14「第二話 出現」 私は三人で勇平と会う。
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そのため書き上げてからの投稿となるので一日一回の更新となります。
すみませんが、よろしくお願いいたします。
午前零時過ぎ。
寮では生徒たちがすっかり寝静まっている頃合いである。
月明かりが照らす濃い影を引いて、きいとムサシ、そしてゆうと純平が、
すでに学校を抜けて街灯が少ない夜道を歩いていた。
今夜は毎夜のようにムサシが抜け出すのを待っていない。
それはすでに津久井勇平と約束があるからで、
むしろ寝ているムサシを揺り起こしての出発だった。
「もっと早くこうすべきだったのよ。
純平くんのお兄さんと大事なきいを二人っきりにさせとく訳には行きません」
「ええっ。ムサシもたくさんのワンコたちもいるんだよっ。
二人っきりじゃないよっ」
「人間のことを言っています。
きいは女の子です。そして相手は幽霊かもしれないけれど、男の人です。
辺りは真っ暗で二人きりなのです」
別に怒っている訳ではないが、
いつもよく見せる冗談交じりの口調とは違い、ゆうは真面目に返答していた。
そして純平だが、終始無言だった。
それは仕方ないだろう。
なぜならば亡くなった兄が待っているのだ。
現実にはあり得ないとしか考えられないのだが、
これまでのあらゆる状況から兄がいるのは確実だと判断していた。
死に別れた兄と会える。
その事自体に嬉しさは多過ぎる程ある。
だがそれ以上に兄がこの世に居残っていることは、
きっと深い理由があるんだろうと考えると、
再会が望外の喜びだと簡単には割り切れない。
夜道は誰もいない。
元々郊外にある農業高校から街外れにある公園へと目指しているのだ。
時折、ヘッドライトを灯した自動車がすれ違うくらいである。
未舗装の道からアスファルトの道へと入った。
そしてしばらく歩くと巨大なホームセンターの建物が見えた。
もちろん明かりはない。
そしてやがて公園に着いた。
今夜も人気はないが、イヌたちがワンワンと鳴いているのがわかる。
「勇平さん、いるかなっ?」
あくまで呑気なきいの声が響く。
「……きっといるわ。これだけイヌたちがいるんだもの……」
状況証拠から否定はできない。
だが心底までは信じ切っていない、ゆうの呟きが聞こえる。
「……。いるんだろう。いや、いて欲しい」
肯定はしている。
だけど非現実的な状況を事前に確実視はできないと、
あくまで冷静な性格の純平は戸惑いが残っている状況だった。
そして到着した噴水前。
そこは広い空間で、
周りには樹齢数十年を超える見上げるほどの大木が多い茂っている。
だが噴水前は開けた場所になっているので、
天上からの月光が遮られることなく、光はたっぷりと降り注いでいた。
大型犬から小型犬までイヌたちが輪になって集まっていた。
そのほとんどが首輪をし、しかも血統書付きの犬種であることから、
誰かに飼育されているペットだとわかる。
おそらくたぶん、なんらかの方法で自宅を抜け出してここに集まっているのは、
諸事情に鈍い千木良きいは別としても、三ケ木ゆうと津久井純平にはわかった。
そして、そのイヌたちの中心に、今夜も勇平の姿があった。
「なんだい? 今日はお客さんが多いな」
勇平はブルドッグを思われるイヌの下顎を撫でていた。
そしてきいたちに気づいて視線を上げたのだ。
「ごめんなさいっ。みんな着いてきちゃったんですっ」
「構わないよ。君が君の判断で連れてきたのだから、
僕には異存はないよ」
悪気などまったくない、きいが元気いっぱいに答えたことに対して、
勇平は納得したように深く頷いた。
言葉通りに別段、不快に思っていないようだった。
「そちらのお嬢さんは?」
勇平が、ゆうを見た。
「三ケ木ゆうと言います。千木良きいの親友です」
ゆうの名乗りを聞いた勇平は少し考えるような表情を見せた。
「……三ケ木と言うと獣医の三ケ木先生の縁者かな?」
「はい。私は娘です」
ゆうは静かに頷いた。礼儀が十分な正しい仕草だった。
「そうか。先生の娘さんか。
あの先生にこんなキレイなお嬢さんがいるとは知らなかった。
先生にはムサシのことで、とてもお世話になったんだよ」
勇平は三ケ木を知っている。正確にはゆうの父親を知っている。
それは以前にムサシを治療してもらったことがあったからだ。
戦いで傷が絶えないムサシだが、あるとき重傷を追ってしまい、
そのことで名医の三ケ木獣医にお世話になったのだ。
「……兄さん。僕についてはなにも訊かないの?」
沈黙を破って純平が勇平に話しかけた。
千木良きいと三ケ木ゆうは思わず二人を見比べる。
顔といい、背格好といい、二人は本当によく似ていた。
兄弟だから当たり前と言ってしまえばそれっきりのことだが、
例え双子だと言われたとしても、あまりにも似ていた。
実際に二人は双子ではない。
勇平と純平は二歳違いの兄弟であり、背丈は兄の勇平の方が生前は大きかった。
ただ、勇平は亡くなった時から成長していないだけで、純平が兄の死後二年で、
兄の背格好に追いついただけだ。
「なんだい、純平。拗ねているのか?」
「そ、そんな訳じゃないけど。……本当に勇平兄さんなのかい?」
嘘である。
実際には、きいやゆうにだけ話しかけていた兄に嫉妬していたのだ。
だが純平はその感情を抑えた。
それはこの年頃の少年に取って簡単にできることではない。
そのことからも純平が冷静沈着な少年だと伺い知れる。
純平が自制できたのは、ここで大事なのは兄に甘えることじゃなくて、
兄がここに現れた理由を知ることが優先事項だと判断できたからだ。
「そうだね。僕は勇平さ。
……もちろんもう死んでるけどね……」
「兄さん。ど、どうして、いったい?」
「この世に未練があると成仏できないって本当なんだね。
僕は月がきれいな夜になると、こうやって姿を現せるようなんだ」
「未練? 未練ってなんだい?」
そのとき、雲が流れて天上の月が少し隠れた。
隠れたのはほんの一部であったが、地上を照らす明るさは、
半分以下になったと思えるほど暗くなり、それまで鮮明だった、
きい、ゆう、純平、そして勇平の表情を隠してしまった。
「……さあ、……それは……たぶんムサシに関すること……。
……ムサシを操れる戌使いを育てることかな?」
勇平はそう告げると、
遠い目をして雲が去って再び輝き始めた月を見上げるのであった。
「今夜はお客さんが多い。
他にもいるようだし……。
今夜の目的は千木良さんに戌使いの極意を覚えてもらうことなんだ。
だから世間話はこれまでとしよう。
千木良さん?」
「は、はいっ!」
きいは妙ちくりんな裏返った声で返答してしまった。
それはこれまでのシリアスな会話の中に自分が関わることなどないと思っていたので、
傍観していたからだ。
「……イヌはかなりのことができる。
でも決して鳥でも魚でもないし、ましてや人間でもない。
だからその身体上できることとできないことを常に頭に入れておく必要があるんだ。
わかりやすく言えば、鳥じゃないから空は飛べないし、魚じゃないから息継ぎもなく、
ずっと水の中で泳げる訳じゃない。
そして人間と違って四足な訳だから、
前足を人間の両手のように器用に使いこなせる訳じゃない。わかるよね?」
「はいっ」
きいは元気よく返事した。
勇平の説明はわかりやすい。難解な言葉を含まずに的確に伝えてくれるからだ。
もしかしたらきいの理解力がわかっていて、そのようにしてくれているのかもしれない。
そして、いつぞやムサシに空を飛んでと命令したことは、
論外だったと言うことを理解した。
「戌使いはイメージを笛に乗せて戌に伝えるんだ」
「イメージですかっ?」
勇平の講義は続く。
イメージの瞬時の構築と熟成。
それが大事だと、きいは教わった。
それはゆうを暴れ牛の群れから助けたときだ。
ふつうの人だったらその場面、ゆうが助かるイメージを浮かべてしまうらしい。
そうすると戌は実際に自分がどう動けば良いのか判断に迷い、
対応が遅れると言うのだ。
だが戌使いであれば、ゆうがどう助かるのかではなく、
戌がどう動けば助けられるかをイメージを伝えるので戌が動きやすいとの説明だった。
「わかりましたっ。ありがとうございますっ」
きいはとても満足していた。
こんな充実した時間を経験できるなんて、心の底から幸せだと感じていた。
――そのときだった。
途端に勇平が身構え、
のんびり伏せっていたムサシがガバっと立ち上がったのだ。
そして、なにやらただならぬ気配が漂ってきた。
その気配は邪悪。
邪悪な気配はかなり強烈であった。
そのことから、事情がわからないきいやゆう、
そして純平もそのことを察知できたのであった。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
私の別作品
「いらぬ神に祟りなし」連載中
「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」完結済み
「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み
「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み
「墓場でdabada」完結済み
「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み
「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み
「空から来たりて杖を振る」完結済み
「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み
「こころのこりエンドレス」完結済み
「沈黙のシスターとその戒律」完結済み
も、よろしくお願いいたします。




