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生忌物倶楽部  作者: 鬼居かます
11/55

11「第二話 出現」 私はそして戌使いになるべく特訓をする。

【毎日昼の12時に更新します】



この作品には以降のストックがありません。

そのため書き上げてからの投稿となるので一日一回の更新となります。

すみませんが、よろしくお願いいたします。



 

 すると少年は、ふと夜空を見上げた。

 そしてどこか遠い目になった。

 まるで昔の思い出に浸るような、懐かしさを感じている目だった。




「……あいつは今でも馬に囲まれているのかい?」




 視線をきいに戻して少年が問う。




「うん。馬好きだよっ。馬術部なんだってっ。

 カッコいいよねっ」




 きいはカッコいいと言い切った。

 だが、きいに取って、カッコいいのは純平(じゅんぺい)の顔ではない。

 馬を手懐けている能力がカッコいいのであって、容姿はどうでもいい。

 それが千木良きいと言う少女の異性観である。



「そうか……」




 きいのそういう性格がわかったのかどうかは不明だが、

 少年は楽しそうな顔になった。




「ねえ、あなたは誰なのっ? 津久井(つくい)くんそっくりだよねっ?」




 きいは目下最大の関心事を口にした。

 誰がどう見ても津久井純平にしか見えないこの少年の正体を知りたいのだ。




「僕は津久井勇平(ゆうへい)




 少年は短くそう答えた。




「ゆうへいっ? 誰っ?」




 きいは驚きを感じつつも、

 意味がわかっていないことで質問を繰り返す。




「あはは。

 同じ苗字で似た名前だから想像がつくと思ったんだけどね。

 ……僕は純平の兄なんだ」




「お兄ちゃんだったんだっ?」




 納得だった。

 だったら容姿が似ていても、名前が似ていても、不思議はないからだ。




「君はムサシの相棒なんだよね? だったらおもしろいものを見せてあげる」




 そう言うと、勇平は短く口笛を吹いた。

 すると変化が起こった。



 勇平を囲むように輪になっていたたくさんのイヌたちが、

 そこから移動して、勇平の前に一列に並んだのだ。

 もちろんムサシも移動した。ムサシは巨大だからか最後尾だった。




 そして勇平は左手で先頭の一匹の顎を支え、右手で頭を十分に撫でた。

 すると撫でられたイヌは尻尾を盛んに振って喜びを爆発させていたのだ。



 やがてしっかり撫で終わった後、先頭のイヌは順番を次のイヌに譲るべく、

 その場から移動した。

 そして次のイヌを勇平は撫でたのであった。




「すごいねっ。

 どうしたらワンコたちとそんなに仲良くできるの?」




 目をキラキラさせて、きいが質問する。

 その表情と声色には、しっかり憧れが混ざっていた。




「ははは。

 ……僕は戌使い(いぬつかい)だからね。

 イヌとは親友であり、家族みたいなものなんだよ」




「戌使いっ? ……動物使いみたいなものっ?」




「そうだね。

 似たようなものだけど、戌使いはイヌだけしか扱えないよ。


 その代わりイヌならば群れすべてを操れる。

 ……だからイヌに特化した動物使いだと思えばいいよ」




「す、すごいっ! 私もなれるかなっ!?」




 きいは勇平に掴まんばかりに接近し、猛然と尋ねる。

 目がギラギラに輝いていて、もはや態度は尋常じゃない。




「君はすでにムサシを相棒にしているんだから、できるよ」




 勇平は落ち着いた態度でそう答えた。

 しっかり確信を持った回答だった。




「ええっ!! ホントっ!!」




 勇平の回答にきいは舞い上がる。

 この世のすべての幸せを手に入れてしまったかのような喜びようだ。




「……実はね。僕は君を待っていたんだ。

 ……千木良(ちぎら)きいさん」




「私を知ってるのっ?」




「もちろんだよ。ムサシに聞いたから」




 そう言って勇平は今は撫でられる順番待ちのムサシに視線を向ける。

 まだ何匹かの後に順番が回ってくるムサシだが、勇平ときいの会話がわかったようで、

 舌を出しながらハッハッハッと息を吐き、尻尾を盛んに振っている。




「ええっ! 戌使いってスゴイんだねっ」




「戌使いはイヌの目、鼻、耳から得た情報を共有できるんだ。

 一匹だけじゃなくて、訓練すれば群れ全部とでもできるようになるよ」




「スゴイっ。凄すぎっ!!」




 きいは感激した。

 動物使いになりたいとずっと思っていた。




 そしてムサシと仲良くなったことでイヌを友とすると決めた。

 そのムサシとの延長線上にある戌使いになれば、

 どれだけ素晴らしいことが待っているのかを知ったのだ。




「戌使いの様子をちょっと教えるよ」




 最後尾だったムサシを十分に撫で終わった後に、

 勇平はそう言った。




 そしてピィーッと短く口笛を吹いた。

 するとそれまでめいめいにお座りしていたイヌたちが一斉に跳ね起きると、

 公園出口の方角へと全力疾走を始めたのだ。

 もちろんムサシの巨体も同様だった。




 そして更に勇平は口笛を吹いた。

 すると今度はイヌたちが一斉にこちら側に方向転換して、更に三列に分かれて、

 陣形を作り、勇平ときいを包囲した形で静止した。




 その際に小柄なイヌは最前列に、その次が中型犬、最奥の列には大型犬と並び、

 すべてのイヌたちが勇平から見える配置に付いていた。

 むろん巨大なムサシは奥の奥に構えている。




「……す、すごいっ……!」




 きいはただ見惚れるしかなかった。




「イヌは元々群れて暮らす動物だからね。行動も軍隊的なのが得意なんだ。

 個々に操ることも可能ではあるけれど、戦い方を考慮しても集団で動かす方が

 適しているんだよ。

 ……本当は口笛じゃなくて、犬笛の方が確実なんだけどね」



「犬笛? ……これのこと?」




「……驚いたな。それは?」




「うん。ムサシがくれたんだ。たぶん霊園のお墓から持ってきてくれたんだよっ」




 きいはムサシを手招いた。

 するとムサシは尻尾を振りながら最前列を越えてきいの元へとやって来た。




 そしてきいが犬笛を差し出すと、その臭いを嗅ぎ、

 きいと勇平を見比べるような視線を向けてきた。




「そうだったんだね。……じゃあ、それを使ってみよう」




 きいは勇平に教わるまま、犬笛を使ってみることになった。

 動かす相手はムサシ一頭だけとした。

 それはまだ、きいの実力では群れを操ることは無理だからだ。




「笛の音自体に意味はないんだ。

 あくまで頭で描いた行動のイメージを思い浮かべて、

 それを笛の音に乗せるつもりで……」




「こうかなっ!」




 きいはイメージした動きを笛の音乗せてムサシに伝えた。

 するとムサシはその意図をしっかりと理解して、全力疾走したり、

 跳ねたり、伏せやお座りをしたりと完璧にこなした。




「もうちょっと複雑なことも、やってみたらどうだろう?」




 勇平がきいにそう伝えてきた。




「複雑?」




「そう。本来の()()()()()()()()()()()()のことだよ」




「ああ、なるほどっ。わかったっ!」




 きいが頭にイメージを構築した。

 そしてそれを犬笛でムサシに伝えた。




 するとムサシはなぜだか一瞬キョトンとした。

 だが、その後に遊具置き場の方へと向かい、そこにあったジャングルジムに

 一足で飛び乗ったのだ。




 そしてそのままの勢いで空中に飛躍した。

 ……だが、そこで四足をバタつかせたまま落下した。




 姿勢を崩したことで背中からの墜落だったが、

 頑丈なムサシは痛みすら感じていない様子だった。




「ああっ。ムサシ、ごめんね。

 やっぱ無理だったよねっ?」




 きいはムサシの元にすっ飛んでいった。

 そして両手でムサシの大きな頭を抱えて頬ずりをして謝ったのだ。




「えと、千木良さん? 

 ムサシにどんな命令を……?」




 勇平が戸惑いの表情を浮かべながら歩み寄ってきた。




「うんとねっ。ムサシに空を飛んでっ、って、お願いしたのっ」




「……それ無理だよ。いくらムサシでも……」




「そうだよねっ。本来の()()()()()()()()()()()()ってことだから、

 イヌは空を飛ばないから、それだと思っちゃたんだよっ」




 勇平は苦笑した。

 そしてそのままの表情で、ボソッと呟いた。




「……例えば、落ちている枝で小石をゴルフのように打ってみて、とか、

 小石を蹴って目標に当てて、とかのつもりだったんだけど……」




 どうやら、きいの思考回路は勇平の遥か斜め上を行っているようだった。




「勇平さん。いっぱいいっぱい、ありがとうっ」




 きいは指導のお礼を言った。

 もうここに来てから二時間は経過していた。

 そろそろ帰らないと、朝の起床に差し支える。




「それは良かった。

 また良ければ来なよ。明日の夜にでも」




「うん。お願いしますっ」




 そう答えたきいは、満面の笑みでムサシを伴って寮へと帰宅するのであった。





 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」連載中


「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み

「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み

「墓場でdabada」完結済み 

「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み

「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み

「空から来たりて杖を振る」完結済み

「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み

「こころのこりエンドレス」完結済み

「沈黙のシスターとその戒律」完結済み


 も、よろしくお願いいたします。

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