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昼に恋した吸血鬼  作者: 久城 雫
〜邂逅〜
1/1

〜雨の日は外に出ないと決めた日〜

その日は梅雨入りしてすぐの酷く雨の降る日だった。

大学生の俺は、アルバイトを終え終電を逃した為近所のネカフェで始発まで時間を潰そうと

人通りの少なくなった路地を一人歩いていた。


歩き慣れた道を歩いていたはずだが、ふと気がつくと人通りが無く、見慣れた道ではない、

街灯もない道に迷い込んでいた。道を間違えたのか、誘い込まれたのか今となって後者であったと

はっきりと言えるが、その時は疲れていたのもあってか道を間違えたんだろうと思い、

来た道を一度戻ることにした。


来た道を戻るだけ。誰しもが一度は経験したことがあるだろう。

文字通り、引き返す。ただそれだけなのだが、いくら歩いても道が続いていた。

暗く、人の気配も無く、細長い一本道をただひたすらに歩いた。

ふと気がつくと目の前に人の姿が見えた、


「おーい!!!あんたここがどこだかわかるか?」

普段、人にこうやって話しかけることなんてないが、

少しの安堵からか、自然と声に出ていた。

その安堵は数秒で後悔に変わった。


「アア…。ア…。」

何かがおかしい、違和感を感じた俺は歩み寄る足を止めた。

「ケ…テ、タス、、ケテ…」

【ソレ】から発せられた言葉は助けを求めているように聴こえた。

「…!??」

言葉にならない声が出た。驚き戸惑いなんてもので収まらない圧倒的な恐怖、

想像を超えた恐怖を目の当たりにすると、

人は叫ぶことも、動くことも、目を伏せることもできないことを知った。

というより、目を離せばその間に何かされるのではないかという、恐怖。

これ以上声を出せば、動けば、、、全ての思考が恐怖に支配された。


そう、人に見えたソレは、もはや人と呼んでいいのかもわからない異形の姿をしていた。

振り向いたソレは、首からもう一つ頭が生えていた。

生えているという表現が果たして正しいのかわわからないが、

内側から出ているもう一つの頭に食べられている人間。といえば伝わるだろうか、

かろうじて、元々人だったのであろうという予測はできた。

いままさに目の前で、食べられている人間を見るなんて誰が想像できるだろうか、

虎やライオンなどといった肉食動物に襲われているならまだしも、食べているのは

人の体から出ている、人かどうかもわからない存在だ。


目を逸らしたくても、できない。逃げようにも足は動かない。

ただ、ソレが食事を終えるまで呆然と立ち尽くすしかなかった。


……何分?いや何時間?時間の感覚なんてわかるわけもなく、

もしかしたら数秒の出来事だったのかもしれないが永遠に感じた。

夢なら早く覚めてくれ、こんなの夢に違いない。そう願いながら

やっとのことで目を逸らした俺は、自分以外にその場にナニカがいることに気が付いた。


「やっとこっちに気が付いた?大丈夫?漏らしてない?」

姿ははっきり見えないが、声からして俺より若いか、同い年くらいの女の子が

少し笑いながら話しかけてきた。


「誰だ、なんなんだあいつは、ここはどこなんだ!」

「はいはい、急かさないの〜。質問は一つずつ。ね? れいくん。」

なぜか俺の名前を知っているソイツは、少しずつ俺に近づきながら話を続けた。


「私はシズク、名乗る必要ももしかしたら無くなるかもしれないけど、

 そしてここはちゃんと現実の世界。あなたが暮らす街のどこか、ただ少し空間がズレてるけどね。」

何を言っているのか全く理解が追いつかないが、シズクという名前だけはわかった。

俺のことを知っていることが気になったが、俺が知る人物にシズクという人はいない。

気になることばかりで口を開こうとしたが、遮るようにソイツはつづけた。

「ちなみに私も人じゃない。」

そう口にしたソイツは俺の目の前に姿を見せた。


赤色の目、色白の肌、腰より伸びた黒髪、一言でいえば凄く綺麗で、どう見ても人に見えた。

そして彼女は俺の顔を見て、少し微笑んでこう告げた。

「私は吸血鬼だ。」

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