第十五話。 職業病
「久瀬君! 私、病気だったのっ!」
「なにっ!」
マリコさんが新聞片手にかけてきた。俺の机に広げられた紙面には、『突発性過敏性創造性障害』という病気の記事があった。
自称アーティスト、あるいはクリエーターに多いという。創作活動に入ろうとすると、急に背中や耳、頭が痒くなったり、爪が伸びているのに気づいて爪切りを始めたり、机と椅子の位置やバランスがしっくりこなかったり、創作に使う筆や紙などの道具やパソコンのソフトのプロパティなど、無駄に細かいところが気になって弄りはじめてしまうらしい。
ネットに繋がっていると症状は悪化するという。スパムしか来ないメールボックス、誰も読まない自分のブログや掲示板への書き込み。はたまたほかのサイトの更新状況まで気になって、延々ネットサーフィンに走ってしまう。
ネットから切っても、窓の開き具合から時計の秒針の音まで、五感から入るありとあらゆることに過敏になって、結局一時間も二時間も無駄にして創作活動に打ち込めなくなる。
一種の職業病だ、と記事はまとめられていた。
「マリコさんのも……これ?」
「そうっ! 今ね、新しい遮光器土偶のデザインしてたんだけど、描こうとするたび久瀬君にメールしなきゃいけない気がして」
ここ数日、恐ろしいほどの勢いで来ていたメールの原因はそれか。
「単なる逃避行動じゃねぇの?」
「違うの、病気なのっ、職業病なのっっ!」
マリコさんは頬を膨らませている。
「……で、遮光器土偶っていったい何?」
「学園祭で看板代わりに出すモニュメント。……ね、やっぱりハート型土偶の方がかわいくてよかったかな?」
「さぁ……」
「ミミズク土偶も良かったんだけど。あ、『踊る埴輪』とか『武人埴輪』は駄目よ、メジャーすぎるから」
「遮光器土偶も十分メジャーだと思うけど」
「そうかな。ま、せっかくのヒゲ喫茶だし、ヒゲ映えする方がいいからね」
遮光器土偶にヒゲ。
……謎だ。