空高くから、
ピュィーーーーーと甲高い啼き声が聞こえてきたのであった。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「いらぬ神に祟りなし」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




