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第十二話。 季節外れ

「隙ありっ!」

 風きり音。

 何かが飛んでくる気配。

 俺はとっさに身をかわす。だが、そんな必要もないほど、だいぶ外れて何かが横切っていった。

 地面に転がったのは、黒い先端に、緑、赤、黄色の羽根。

「ダメだよ、ちゃんと打ち返してくれないと」

 マリコさんが羽子板片手に木陰から姿を現した。夏服の紺と白のコントラストに微妙なマッチ。何やらスポーティーな感さえある。

「……ところで今、正月だっけ?」

 ううん、と首を左右に大きく振るマリコさん。

「だけど、久瀬くんいずれにしても負けだから。スミね、スミ」

 腰から抜くはお祖母ちゃんから頂いたという矢立。華麗に筆を取り出すと、そのまま俺の頬へと走らせる。

 ひやっとして、ちょっとくすぐったい。

 ……って、何で俺が墨を塗られなきゃならないのさっ!

「だって負けた方に、×とか○とか芸術的に書くのが勝った方のつとめでしょ」

 マリコさんが差し出した鏡に写った俺の顔。頬にツっと一筋の線。なんか寄り目にして『おひけぇなすって』とか言うと、アレな雰囲気だ。

「でもさ、いきなりじゃねえか?」

「手でも足でも頭でも、羽根を打ち返すくらいできるでしょ?」

 それだと羽根突きとは全く別ものになってしまうじゃ……。

 などと考えていると、

「隙ありっ!」

 新たな羽根がスマッシュ!

 回転レシーブを試みるも微妙に届かず。

「さらに隙ありっ!」

 羽根突きって、もっと優雅な遊びじゃなかったかぁ?

「はい、ミスはスミね!」

 マリコさんが矢立から取り出した筆を片手に妖しい笑みを浮かべて迫ってくる。

 なるほど。こんなスポーツ羽根突きなら、季節外れでもなんでもないのかも。

 そうは思いつつ、無防備に墨を受けるほど俺の心は広くない。

 走りだす。

「久瀬くん、逃げるとは卑怯ナリ。待てっl!」

「だれが待つかっ」

 鬼ごっこに季節って、あったかな?

 少し走っただけで、汗がにじむ。夏空も、もう目の前だ。

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