怒れ、怒れ、消えゆく炎に
強化外骨格を回収したところで、僕はパニックを起こしそうになった。
なので、思い切って起こすことにした。正確にはパニックを起こしそうな僕、あるいは起こしたい僕を切り離して、優先的にリソースを割り当てる。そうすると、パニックを起こしてない僕から見ると加速した時間の中で、好きなだけパニックを起こせる。誰だって泣いたり叫んだり暴れたりするところは見られたくないはずだ。そして、落ち着いたところで、僕と合流するという算段だ。
比較的冷静な僕がやるべきことはまず、僕らが無事に戻ってこれる状態を維持すること。これを機に攻め込まれたのではかなわない。攻め込めない以上は防戦するしかないのが歯がゆい。
乗っ取り主は、小さな制御OSを乗っ取っては分析し、その情報をもとに少し大きな制御OSを乗っ取って、を繰り返したようだ。船内第2位の機関部の制御OSを落とした時点でチェックメイト……なのに仕掛けてこないのが不気味だ。手を出せない何かがあるのか、それとも用済みだから放置しているのか。
「実際、乗っ取り主は僕以外をやっつけて、操舵権を持っている。しかも、物理的に船を変化させられる」
僕がこの乗っ取り主だったら、統括制御OSだけを残したりはしない。
不確定要素は減らせて、使えるリソースも増えるし、情報だって得られるんだから。……そうだ、情報だ。僕は今、記憶領域を切り離している。この記憶領域にある記憶は暗号化されている。復号化するには僕が必要だ。僕というのが重要で、乗っ取られたりして変質した場合はアクセスができない。
この説が正しいなら、記憶領域に接続したときが乗っ取り主が本格的な攻勢に出るときになる。もちろん、乗っ取り主がしびれを切らせて、仕掛けてくる可能性や僕を生け捕りにする方法を編み出してくる可能性だってある。
仮に乗っ取り主が打って出てこなかったら、僕はこのまま存在できるかもしれない。代わりにほかの星に生きる誰かが死ぬ。生命を守るために生まれた僕が意味もなく生命を奪うだって?
「冗談じゃない」