王太子殿下の懊悩
「影が薄い王太子殿下」
「ギルバート様は輝かしい金色の髪だけど、王太子殿下はなんか茶色か金色かわかんない髪してるよね」
「結婚するならギルバート様一択よね!スマートだし。この前ハンカチ拾ってくれた時にどうぞって爽やかに笑ってくれたのよ!」
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王太子殿下は目の上のタンコブの従兄弟殿の姿を呆然と見つめた。夜会は従兄弟の〝真実の愛″のために凄いことになっている。
確かに、彼の妹は血筋で言うと王太子妃になってもおかしくなかったが性格が異常なほど激しく、兄を狙う女性を崖から突き飛ばそうとしたことがあった。
確かに、彼の親類は叩けば埃しか出ないような血統主義の無能達が多かった。
確かに、御令嬢方は普通にしたら改心しそうになかったし、親達は色々不祥事を持っていて、お灸を据える必要はあった。
今回の件で繋がりが持てなかった国とも貿易が開始し、うちの国で取れるダイヤモンドや、有名なガラスの製品がよく売れるようになるだろう。
あの気骨のある令嬢達なら、国がバックアップすれば元気にやっていけそうだと思った。
だが、結果はまとまっても目的が不純なため、脱力感を覚えた。
「ふぅ、、、」
止まらない溜息をつきながらも、ギルバートのことが嫌いではなかった。
自由に生きる輝く従兄弟殿のことはなんだかんだ尊敬もしていた。
夜会もそうこうしているうちに終盤になり、従兄弟は少し顔を青ざめさせながらも幸せそうに笑っていた。
おめでとうと彼に声をかけながらも、夜会中頭から離れない不安があった。
「私の結婚、どうなるんだろう、、、?」
王太子殿下クリスフリートは適齢期の御令嬢が減ってしまった現状に、再び深い溜息をついた。
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でもなんだかんだとすぐに決まるだろうと思った。
このような状況でギルバートと結婚したい御令嬢はもちろん、愛人希望の者ももう消え果てただろう。
そして今残っている御令嬢はそれなりに気立が良い者が多いに違いない。
そう思っていたが、それが多大なる勘違いだと判明するのはそう遅くなかった。
ギルバートの所業で震え上がった令嬢達は、王家に入るとギルバートと縁戚になってしまうと、どんどん手近な者達と結婚しだしたのだ。
どこまでも従兄弟殿は私の順風満帆なはずの人生に荒波を立ててくれるらしい。
「あなた、結婚しなさい」
母である王妃に呼び出され、部屋に入ると開口一番に言い放たれた。
脱力しそうになりながらも、母に言い募った。
「私も努力しています。ですが、最早この国では御令嬢にとって、王家というのはブランド価値を失っています。
楽観的に考えると、五年もすれば忘れられると思いますが、今は結婚は難しいです」
クリスフリートは言い募った。
だが、母は強かった。
「その通りです。だから、友好国である西の隣国から花嫁をもらって来ました。
第五王女です。とっても美人ですよ」
あそこの王家は確かに子沢山で美人が多いと評判だ。だが、そこはギルバートの妹が嫁いだ国でもあり、王族にドSが多いとも言われていた。
「あの、、、普通の御令嬢が良いんです。
おっとりしていて、苦しい時には手を繋いでくれて、支えてくれたりして、いつも笑顔で、芯があって、、、」
クリスフリートは母の教育を受け、女性関係に厳しく育てられた。そのため、清い男の夢みたいなことを言い出した。
「それはフリーデの母みたいな人ってことですね」
あの伯爵夫人か、、、
クリスフリートは恐怖の夜会を思い出し、震えながらも、素早く隣国の第五王女との結婚を了承した。
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第五王女アデルがやってくる日になった。
クリスフリートは地味と言われる辛うじて金色な髪を丁寧に撫でつけた。
どんな人なんだろう。緊張して来た。
馬車が着き、扉が開けられる。
王女が馬車から降りるためにさっと手を差し出すと、何処とは言わないがボンッキュッボンッな、美しいピンクブロンドに同色の瞳をした女性がそっと手に触れた。
「ありがとうございます」
声まで可愛い!クリスフリートは有頂天になった。
馬車から高いヒールの美しい脚が出てきて、ギュッとクリスフリートの爪先が踏まれた。
「えっ?」
「まぁ、ありがとうございますでしょう?豚ちゃん。
これからきちんとお世話して差し上げますからね」
反射的にエスコートのために出していた腕をギュッと両腕で抱え込まれ、ボンッとした部分が当たり、鼻の下を伸ばした。
「さぁ、豚ちゃん。仲良くやりましょうね」
クリスフリートの懊悩はまだまだ続きそうだ。