12 ピンチ
「どんな願いも叶えてくれる"若仙人"サイリ」
「思ってたより若いわね」
はい、ピッチピチの若造ですよ。
ちなみにヨシュネイさんはおいくつですか。
「……なかなか良い度胸ね」
いえいえ、生まれてこの方、度胸と根性と筋肉に頼った試しが無いですよ。
「よく回るお口だこと」
「大人しい少年だって聞いてたんだけど」
はい、すっごく内気で寂しがり屋さんなんですよ、僕。
歳上のお姉さんのご機嫌を損ねないよう、がんばってテンション上げてるんです。
「まあいいわ、これから長い付き合いになるんだし、楽しくやりましょ」
……何をやるんですか。
「何って、ナニよ」
ナニ……
「別に、サイリ君はベッドの上で大人しくしてるだけでいいの」
「どうせ動くのは私だし」
いえいえ、手足のコレを外してくれたら、僕の方から一生懸命に動いちゃうかも、ですよ。
「あなたの眼鏡は絶対に外しちゃダメってちゃんと分かってるから、大人しくお姉さんに全部任せなさい」
食事とかお風呂とか……トイレとか。
「全部、お世話するわ」
結局、僕はどうすれば良いのですか。
「子種をくれるだけでいいの」
「それだけで、一生面倒見てあげる」
……固有スキルは遺伝しないって聞いてるんですけど。
「正確には、特別な固有スキルを増やす唯一の方法は遺伝のみ、確率はすごく低いけど、ね」
世界征服でもしたいのですか。
「そっちは興味ないけど、どんな願いでも叶えられるってステキでしょ」
えーと、僕との子供が固有スキルを受け継いだら、なんでも言うこと聞くように育てて、願いを叶え放題、ですか。
「ご明察、賢いわね、サイリ君」
賢かったら捕まってないと思うけど。
「私の方が賢かったってことでしょ」
「パパママが賢かったら、子供もお利口さんになるでしょうね」
でも、自由意志を持たないように育てるんでしょ。
「やっぱり賢いわね、早く子作りしたくなってきたわ」
婚約仕立てほやほやなので、出来ればご遠慮したいです。
「あら、初耳」
「おめでとう、サイリ君」
ありがとうございます、そういうわけなので、これにて失礼。
「可愛い婚約者さんの前に、お姉さんといっぱい練習しましょうね」
そう、とっても可愛いんですよ。
でも、すっごく真面目な人なので、浮気は絶対禁止の方向で。
「大丈夫、浮気じゃなくて本気の本番だから」
「無理やり気持ち良くさせられるだけだから、楽しみながらここで暮らしてちょうだい」
僕、筋金入りの引きこもりなので自分がやりたい方向での我慢は得意なんですけど、
強制的に我慢させられるのって大嫌いなんですよね。
「まあ、何度かヤッたらクセになるから」
「嫌よ嫌よも好きのうちって言うでしょ」
その言葉を考えた人って、きっと心の底から嫌な目に遭ったことが無いんだろうなって思いますよ。
「案ずるより産むが易しって言うでしょ」
「産むのは私の方だけど、認知を迫ったりしないから、遠慮なく、ね」
あー、完全にアウトですね、この状況。
諦めて、全てを受け入れちゃう方向、ですか。
わりと綺麗なお姉さんなのが救い、かも……
……やっぱ、嫌だな。
ぼっちの引きこもり草食野郎ならいざ知らず、
あんな素敵な婚約者がいるのに、
ここで諦めたらマジで人生終了しちゃいますよ。
とは言うものの、自分で打てる手は全く無し。
せーの、
誰か、助けてえ!
ドカンッ
うひゃっ、ナニゴト!
「大丈夫ですかっ」
ヒーロー、キタコレッ!




