ディステルという婚約者
婚約者が問題です
ヴィンデンブリューテはゲシェンク国第二王子ディステルと婚約している。政略結婚というものである。
残念ながら、ディステルはあまり利口ではない。ギフトは剣術というなかなか有用なものを与えられたが、それだけだ。いつも優秀な兄と比べられることを不満に思っているが、だからといって努力をしようとしない。
そしてその不満は、自然とヴィンデンブリューテに向かっていった。
「ヴィンデンブリューテ!」
「はい、ディステル様」
「高貴な俺の名前を気安く呼ぶな!」
「…はい、第二王子殿下」
「この俺が婚約者になってやったんだ!それなのに何故お前は俺に従順にならない!」
「…気分を害してしまったなら申し訳ありません」
「気分を害するどころじゃない!お前が俺に相応しいと思うのか!」
「相応しく在れるよう努力しているつもりです」
「口答えをするな!そういうところがダメだと言ってるんだ!」
「…申し訳ありません」
「ふんっ!お前はそうやって暗い顔をして下を向いているのがお似合いだ!わかったか!」
「はい、第二王子殿下」
「よし。そんなお前にこれをくれてやろう」
「これは…?」
「宿題だ。算術の家庭教師に押し付けられた。お前がやっておけ」
「…でも」
「また口答えをするのか!?」
「…いえ、申し訳ありませんでした。やっておきます」
「よし。全問正解しろよ」
一方的にヴィンデンブリューテに宿題を押し付けて、ヴィンデンブリューテに背を向けて部屋に戻るディステル。ヴィンデンブリューテはディステルの言いつけ通り全問正解した。明らかに不器用なディステルの汚い字ではない綺麗な文字で。そしてディステルに提出し、父親と共に城を後にした。
ー…
次の日、ヴィンデンブリューテの元にディステルが怒鳴り込んできた。
「ヴィンデンブリューテ!」
「はい、第二王子殿下」
「お前、家庭教師に宿題のことをチクっただろう!」
「いえ、しておりません」
「ならなんで家庭教師が知っているんだ!」
「おそらく字かと」
「字?」
「第二王子殿下の文字と私の文字はちょっとばかり違いますから」
「…!なら俺の字を真似して書けばいいだろう!何故しなかった!」
「第二王子殿下のためにならないからです。今から勉強から逃げていては、この先必ず後悔します」
「なんだと!?偉そうに!」
二人が言い争っていると、ヴィンデンブリューテの父親が見兼ねて間に入った。先程までの会話でヴィンデンブリューテはなにも悪くないようだと察したからだ。ついでに、ディステルはヴィンデンブリューテの父親が苦手だ。
「これはこれは第二王子殿下。どうかしましたか?」
「…!い、いや…なんでもない!」
ディステルは逃げた。ヴィンデンブリューテの父親は、あの馬鹿にこの大事な娘をあてがったことを後悔していた。
「苦労をかけるな、ヴィンデンブリューテ」
「いいんです、可愛げがない私がいけないんです」
「そんなことはない。お前は世界一可愛いよ」
「まあ、お父様ったら」
それでもヴィンデンブリューテは、笑っていた。家族に心配をかけたくはなかった。失望されるのが怖かったのだ。
さて、ヴィンデンブリューテは本当にこの男とくっつくでしょうか?