ネルケという少女
お花畑には理由があります
月日が経ち、ヴィンデンブリューテは十ハ歳となった。貴族学園を卒業する歳である。
婚約者との仲は相変わらずだった。可愛い弟はいつのまにか反抗期になっていた。けれどもヴィンデンブリューテは、たくさんの友達に囲まれて何不自由なく楽しく学園生活を送っていた。
そこに、ネルケという少女が現れた。転入生だ。こんな時期に転入生など珍しいが、留学してきたのだからよほど学びたいことがあるのだろう。
ネルケという少女は、ヴィンデンブリューテの婚約者であるディステルや、ヴィンデンブリューテの弟、ディステルの側近候補達のグループに近づいて、すぐに仲良くなっていった。
ヴィンデンブリューテはそれを何を思うでもなく見ていたが、少しネルケという少女に不満を持った。別に嫉妬ではない。少しばかり無礼であると思ったのだ。
異国からの留学生。それも例外中の例外である平民。この国の第二王子やその側近候補達に近づくのであれば、それ相応の礼儀は必要だろう。
ヴィンデンブリューテはネルケが一人で食堂で食べているところに近づいて、話しかけた。
「…貴女がネルケさん?」
「は、はい…あの…なんの御用でしょうか?」
「あら、ちゃんと礼儀正しく出来るのね。いえ、貴女が第二王子殿下やその側近候補達に随分と馴れ馴れしく振る舞っていたから、注意しようと思って」
「が、学園内では身分は関係ないはずです!」
「あら…確かに表向きはそうね。けれど、みんな暗黙の了解できちんとマナーを守っているのは知っているわよね?」
「でも、そんなの間違ってます!みんな、もっと自由に交流していいと思います!」
「交流するなとは言わないわ。節度を持ってと言ってるの」
「そんな脅しには屈しません!」
「…え?脅し?」
何を言っているのだろうとヴィンデンブリューテが戸惑っていると、ネルケという少女は逃げるように去っていく。一体なんだと言うのか。
「…不思議な子」
ヴィンデンブリューテはネルケを気に留めるようになった。
ー…
そのうち、ネルケとディステルやその側近候補達の仲は明らかに友達同士のそれではなく、もっと近しい関係になっていった。ヴィンデンブリューテは、ネルケを呼び出した。
「こ、今度はなんですか?」
「あのね、貴女、あまり婚約者のいる貴公子に近づくとロクな目に合わないわよ?」
「ですから、そんな脅しには屈しません!私はみんなと素敵な学園生活を楽しみたいだけです!」
ネルケはヴィンデンブリューテの言葉を跳ね除けるように立ち去っていく。
「…第二王子殿下並みに話が通じないわ」
ヴィンデンブリューテは頭を抱えた。
ー…
ある日、ネルケがディステルやその側近候補達にお菓子を作ったと言っていた。職人でもない平民の作ったものなど危なくて食べさせられない。ヴィンデンブリューテはネルケの作ったお菓子を捨てた。そのかわりに、高級なお菓子を買ってネルケにプレゼントしたが泣かれてしまった。
ー…
ある日、ネルケが使っている香水が最近巷で有名な怪しい魅了効果付きの香水であると気付いたヴィンデンブリューテ。使い続けると免疫力が弱り病気にかかりやすくなるそれを、ヴィンデンブリューテはネルケに説明した上で処分した。しかしネルケは、「酷いです!またそうやって私を虐めて!」と泣きじゃくる。ヴィンデンブリューテは頭を抱えた。
まあその辺は最後に…