10 監査
依頼が入り次第、速達鳥にて連絡します、という契約だったのですが、
連絡も無いのにちょこちょこ商業ギルドに顔を出しちゃう、アレな僕。
だって、ほら、初めての正規のお仕事ですし、
せっかく冒険者服も新調したことですし、
何より、家にいるとプリナさんの温かいまなざしが……
「こんにちは、サイリさん」
こんにちは、ロミエスカさん。
えーと、すみません、何だかストーカーみたいですよね、呼ばれもしないのにしょっちゅう来ちゃって。
……それでは、おじゃましました、失礼します。
「はい、今日は監査のお仕事、入っていますよ」
……マジですか。
「マジですよ」
「それでは、手続きの方、始めましょうね」
ひゃっほう!
……
ここはエルサニア王都のはるか南西にあるケストーネ砂丘。
先方との約束の場所へ、いそいそと『転送』でやってきましたよ。
本来は開発者の方とは原則接触禁止なのですが、
今日の監査品は、量産に成功すれば世界に及ぼす影響がとても大きいとギルドが判断した重要案件。
デモンストレーションに広い場所が必要である上に、
製品化までは可能な限り秘匿したいとの開発者さんの意向だそうです。
それでこんな僻地まで、僕が直接出向いて監査することとなった次第。
監査員としては新人もいいとこなんだけど、"若仙人"としてのネームバリューってやつでしょうか。
つまり、初仕事から責任重大なのです。
いや、初だろうと何だろうと、どんな仕事でも全力で取り組むべし、だよね。
今回、僕が監査するのは『乗用型魔導飛空艇』
平たく言うと、ふたり乗りの空飛ぶカゴ、でしょうか。
熱気球の風船の部分が無くて、代わりに絨毯が屋根みたいに付いてる、って感じの乗り物ですね。
天幕みたいにカゴに覆いかぶさっている絨毯こそが飛行のキモ、ですって。
この世界は魔法のチカラが花盛りなのですが、
飛行魔法は非常に珍しいのだそうです。
安全性と効率の面から廃れちゃったのだとか。
わずかに現存しているのは、
北方諸国の魔女が使っていたほうきでの飛行術と、
南方諸国で古くから伝わる絨毯での飛行術。
で、今回の監査品の開発者ヨシュネイさんは、
遺跡から発掘された魔法の絨毯をアレしてコレして、
空飛ぶカゴの開発に成功、
そして、めでたく量産のメドが立ったので登録することに。
すごいな、ヨシュネイさん。
私財を投げ打って発掘・研究・開発に没頭、
そして見事に製品化成功。
その成果の証しに携わることが出来て、
何だか僕まで感無量ですよ。
約束の場所にあるのは、小さなテント。
人っ子一人いない砂丘の、秘密の場所での待ち合わせ。
何だかアブない取り引き現場に来ちゃったみたいな、イケない気分に。
それはともかく、今日の僕は監査員として責任ある立場、気を引き締めて、ですよ。
こんにちは、ヨシュネイさん、エルサニア商業ギルドの監査員です。
テントから出てきたのは、
はて、想像とは違うぞ、綺麗なお姉さん?
てっきり、研究一筋の老博士とか、開発一筋のイカつい職人さんかと。
「ヨシュネイです。 よろしくお願いしますね」
よろしくお願いします、サイリと申します。
「うん、本物みたいね」
本物?
あれ、香水、でしょう、か。
ヨシュネイさんから漂う……なんとも言えない…………良い香り………………
zzz……




