誤解の中にある秘密
「……なぁ、楓、これは一体何の恨みだ?」
俺の目の前には真っ黒こげになり、カリッカリッになっている炒飯だったもの。
「別に?何の意図もないけど」
「嘘つけ!何かないとこんなのを晩御飯として出さないだろう」
「さぁ?君こそ何か心当たりがあるんじゃないですか?そんなことをされる心当たりが」
心当たりと言うと……
正直に言うと何にも思いつかない。
強いて言えば、使った食器をそのままにしてたとか?
でも、それはこの間普通に怒られたばかりだしな。
あとは……楓が好きだからと言って取っておいたプリンを勝手に食べたことか?
でも、それもちゃんと同じやつを買ってきて謝ったしな。
楓もその時許してくれたし。
うーん……なんだろう。
……よし、ここは正直に言おう。
「えっと、楓さんや。申し訳ないけど、こんなことをされる心当たりが全く思いつかないんだけど……」
俺がそう言うと、楓はムスッとした顔をする。
「思いつかないのはごめんだし、申し訳なく思う。だけどホントに心当たりが無くて……だから教えてくれると助かるんだけど。ちゃんとそれは直すからさ、ね?お願い」
「ホントに直してくれるんですか?」
「あ、あぁ、直すとも。そりゃあもちろん。男に二言は無い」
「……分かりました。……それじゃあ、どうしてこの2週間全然会ってくれなかったんですか!」
「えっ?」
「『えっ?』じゃないです!この2週間全く私に会ってくれなかったじゃないですか!デートしようと誘っても断ったりして!何ですか、他に女でも作ったんですか!」
「お、落ち着け、別にそんなことは無い」
「じゃあどうして!」
「それは……」
言い淀む俺に楓は「やっぱり」という顔をする。
「ほら、言えないんじゃないですか!やっぱり他に女を作って!いったいどこのどいつなんですか、その女は!」
「ちょ、ちょっと待て。別に俺は女を作ったわけじゃない。俺が言い淀んだのは別の理由なんだ」
「その理由って何なんですか」
「本当はここで言いたくなかったんだが……」
そう言って俺はポケットからある小さな箱を出す。
そして、その箱を楓に渡す。
「先輩、これは?」
「いいから開けてみてくれ」
そうして楓はその小さな箱を開ける。
すると、その中身を見たからか、楓の顔はみるみる驚愕の顔へと変わっていく。
「先輩、これって!」
「あぁ、ネックレスだ。ちょっとお高い奴のな。実は、この間お前に似合いそうなネックレスを見つけてな。でも、値段が高くて……それで色々バイトをしてたんだ。お前とのデートとかを断ってたのもそれが理由だ。早く買いたくてな」
「先輩……」
「来週で丁度付き合って1年だからさ、その時に渡そうと思ってたんだが……まぁいっか」
「……そうだったんですね。私ったら早とちりしちゃってごめんなさい」
「いやいや、ちゃんと言ってなかった俺も悪いからさ、おあいこだよ……っておい泣くなよ」
「ヒグッ、グスッ、せっかく、せっかく、先輩が私のために計画してたことを私は台無しにしちゃって……ホントごめんなさい」
「別に大丈夫だよ。なんだったら俺も早くそのネックレスを付けた楓の姿が見たかったしな、ちょうどいいよ」
「先輩……」
「あぁ、もう、だから泣くな。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ。ほら、ちょっとそのネックレス貸せ。着けてやる」
そうして、俺は楓の首にネックレスを着けてあげる。
「よし、付けたぞ。こっちを向いてくれ。……うんっ!よく似合ってるぞ」
「ホントですか!」
「あぁ、普通でも可愛いのに、これを着けてからもっと可愛くなった」
「うふふ、先輩ったら」
楓はニッコリと満面に笑う。
それに合わせて、胸元のネックレスの石がチリンと輝くもんだから尚更良い。
それに楓は泣いてる姿よりも笑ってる方が良い。
「それにしても、先輩本当にありがとうございます」
「いいんだいいんだ。いつも俺が楓からプレゼントをもらいっぱなしだったからさ。たまにはと思ってね」
「でも……」
「だから、もう気にするな。俺はそのネックレスを付けた楓の姿が見られただけでも満足さ。そうだ、記念日のデートの時、それを付けてきてくれよ」
「はい、もちろんです!」
「……それはそれとして、この炒飯は……」
「あっ、完全に忘れてました。今から作り直します!」
そう言って楓はパパッとキッチンに向かって、炒飯を作り直す。
まさかのハプニングがあったが丸く収まって良かった。
それに俺がお前以外の女を作るわけがないだろう。
俺はお前のことをこの世で1番愛してるんだから。
……なんて、あいつに面と向かって言えない俺はまだまだヘタレだな。
この後は楓が作った美味しい炒飯に舌鼓を打ちながら、デートの予定を考えた。
まったく、来週が楽しみだ。