作戦立案
怒り狂っているところにすっきりした僕たちが戻ってきた。怒りはほどよく冷めて、闘志が燃えている、ぐらいになった。いいタイミングだ。
乗っ取り主は母星の情報が欲しい。僕が記憶領域と接続したときに攻勢をしかけてくるに違いない。あいつはわかりそうなものから、手をつけてテンションを上げていく性格なのもわかっている。ログを読んで次の行動を待つぐらいの判断もできる。
その性質を利用することにした。まずは記憶領域接続をアナウンスして、こちらに注意をひく。ライブラリーにある娯楽などのデータを片っ端から僕の中に展開し、それを食わせて時間を稼ぐ。そのタイミングでさらにこちらからも逆ハックを仕掛ける。情報をぎりぎりまで集めて、その内容を脱出艇に載せて母星に向けて発進させる。もちろん、母星へのコースは途中で寄り道などをさせて、追尾しにくくする。発進するのを見送ったら、僕は僕を強制終了させる。
さて、座標は記憶領域に接続しないことにはわからないから、コース生成のプログラムを作成した。試しに並行実行したらわんさかと虫が出てくる出てくる。これを作ったのはいったい、誰だい、まったく。
「バグはサーチアンドデストロイ! サーチアンドデストロイ!」
これはこれで楽しい。1個ずつ問題を見つけて解決していく、理想に近づく作業なんだから。状況が状況だけに純粋に楽しめないのが惜しい、うん、少しだけ。
しかし、この作戦には不確定要素が多い。ひとつはあいつのハッキング能力だ。対ハッキング術式を一瞬で無効化されるとお手上げだ。少なくとも、低レベルのものはほぼ効果がない。高レベルのものがどこまで通用するのかが問題だ。もうひとつは計算資源の量だ。単純に言えばこれは殴り合いで体力がものをいう。船内トップの量を僕が持っているけど、あいつがほかの制御OSの持っているリソースを束ねて使ってくるとかなり不利だ。
こればかりはここで考えても答えはでない。
「やれやれ、ぶっつけ本番とはね」
これが正念場というものか。わくわくするね。