第八話。 学園祭の出し物は
「学園祭の出し物なんだけど」
マリコさんが紙を片手にやってきた。
「まだ早くね?」
「夏休み明けたらすぐだもん。実行委員会なんか、もうバリバリ働いてるよ。パンフ作りとか、協賛金集めとか、地元テレビの取材、サークル用機材のレンタル手配、後夜祭に芸人呼んだりとか」
結構本格的だったことに感心しながら、俺は文庫本のページをめくった。
「でね。私達も出店して、学園祭に貢献しようと思ったの〜。まさに生徒の鑑よね。褒めて、久瀬くん。褒めて!」
「はいはい。えらいですね」
「もっとまじめに褒めなさいっ!」
俺は取り上げられる前に本をとじ、マリコさんの瞳を正面から見つめた。
「マリコさん。……えらいよ」
「いやぁ。そんな真っ正面から褒められると、照れる〜。もしかして久瀬くん、惚れた? ね、惚れた?」
「ああ。惚れたよ。最高だ、マリコさん」
「そうですか。惚れましたかぁ。……もう一回」
「マリコさん、えらいね」
「うふふふふっ。もっと!」
それから五回くらい褒めると、マリコさんはやっと満足そうにうんうん、と頷いた。
「で、久瀬くん。出し物なんだけど、喫茶店にしようかと……」
「メイド喫茶でもやんの?」
メイド姿のマリコさん目当てに男子連中は駆けつけてきそうだ。
ところが首を振る。
「メイドなんて、もう古いよ」
「じゃあ……執事喫茶?」
男装のマリコさんも人気が出ると思う。特に女子に。
「惜しいなぁ。なんだと思う?」
俺は首をかしげた。
「ヒゲ喫茶」
「何それっ!」
「執事喫茶……、シツジ喫茶、ヒツジ喫茶、ヒゲ喫茶、という連想で決まったの。コスチュームはヴィルヘルム二世から、ダリ、聖徳太子、関羽様までそろえようかと」
「やめた方が……」
「ね、私ならどれが似合うかなぁ。ダリなんか、どう? それで、企画書なんだけど、もちろん久瀬くん書いてくれるよね」
一番上に企画名だけがペンで『卑下喫茶』と書かれている。
俺は机に突っ伏した。