01「第一話 出会い」 私には相棒が必要だ。
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二年前。某国立公園山間部。
あいにくの雨模様の中、消防庁の大型ヘリコプターが飛行していた。
人を捜すためである。
「見えた。あそこだ!」
捜索隊のひとりが山を覆う森の一箇所から登る赤い狼煙を見つけた。
そしてヘリはその狼煙を目指して高度を下げる。
「ん? 鷲か。ずいぶんと大きいな」
別の隊員がそれに気付いた。
ヘリに並行して飛ぶ一羽の大きな鷲がいる。翼長二メールはある巨大な鷲だった。
「ああ、指示書にある鷲だな。オウギワシというらしい。
だとしたら間違いなく彼らがその先にいるということだろう」
やがてヘリは狼煙が登り続けている地点に到着した。
そして更に高度を下げる。
すると眼下に人と獣がいた。
女が二人、そして巨大なイヌが一頭。
女二人がこちらに向かって手を振り、イヌは遠吠えをしているようだった。
「ああ、間違いなく生忌物倶楽部の連中だ。
……ん? 確かもうひとり男と大きなサルがいるはずだったが……」
捜索隊の隊長が首を傾げる。
「まあいい。救助すればわかることだ」
そして隊長は部下に指示した。
真下にはこのヘリコプターが着地できるような広い平地はない。
なので予め用意してきたゴンドラを降ろす命令を出したのだった。
第一話 出会い
――私がワヒーラ、いや、それ以上の存在と出会ったのは、
まだほんの少女のときだった。
私は胸に期待あふれる女子高生として――
「……で、あるからにして……(中略)、諸君らは……(中略)、行いを……(中略)、以上です」
校長の長い長い挨拶が終わった。その間、千木良きい、は、
まったくと言っていいほど話を聞いていなかった。
ただ天を見ていた。
空は真っ青で否が応でも高まる期待が膨らんでくる。
ここは神奈川県立湘南農業高等学校の校庭。
農業と名が付く限りお天道様とは縁深いと言うことで入学式が青空の元で行われていたのだ。
そして間もなく解散の声がかかった。
生徒たちはみな校舎へと戻ろうとしていた。
そのときである。
「いやっほおーーーっ!」
ブルーの制服姿のきいは空に向かってジャンプした。
小学校時代から夢見ていた夢の第一歩が今日から始まるのだ。
この気持ち、押さえろと言ってもムリである。
きいは小柄だ。だから制服はぶかぶかである。
途端になにか、伸ばした拳にゴツンとぶつかった。
「っ、痛っ!」
きいではない。他の誰かの声である。
「うわあ、ご、ごめんねっ!」
きいは直角四十五度で謝った。
まだなにが起こって誰が痛がっているのかはわからないが、
原因はたぶん自分だとは思っていた。
右手の拳がぶつかった手応えがあったからだ。
「……いいわ。あなたの顔を見ていると、なんだか怒る気持ちが消えてしまったわ」
「ごめんね。……あのね、私、千木良きい。千木良は……」
「千の木の良いと書くのよね。知ってるわよ」
「へ?」
きいはきょとんとして相手の顔を見た。
「……だ、誰だっけ?」
するとおでこを押さえて痛がっていた少女があきれ顔になる。
「もう、私は三ヶ木ゆう。……って、私たちはルームメイトでしょ?」
まさか、あなた忘れたの? とでも言いたげな表情にゆうはなる。
ふわりとした髪型を持ち、きいよりも少し背が高い亜麻色の髪の少女である。
「ごめーん。そうだった。
私、ここに来てから憶えることが多くてこんがらがっちゃってるんだー。ゆう、ごめんね」
きいはぺろりと舌を出す。その顔に反省は……、ない。
そんなきいを見てゆうは、はーっ、と、ため息をつく。
ここに一昨日来てからと言うものの、こんな千木良きいに振り回されっぱなしなのである。
農業高等学校。
それ自体は各県どこでも見られる学校ではあるが、この湘南農業高校は少し変わっていた。
ひとつは全寮制であること、そしてもうひとつが特別な進路コースがあることである。
「ねえ、私たち動物のお医者さんへの第一歩を記したんだよっ!」
「そ、そうね。……あなたのテンションって普通じゃないわね」
「だってー、だってだもん。ここで勉強するのをずーっとずーっと楽しみにしてたんだもんっ!」
きいの言葉にやれやれと言った顔でゆうはうなずく。
そしてまだまだはしゃぎ足りない様子のきいの背を押して校舎へと向かったのである。
――千木良きいや三ヶ木ゆうが入学したコース、それが獣医科であった。
もちろん高校を卒業しても獣医にはなれない。
更に大学に進学して六年間勉強して国家試験を受けて農林水産大臣の印が押された証書を受け取って、
初めて獣医になれる。
だからその進路に特化した授業が行われる高校のコースなのである。
授業内容は通常の高校の理数系授業を中心にして、その他農業実習がある。
ただしその実習は農作物栽培のものとは違い、畜産に欠かせないウシ、ブタなどの家畜や、
イヌ、ネコなどのペット用の愛玩動物、……つまり動物の世話であった。
そのときだった。
ルームメイトの三ヶ木ゆうの背中から、
小さな顔がちょこんと現れてクリクリッとした瞳をきいに向けたのだ。
ゆうの相棒であるワオキツネザルである。
原産地はアフリカのマダガスカルでふつうは動物園でしかお目にかかれない原始的なサルだった。
ふさふさでシマシマで長い尻尾が特徴だ。
「あー、ジャンボ。ねえねえ、たまには私にも乗っかってよっ!」
するとジャンボと呼ばれたキツネザルは小首を傾げると、サッとゆうの背中に隠れてしまう。
伸ばしたきいの腕は空振りになる。
「嫌みたいね。……ジャンボは私にしかなつかないの。お父さんでも駄目なのよ」
「ふーん。……確かゆうのお父さんって、すごく有名な獣医さんだよねっ?」
「うふふ。……有名かどうかはわからないけど、そうよ」
身振り手振りで大げさに話す千木良きいとは違い、三ヶ木ゆうは口を押さえて優雅に笑う。
そのゆうの父親は都内を中心にいくつもの分院を持つ獣医である。
テレビのペット相談よく登場し、著作も多く、動物園にも顔が広い人物だった。
つまりこの業界では知らない人はいない存在で湘南農業高校でも世話になった教職員は多い。
「ねえねえ、やっぱりお父さんが動物のお医者さんだから、ゆうもそうなろうと思ったのっ?」
「ええ、そうよ。
両親は獣医だし、お兄ちゃんも大学の獣医学科に通っているから、やっぱり獣医一家なのよね。
……それに私にとって動物って小さいときから馴染んでいたのも関係あるわね」
「ふーん。いいな、動物に囲まれて育ったんだっ?」
「ふふ、そうね。我が家はちょっとした動物園ね。
イヌ、ネコはもちろん、フェレットもハムスターもいるし、フクロウもモモンガもいるわ。
お父さんの部屋にはニシキヘビだっているの。
だから飼っているペットも数え切れないほどなのよ。
……ところで、きいはどうしてこの学校に来たのかしら? やっぱり動物を飼ってたから?」
するときいが急に足を止めた。
うつむき加減でしょんぼり顔になったのである。
「ううん。
……私ん家、アパートだからペットは禁止。
だからワンコもニャンコも飼えなかったんだ。
それにね……、お父さん、鳥の羽アレルギーだからインコも飼えないし、
お母さんは生臭いものが嫌いで金魚も飼えなかったんだ」
うつむき顔のきいの目から涙があふれ出す。
過去の悲しみを思い出したのだろう。
動物好きにとってそれは悲哀そのもので、
今まで幾度となくペットを飼いたいと両親にせがんだのに違いない。
そしてその度に断られ続けてきたのだろう。
「……ごめんなさいね。私、悪いこと訊いちゃったかしら?」
「いいの。
……私、動物大好きだから。だからこの学校に来たかったんだっ!」
そう言っていきなり顔いっぱいに笑顔を広げたきいは、
クルクル踊りながら厩舎につながれているウマの一頭一頭の鼻をなでて走り回る。
するとウマたちは気持ち良さそうにいななき声を出すのであった。
「……きいは本当に動物が好きなのね。もしかしたら私よりもずっと……」
いつまで待ってもきいは帰って来ない。
すでに厩舎は通り越して、その向こうの柵にいるブタ相手に愛嬌を振る舞っているからだ。
「……でも、私の役目はきっと、きいの飼育係ね」
そう言って三ヶ木ゆうはきいの元へと向かったのであった。
教室に戻った千木良きいと三ヶ木ゆうはさっそくジャージに着替えた。
この湘南農業高校では制服は礼服と同じで、式典以外に着用することはない。
いつも汚れ着でいなければならないからだ。
二人が来た赤いジャージは一年生のカラーだ。
二年生は青、三年生は黄色と決まっているのである。
そしてこのクラスは女子クラス。だから着替えのために男子生徒の目を気にすることはない。
そして教室の中は異様だった。
通常の高校よりも倍は広い教室とは言え、
イヌやネコ、小鳥やウサギ、はたまたイグアナなどであふれかえっていて手狭に感じられる。
これらはすべて生徒たちの相棒だった。
これがこの獣医科クラスの独自性だった。
生徒は相棒として必ず一匹の動物を個人的に飼うことが義務づけられていて、
卒業まで寝食を共に過ごす決まりがあるのだ。
「ねえ、きい。
……あなたはまだ相棒が見つからないの?」
三ヶ木ゆうが千木良きいに尋ねた。
「うん。
……昨日もお店で探したんだけど、これぞって言う子がいないんだ」
きいがしょんぼりと答える。
きいは動物を飼ったことがない。だから相棒がいないのである。
「でも早く決めなきゃね。決まりだから」
「うん」
そう答えるきいだった。
この規則は絶対だった。例え相棒と死別しても悲しんでいる期間はない。
猶予は一週間と決まっていて、
それでも相棒がいない場合は最悪、退学処分となる厳しい掟があるのだ。
死に別れた相棒に対して残酷なようだが、生き物は必ず死ぬ。
そのことを覚悟して接するのが獣医だからだ。
「放課後、私もペットショップに付き合ってあげるわ」
「ありがとうっ! 持つべき物は親友だねっ!」
そう言ってきいはゆうに抱きつくのであった。
そのときだった。
コンコンと扉をノックする音がしてドアががらりと開けられた。
担任の女性教師が入ってきたのだ。
年は二十代前半と若い。ジャージ姿は生徒と同じなので部外者には見分けが付かないに違いない。
「そろったな。
私がこれから一年間お前たち一年女子クラスを世話をする新任教師の寸又嵐ひばりだ。
よろしく」
そう言って寸又嵐先生は豪快に笑う。
「お前たちはやっと花の女子高生になれた。
だが、この学校できれいなおべべで過ごそうってのはムリな話だ。
お前たちは泥まみれ汗まみれだけじゃなくて、糞まみれになって三年間を過ごす。
臭いだってすごいぞ。
だからこの学校じゃ在校中に彼氏を作れた試しがない。覚悟するように」
妙に説得力がある教師だった。
生徒たちは一様に驚いた。そして覚悟をした。みな一斉に頷いたからだ。
動物相手では仕方がないことなのだろう。
「……あのー、それって農女ってヤツですか?」
女生徒のひとりが怖々と寸又嵐先生に尋ねた。
すると先生はニヤリと笑う。
「よく知ってンな。
その通り、農業高校獣医科女子クラス、通称ノウジョとはお前たちのことだ。
土臭くて獣臭くて、おまけに糞臭くて、近寄りたくないってことさ。
……もっともこの私もかつて農女だったけどな。かははっ」
そう言って先生は豪快に笑う。
「あのー、ってことは先生は彼氏がいないんですかっ?」
きいだった。突然挙手して立ち上がるとそんなことを口走ったのである。
「……あーん、な、なんだって?」
沈黙が教室を支配した。
しーんと水を打ったかのように静まりかえったのである。
「だから、先生には彼がいないんですかって訊いたんですっ」
「あーん?」
寸又嵐先生のこめかみがぴくぴく動くのがわかった。
両腕を組んで足は肩幅以上、つまり仁王立ちである。
「だから、先生には彼氏っ……って、な、なにっ?」
きいの挙手していた腕がむんずと引きずり下ろされた。
三ヶ木ゆうの仕業である。
「ちょっと、きい」
「なあにっ?」
「いいから、座って、静かにして。お願いだから空気を読んで」
ゆうが必死の哀願をする。
するときいもなんだかいちおうわかったようで、若干の疑問を貼り付けながらも席に着いた。
「ねえ、ゆう。いったいどうしたの?」
だが、ちっともわかっていないきいだった。
「あのね、……訊いちゃ駄目なのよ。きっと……」
ゆうが小声でため息をつきながら言う。
「なんで?」
あくまで察しが悪い千木良きいである。
そのときだった。咳払いがクラスを支配した。
「……ウホン。ってことでよろしくだ。
で、お前たち、すぐに第四農場に集合だ。もちろん相棒を伴ってだ。刻限は今から十分後、急げ」
寸又嵐先生はポケットからストップウォッチを取り出してボタンを押した。
どうやら時間に厳しい先生のようだった。
「イエッサーっ!」
きいが大声で答える。
するとそれが合図のように生徒たちは一斉に立ち上がり準備を始めたのであった。
この学校には農場がいっぱいある。
田んぼも広大だし、畑も多い、
そして牧畜もできるように緩やかな斜面を持つ緑濃い丘が目の前いっぱいに広がっている。
そのひとつが第四農場だった。
「……集まったな。これからクラスの各委員を決める。
だがいきなり誰を投票した方がいいかなんて、まだ顔も知らない間柄ではムリだろうから、
私が決めることにした。中学時代の内申書を元に適正を判断している。異存はないな?」
寸又嵐先生は小柄な身体に不釣り合いであるグラマラスな胸を張り、一同を睥睨する。
見回すのは女生徒三十五人と三十四匹の動物。
……もちろん動物の方が一匹少ないのは千木良きいのせいである。
「じゃあ、まずクラス委員は三ヶ木ゆうで決まりだ」
「はい。私でよろしいんですか?」
呼ばれたゆうはおずおずと尋ねて、
ふわりとした髪を揺らし背にワオキツネザルを乗せて前に一歩出る。
背丈は決して長身ではないのだけれど、
その身体からあふれる存在オーラが否が応でも注目を浴びる。誰も異存はないようだった。
「構わん。お前は中学時代に生徒会長を務めていた。まとめるのは得意だろう」
「わかりました。では拝命致します」
ゆうは優雅に腰を折る。
その姿に先生は満足そうだ。
「図書委員は……。保健委員は……。清掃委員は……」
寸又嵐先生は次々と役割を発表していく。
そしてほぼすべての委員が決まりそうだった。
「飼育委員は、……千木良きい」
「ホ、ホントですかっ!」
きいは大喜びでピョンピョンとジャンプする。
そして隣の三ヶ木ゆうに抱きついた。ゆうは困り顔ながらも友人の拝命を祝っている。
「知っての通り、役目は教室で飼っている金魚の世話だ。
入学願書になんでもいいから生き物の世話がしたいと書いたのはお前だけだからな」
寸又嵐先生がそう言うと、きいは何度も頷いた。
ふつうであれば小学校ではないのだから教室で動物を飼育している訳はない。
だがここは農業高校、まして獣医科だ。常に生き物がいる環境になっている。
「リュウキンちゃんにランチュウちゃん、東錦ちゃんにタンチョウちゃん……。ああ、待っててねっ!」
小躍りしたきいが、三ヶ木ゆうに抱きつく。
「お、落ち着いて、きい。……それに教室で飼っているのは東錦じゃなくて、キャリコよ」
「……そうだった?」
「ええ、だって肉瘤がないもの」
「あーっ、そうだったかも。
……でもいいの。だって生き物係だよーっ。ごはんいっぱいあげるからねっ」
なかなかマニアックな知識を持つきいとゆうであった。
寸又嵐先生の発表は続く。
「……そして最後だ。生活委員は髙見澤ヨウコ」
「嫌です」
一同の後ろからそう声がした。クラスの面々は驚きで沈黙した。
今までの雰囲気で、断る人物が現れそうな予感はなかったからである。
振り返るとひとりの少女が厳しい顔で立っていた。
背が高く黒い髪が腰まで伸びている。そのつややかな髪が風に吹かれてフワリと翻っていた。
そしてそのときだった。
大空を舞っていた一羽の猛禽類が緩やかに弧を描いて、ふわりと少女の腕にとまる。
それは少女の相棒の巨鳥だった。するどい眼光と嘴が圧倒的な存在感を示す。
少女は鷹匠であった。
意のままにトリを使い、狩りをする人。
……だが、この場合、鷲匠と言った方がいいのかもしれない。
彼女の腕にとまる鳥は鷹ではなくて、
オウギワシと言う最強の猛禽類で時としてサルをも獲物にする恐ろしい鷲だった。
周りにいるのがペットを呼んでおかしくない小動物ばかりなので、その異彩は半端じゃない。
そしてこの髙見澤ヨウコと呼ばれた少女は孤高のオーラをまとっていた。
誰も近づけない存在感。まるでそこだけ凍りつく異世界のようである。
「ほお、断るのか……」
意外にも寸又嵐先生はうれしそうな顔をした。
両手を組んで仁王立ちになったまま笑顔を貼り付けているのだ。
だがその笑みにつられて笑い出す者は誰もいなかった。
そしていつの間にか先生の背後から一匹のネコらしきモノが現れた。
姿形はどこにでもいるネコだが、その大きさが違った。イヌよりも大きい。
「……でっかいニャンコだねっ?」
小声で千木良きいが隣の友人に話しかける。
「……ヨーロッパオオヤマネコよ。私もこんなに近くで見たの初めて。……ちょっと怖いわ」
三ヶ木ゆうがそう答えた。
そしてそのヨーロッパオオヤマネコは先生の前に来ると一同を威嚇するように短く唸り声を上げた。
どうやら先生の相棒のようだ。
「も、もしかして……、対決っ!」
きいはハラハラして寸又嵐先生と髙見澤ヨウコを見比べた。
双方ともに凶暴な相棒を伴っている。もし戦いになればこの農場は修羅場と化すだろう。
そしてそのときだった。
髙見澤ヨウコの相棒がピーッと鳴きその巨大な翼を広げたのだ。
まさに飛翔しようとしての行動だろう。
「……ヤマト。駄目」
ヨウコが静かに声を発する。
するとオウギワシは羽ばたきを止め飼い主の顔をじっと見た。相当訓練されている様子だった。
「髙見澤。なぜ断るのか、理由を述べよ」
寸又嵐先生が良く通る声でそう告げた。
「私は他人を信用していません。だから――」
「だから他人からも信用される必要がないと?」
髙見澤ヨウコの言葉を先生が引き取った。ヨウコはその言葉に頷いた。
「孤高は辛いぞ。それでもいいのか?」
「はい。慣れてます」
すると寸又嵐先生はため息をひとつ吐くと大きく頷く。
「わかった。
……お前が孤独に見えたから選んだのだが、まあ、いい。
じゃあ生活委員は立候補にしよう。誰かやりたい者はいるか?」
そのときだった。
「はいっ、はいっ、はいっ! やりますっ! やりたいですっ!」
千木良きいだった。
その小柄な背をぴょんぴょん跳ねさせて両手で挙手している。
「千木良。お前は飼育委員だろう?」
「はいっ! でも、やりたいですっ!」
三ヶ木ゆうを含めたクラスの一同は半ばあきれ顔、半ば微笑みできいを見ていた。
誰も異存がないようだった。
「なら、いい。お前が兼任でやれ。
……だがな、後で忙しいから、やっぱ止めたってのはなしだからな」
「はいっ! 忙しいのは好きですっ! やったーっ!」
きいはまたまた三ヶ木ゆうに抱きついた。
あんまり勢いが良かったから、
ワオキツネザルのジャンボが振り落とされてしまい、あわててゆうに飛びつく。
「あ、ジャンボ、ごめんねっ!」
きいが手を伸ばすとジャンボはするするっとすり抜けて、ゆうの頭にちょこんと止まった。
それを見ていたクラス中から笑いが広がったのであった。
よろしければなのですが、評価などしてくださると嬉しいです。
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