1.お財布
「...へ?」
唐突に彼はこう言った。
「聞こえなかったのか?それとも理解が出来なかったのか?さっさと金だせっつってんだよ。殺されない内にな」
私、ミカノ・アカリ(16)はこのVRゲームを始めて最大のピンチを迎えている。
私からお金を奪おうとしている彼の名はミノル。私の所属しているクラン、【メテオ】のマスターだ。その彼に今、お金を奪われようとしている。
耳を疑うような話ですが、2回も言われたのでガチのようです。
「と、突然...どうしたんですか」
「お前は商人なんだろ。だったら俺等が拾ってきたアイテムを買い取るのが仕事だ。いつもの事だろーが」
「い、いや、だって...ソレが3億G?」
ミノルが買い取りしろと言ったアイテム。目の前に置かれた錆だらけの黒い棒。棒というには少し太めで、長さも一メートル位の長い棒だ。
「そーだよ?大丈夫だろ。お前、商人のスキルMAXだろ。お前ならこの棒を3億よりも高値で売りさばけるさ。だから早く買い取れ」
どう見ても鉄屑にしか見えない。でも、これは買い取るしかない。なぜなら...。
「なあ、ほら。早くしろよ〜。口で言ってるうちにさ〜」
腰にある剣を軽く抜いたり戻したりするミノル。...断れば殺される。
それに偽ることも不可能だ。ステータス画面で所持金を確認されれば終わる。
「わ、わかりました...でも、それだけ払ってしまうと私の生活が立ち行かなくなるので、2億でどうでしょう。後の1億は後々で...」
その言葉を聞いたミノルは私を睨みつける。殺気を放つ彼に言葉がでない。呼吸もままならない。本気で殺す気だと理解させられる。
「お前、立場わかってるのか?...今、このログアウト出来なくなった世界で死ぬって事は現実世界で死ぬって事なんだぜ?」
これはゲームの世界。しかしある日唐突にログアウトの出来なくなり、死して現実世界へ帰れるか検証すると言い、このゲーム世界で死を選んだ者も何人かいたが、誰一人戻ってくることは無かった。
それ故に、ゲーム世界での死は現実世界での死にリンクしているのではないかと考察する者も多く、今いるプレイヤーの大半はそれを恐れ日々生活している。
「お前も死ぬの、怖いよなあ?」
体が震える。私も死ぬのは怖い。もしかしたら、ゲームで死んだ人たちはまた囚われるのを恐れ戻ってこないだけなのかもしれない。
けれど、確証はない。死んだ後どうなるのかわからないなんて、怖すぎる。死んだらどうなるかわからない、それが怖い。
その恐ろしさはゲームでの死と、現実世界の死...少なくとも私にはどちらも同じ死に思えた。
「わ、わかりました...」
私は言われるまま《トレード》を申請し、鉄の棒っぽいアイテム《鉄屑》と《300,000,000G》を交換した。
「はあ」
「...?」
深い溜息をミノルがつき、どうかしたのかと思ったその瞬間。
――ボゴッ、と私の腹部を蹴り飛ばした。
「あぐっ!?」
地べたを転がり、激痛の走る腹部を押さえる私。ダメージを受けた事により、目の前には私のHPバーが出現し数値の減少と共にバーが短くなる。
「ごほっ、ごほ」
「...遅えよ。次からはもっと素早く行動しろ。わかったな?」
暴力による支配。この世界に法はあっても彼らを実際に繋ぎ止める事は困難だ。なぜなら、ログアウト出来なくなった日から運営の存在が無くなり、悪質プレイヤーを処罰するゲームマスターも姿を消したからだ。
そして、だからこそ、彼の後ろにいるかつてのクランメンバーであるプレイヤー達も彼に従い凶行に手を染めている。
力こそ全て。そうなったこの世界、VRゲーム【アナザーワールド】で。
「...はい」
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