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生忌物倶楽部  作者: 鬼居かます
10/55

10「第二話 出現」 私はそして再会する。

【毎日昼の12時に更新します】



この作品には以降のストックがありません。

そのため書き上げてからの投稿となるので一日一回の更新となります。

すみませんが、よろしくお願いいたします。



 真夜中。

 同室の三ケ木ゆうとワオキツネザルのジャンボが寝静まった。

 そんな中、千木良きいは眠気と戦っていた。




 それはもちろん、きいとゆうの二人のベッドの間の床に眠るムサシが、

 出かけるのを監視しているためだ。

 そして、きいがいよいよ眠さに負けそうな頃、ムサシがムクリと立ち上がった。

 そしてブルリと身体を一振りすると、

 方向転換して廊下へとつながるドアを開けて出ていったのだ。




「やっぱり今夜も出かけるんだっ……」




 きいは予め外出用ジャージに着替えていた。

 そしてこれまた用意していた懐中電灯や万能ナイフ、

 そしてロープなどを入れていたリュックを背負うと、

 ゆうを起こさないように静かに部屋を後にするのだった。




 常夜灯が灯る薄暗い廊下の先を進むムサシの巨体が見える。

 ムサシは走りこそしないものの、早足で玄関方面へと向かい、

 例の鍵が開けっ放しの大きな窓を爪先で開けると、巨体を外へと滑らせた。

 それを見て、きいも同じ窓から身を外へと出るのであった。




 そしてムサシは校舎の影を通り、通用門方面へと進む。

 だが、きいもなんどか行っている霊園の方に向かうには最適の箇所を通り過ぎた。

 そしてそのまま歩き続け、第一農場と校庭の間の小道を進む。




「あれ? 今夜はお墓の方じゃないっ。

 ……だとしたら、ひょっとして公園? 

 ええっ? やっぱヨウコちゃんが言っていた通りみたいっ」




 ■




 それは、昼休みのことだった。

 食堂で食事を終えたきいとゆうだったが、ゆうが職員室に用事があるとのことで、

 きいは一人で教室へ戻ろうとしていたのだ。




「あれ? ヨウコちゃん?」




 高見澤ヨウコだった。

 ヨウコは中庭の木々に囲まれたベンチで一人でいたのだ。

 そこは欲言えば質実剛健、そのまま言ってしまえば、

 ただ費用がかかっていないだけの校内施設の中で唯一と言っていい、

 お金がちゃんと使われた場所だった。




 ここにはイギリス庭園を意識して、

 バラが丁寧に植えられ育てられた色と香りが鮮やかな薔薇園が設けられている。

 そこには肩に壺を抱えた白く作られた銅製の女性像が流す水があふれる泉があるのだ。




 そして更に象嵌見事な白い鉄製のベンチがあり、

 その前には円柱形の薔薇模様のテーブルが置かれている。




 ここは農業科園芸コースの生徒たちが、

 丹精込めて手入れしている学校自慢の薔薇園なのだが、

 昼食はほぼすべての生徒たちが農業食堂にて済ませることから、

 ロケーションが良いにも関わらず昼休みに人の影は皆無なのだ。




 そこでヨウコがペットボトルのお茶を片手におにぎりを食べていた。

 どうやら昼食は一人で食べる派のようだ。




 ちょうど教室への近道だったこともあり、

 きいはベンチを目指し、近づいたときにヨウコに話しかけた。




「おにぎり、好きなのっ?」




 するとヨウコはちらりとこちらを一瞥し、

 来たのがきいだとわかると小さくだがため息をついた。




「なんの用?」




「おにぎりが好きなのかなっ? って思って」




「……まあ嫌いじゃない。サンドイッチより好きだと思う」




 ぶっきらぼうだが、いちおう会話が成立する返事があった。




「あれ? ヤマトはいないの?」




 きいは辺りを見回した。

 薔薇が咲き乱れ、気持ちの良い花の香りが漂うこの場所に、

 オウギワシのヤマトの姿はなかった。

 いつもヨウコといっしょなのに珍しいと思ったのだ。




 するとヨウコは天を指さした。




「いるわ。今は周囲を警戒しているとこ」




 言われたきいは空を見上げる。

 するとヤマトが大きな弧を描き緩やかに旋回しているのが見えた。

 優雅で美しいと思った。




「あなたはムサシといっしょじゃないの? 相棒なんでしょ?」




 目つき鋭くヨウコが尋ねた。

 その視線には、きいの相棒にムサシは過分だと言わんばかりの意味が込められていた。




「たはは……。私、相棒失格かもなんだよねっ」




「失格?」




「うん。……ムサシが、ときどきどっか行っちゃうんだっ。

 昼間はいっしょにいてくれるんだけど、夜になるといなくなることがあるんだよっ」




 きいは正直に話した。

 なぜかヨウコに対してはムサシに関して隠し事をしては、

 いけないような気がしていたからだ。




 そしてヨウコは態度を軟化させた。

 それは正直に答えたきいに対して、

 キツイ応対をする必要もないだろう、と思ったからだ。




 誤解されやすいが、ヨウコは誰に対しても常に拒絶の態度を取っている訳ではない。

 自分に対して隠し立てがない相手には、それなりの応対をする性格なのである。




「そう言えばだけど、

 以前、夜にホームセンターの並びにある大きな公園で、

 ムサシを見かけたような気がする」




「ええっ! ホントっ……!?」




 きいは驚きのあまり大きな声になる。

 だが幸いここにはヨウコときいの二人しかいない。




「公園の真ん中に噴水があるでしょ? 

 あそこの前でたくさんのイヌたちが集まっていたのを見た。

 その中で馬くらい大きいイヌがいたけど、

 あなたの姿が見えないから、ムサシだとは確信が持てなかった」




 そう言うのであった。




「それ、ムサシだよっ。

 ……でもワンコの集会か。前はお墓で見たんだけどっ」




「お墓?」




 ヨウコの目が鋭くなった。




「うん。こっから一時間くらい歩いたとこにある霊園。

 そこで夜中にワンコたちがいっぱい集まっていて、津久井くんもいたんだ」




「……津久井? ……それって純平のこと?」




「うん。……でも変なんだ。

 さっき津久井くんに尋ねたら、それは僕じゃないって言うんだよっ」




「そう。そんなことがあったのね……」




 ヨウコは視線を空へと向けて遠い目となった。

 それを見たきいは、ヨウコの態度がとても気になったのだけど、

 どうにも訳ありに思えたので尋ねるのを我慢した。

 きいも場の雰囲気が、わかるときはわかるのである。




 そしてヨウコの腕にヤマトが舞い降りた。

 するとそれを合図にでもしたかのように、

 ヨウコは食事を終えて立ち去ったのであった。




 ■




 そして夜中にムサシを追うきいである。

 人目を避けるように、なるべく暗い道を進んだムサシであった。

 やがて薄暗い角を曲がると、そこは街のホームセンターであった。

 むろん夜中なので営業している訳もなく、真っ暗である。




 昼間はあれだけ人もクルマも賑わっている場所なのに、

 誰の姿もないとなるとその巨大な建築物が逆に人を拒む、

 固くて無機質なモニュメントに思えてくるから不思議だ。




「ああっ、やっぱりヨウコちゃんが言ったとおりに公園に行くんだっ」




 ムサシが通りを曲がり、ホームセンターを通過すると、その先の公園に姿を消したのだ。

 きいも、やや足早になって公園の門をくぐるのであった。




 そしてイヌたちがいた。

 ワンワンと鳴く大小さまざまなイヌたちが、ざっと二十匹もいた。

 そしてその群れの中で一際巨大なのがムサシだった。




 人間のために作られた公園なのに、その人間の姿がまったくない。

 そんな公園をイヌたちが我が物顔で占拠している様子を、

 きいは、不思議で面白いと思った。




 真夜中なので噴水は止まっていた。

 だけどムサシはその無音の噴水に向かって頭を向けている。

 周りのイヌたちもすべて頭の方向は同じで、

 ちょうど、きいに背を向ける形になっていた。




 すべてが同じ方向なので、その中心部になにかがあるのだろうと、きいは思った。

 だがその方角は、ちょうどムサシの巨体で目隠しになってしまっていて、

 詳細はなにもわからない。




「……近づかないとダメだねっ」




 きいは中心にあるものを見極めようとイヌたちに近づいた。

 月明かりと街灯の薄明かりの中、間違って小型犬を踏まぬように、

 きいは細心の注意を払って歩を進めた。

 そしてそんなイヌたちだが、きいには気づいていないかのように、

 近づいて行ってもまったく動揺はない。




 そのときだった。

 あと少しでムサシに触れるかどうかの距離でムサシが立ち上がったのだ。

 そしてそのまま中心部へと歩を進めた。




「……れれ? ムサシ、どうしたの?」




 ムサシはきいの問いかけに振り返る。

 そしてまるで人間がするかのように、

 ひとつ頷くと、きいを噴水の方に来いとでも言うかのように鼻先で指すのだった。




 そしてやがて歩を進めたムサシは伏せの姿勢になる。

 するとそこには少年がいるのが見えた。

 白色の襟付きシャツに茶系のチノパン姿。そして目が隠れるほどの長い前髪……。




「あ、あの人っ……!」




 きいは思わず声を上げた。

 イヌたちの輪の中心部には先日霊園で見かけたあの少年。

 ――津久井純平そっくりの少年がいたのだ。




「……また会ったね」




 少年はムサシを撫でながら、きいを見た。




「あなたは誰なのっ? 津久井純平くんじゃないんだよねっ?」




 すると少年は目を細めたのだった。




「――ああ、そうか。純平に会ったんだね?」




 きいは頷くのであった。


 


よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。


私の別作品

「四季の四姉妹、そしてぼくの関わり方。」連載中


「固茹卵は南洋でもマヨネーズによく似合う」完結済み

「甚だ不本意ながら女人と暮らすことに相成りました」完結済み

「墓場でdabada」完結済み 

「甚だ遺憾ながら、ぼくたちは彼の地へ飛ばされることに相成りました」完結済み

「使命ある異形たちには深い森が相応しい」完結済み

「空から来たりて杖を振る」完結済み

「その身にまとうは鬼子姫神」完結済み

「こころのこりエンドレス」完結済み

「沈黙のシスターとその戒律」完結済み


 も、よろしくお願いいたします。


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