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U-RED in THE HELL ―ナラクノネザアス―  作者: 渡来亜輝彦
第三章A:仮面の王と博物館

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13.相似形の二人

(なんか、気まずい!)

 タイロは鉢合わせた二人に焦る。

 そう思ったのは、どうやらスワロもらしく、スワロがそそそっとタイロの肩に上がり、どうしようといわんばかりに目線を向けてくる。

 この二人、実は初対面なのだ。

 正確には、タイロがジャスミンのナビゲーションを受ける時に、大体隣にユーレッドはいるが、ジャスミンは彼と話をしていないし、ユーレッドもそう。

 映像を繋いでいることもあるので、挨拶くらいは……と思ったのだが、ユーレッドも遠慮しているので、タイロもそうっとしている。ジャスミンも話を振らないし。

 そんな関係である。

 ユーレッドにそのつもりはないけれど、ジャスミンにとっては、ユーレッドはタイロを悪の道に引き込みかねない不良獄卒なのだ。

 一応彼女の理解は得たつもりのタイロだが、それでも、ユーレッドの話をするとほんのり雰囲気が尖ってくるので、気を遣ってジャスミンには彼の話はあんまりしていない。

 スワロもその辺の事情をわかっているので、その緊張からタイロと顔を見合わせる。

 ユーレッドはというと、まだきょとんとしたまま。

 ジャスミンは、鋭い視線をユーレッドに向けている。

 気まずい沈黙。

「あ、あの」

 それに耐えかね、タイロが慌てて間に入った。

「ヤ、ヤスミちゃん、紹介まだだったけど、この人がユーレッドさんでっ、ユーレッドさん、この子はですねえっ!」

「知ってるぜ。ジャスミン・ナイト女史だろ」

 タイロの慌てぶりと対照的に、ユーレッドが落ち着いてそう言って、ちょっと遠慮がちに笑う。

「タイ・ファ先生からきいたところだぜ。マリナーブベイに来てるって」

「へ、聞いてたんです?」

「いやー、今の今、電話きた。そっち行ってるからよろしくって」

 ユーレッドは肩をすくめた。

「あの先生、もっと早く連絡よこせって話だよな。港まで迎えにいけたのに」

 ユーレッドはそう言ってから、ちょっと会釈する。

「実際に会うのは初めてだな。挨拶が遅れて申し訳ない。俺は獄卒UNDER-18-5-4。通称名ユーレッドだ。どちらで呼んでくれてもいいぜ。ここのところ、タイロには世話になっている」

 タイロの心配をよそに、ずいと前に出てユーレッドは挨拶をする。

「俺の素行が悪いせいで、ジャスミン女史には、随分心配をかけたみたいですまなかったな」

(おお、紳士的っ!)

 あとちょっとだけよそ向き。

「ジャスミン女史の心配するようなことはしないつもりだ。安心してくれ」

 だが、ユーレッドのよそ向き態度は無自覚に少年少女に危険だ。何故か知らないが、いつにも増してちょっと格好の良い大人の男風なのだ。

 シャオにやったのと同じような感じ。紳士的なユーレッドというのは、ほんのり危険さを伴ったまま、ちょっと穏やかで知的に見える。そういうところも、ヒーロー的に感じられるのかもしれないが。

「いいえ。私はE管区シャロウグ支部の獄吏、ジャスミン・ナイトです」

 ジャスミンはそう冷静に名乗る。

「今後ともよろしくお願いします」

(ヤスミちゃんはまだピリッとしてるんですけど)

 タイロは置いてきぼりをくらいつつ、二人に交互に目をやる。ユーレッドはそんなジャスミンに構わず軽く笑った。

「こちらこそよろしく頼む」

 シャオを陥落させたユーレッドのよそ向き微笑だが、流石にジャスミンは落ち着いている。

(まあ、陥落されても困るけど)

 そうなると、タイロはちょっと複雑だ。

 ユーレッドとジャスミンにも仲良くして欲しい。とはいえ、仲良くなりすぎても困る。

 アルル姫様やウィステリア姐さんみたいに、ジャスミンがユーレッドに甘くて熱い視線を向けるのは、正直、ジャスミンに幼馴染以上の感情を抱いているタイロには由々しき事態である。

 ユーレッドは無自覚なので、そこは勘弁してほしいところなのだった。

 と、不意に、ユーレッドがジャスミンの肩のアシスタントロボットに目を止めた。

 小型の丸いドローン型で、色は濃紺。獄卒用アシスタント以外でも、獄吏にはそうしたAI搭載のアシスタントボットを使うものもいるが、その形状に見覚えがあるらしい。

 タイロも、あらためて彼の視線を追ってハッとする。

(あれ? この子、獄卒用アシスタントの撮影者レコーダーシリーズだよね? ヤスミちゃんがなんで獄卒用アシスタントを?)

 と、ユーレッドが声をかけた。

「お? おまえ、レコじゃねえか!」

 ぴぴー、とアシスタントが鳴いて、肯定する。

「やっぱりそうか。久しぶりだな」

 きゅ、ぴ、と濃紺のアシスタントが鳴いて嬉しそうにふわっと飛び上がる。そのまま、ユーレッドの側にふよふよ飛んでいく。

 スワロがきゅと反応して、ユーレッドの方に向かう。

「レコ?」

(レコって、確か、お姫様が助けたあのアシスタントだよね)

 スワロとレコが軽く交錯して挨拶する。ぴぴ、と電子音を響かせて、ライトを点滅させてお話ししている。

 自律型アシスタント同士の会話を実際見ることはまれだ。タイロは思わず、おおっと釘付けになってしまう。

 実際に見てもなかなか可愛い。

 レコはそのままユーレッドに懐いている。ユーレッドは、アシスタントには普通に優しいので、なんとなくペットを可愛がっている感があった。

「はは、お前、おひいさまにおいてけぼり食らってたんだったな。連れてきてもらったのか?」

 ユーレッドも、スワロと接続でもしなければ、別にレコの言葉がわかるわけではないらしい。話はわからないのだろうが、レコは構わず何か話しかけているようだった。とにかく、レコに懐かれているのは確かそうだ。

 そんなユーレッドを眺めつつ、ジャスミンはなにやら考えているようだった。

「ヤスミちゃん」

 タイロはそんな彼女に声をかける。

「ヤスミちゃん、マリナーブベイに急に来るなんてどうしたの? 話聞いてないからびっくりしたよ」

「あ、ええ。ちょっとね」

 ジャスミンは慌てて答えた。

「急に特殊任務を与えられてね、とある人物を監視中なの。そいつがここにいるっていうので、直接来ることになったのよ。タイロのナビゲーションも現地の方がやりやすいだろうってこともあって」

「え、そうなの? 特殊任務って、危なくない?」

 タイロは心配になるが、

「そんな危ない奴相手じゃないわ。だから、並行して、タイロのナビゲートもできるから安心して」

 ジャスミンはその辺しっかりしている。

「そっか、それなら。でも、ヤスミちゃんもマリナーブベイに来てくれたの、俺も嬉しいなあ」

 タイロは素直だ。

「仕事終わりに一緒に観光いけるかもだしね」

 それに、シャロゥグに残している間に、まかりまちがって彼氏とかできたりなんかあると、タイロがショックだ。優秀でかわいいジャスミンを狙う男は少なくないのを、タイロは知っている。

 まあ、ジャスミンは大抵の男は相手にはしないけれども。

「ヤスミちゃん、お昼ご飯食べたの?」

「ええ、港で軽くね」

 タイロが尋ねるとジャスミンはそう答えたが、なんとなくそれは嘘っぽい。

 ジャスミンは健康食を心がけている割に、何かに熱心になると食事を抜くのは平気なのだ。その辺ユーレッドなどと似ている。

 なので、多分食事を抜いてそうだが、

「そう? ちゃんと食べないとダメだよー」

 タイロはそういうにとどめる。

 そして、あらためてユーレッドと何かしら話をしているふうなレコを見る。

 今はどうもスワロを経由して話をしているらしく、本当に話を聞いているらしい。ふんふんと相槌を打っている。

「でも、なんでレコちゃんを連れてるの? あの子、獄卒用端末だよね?」

「説明すると長いんだけど、あの子をアシスタントに使って人探しをする必要があるのよ」

「それって」

 もしかして、ジャスミンはアルルのことを知っている?

 タイロはふとそう思う。

「ヤスミちゃん、もしかして」

 ここでお姫様を探してる? と言いかけたところで、ユーレッドの声がした。

「タイロ、話し中、悪いんだが」

 仲良くなった最近でも、ユーレッドから名前を呼ばれるのは意外とまれだ。気を取られ、タイロは質問をさっくり切り上げた。

「なんですか?」

「ちょっとコイツみてくれねえか」

 ユーレッドが机の上のレコを見やる。

「レコのやつ、なんか接続おかしいとこあるらしいんだ。お前の方が詳しいだろ」

「あ、はーい。ヤスミちゃん、あの子、調整してもいいかな?」

 一応、今の持ち主はジャスミンなので、タイロはそう尋ねる。

「え? ええ。あたしはハード面は得意じゃないから。あの子に不具合があるなら、直してくれるとありがたいわ」

「んじゃ、ちょっと見てみるね」

 タイロは、ユーレッドのいるテーブルに戻ると、バッグから小さな工具セットを取り出した。


 ジャスミン・ナイトは一人離れたところで、フードコートを眺めている。

 なんのことはない、ショッピングセンターのフードコートだ。

 ユーレッドには不似合いだが、タイロがいることで、なんとなく落ち着いてしまっている。

 タイロは先程、ジャスミンとユーレッドの間の空気を気まずく感じていたが、ジャスミン自身はタイロが心配するほど彼に拒否感があったわけではなかった。

 ただ、彼女は気になることがあっただけである。

「どこが変なんですか?」

「なんか違和感があるんだとさ。イマイチ繋がりが悪いらしいんだ」

「接触不良ですかね。プログラムの問題なら、自分でわかると思うし。スワロちゃん、ログ見られる?」

 視線の先では、椅子に座ってレコの様子を見るタイロと、左手をテーブルに持たせかけ、しゃがむ形で作業をのぞいているユーレッドの姿。

 特にユーレッドをみやりつつ、ジャスミンは唸っていた。

(ぬー、もっとヤバイやつだと思ったのに、実際に見ると、意外とカッコいいじゃない、この人)

 ジャスミンは、ちょっと困惑気味だった。

(想定より雰囲気やばくないのよね。まあ多少トゲトゲした気配はあるけど、獄卒なら普通だし。さっきのあたしへの態度も紳士的だし、敵意のない相手には柔らかいというかなのかな。いや、ヤバさはないわけじゃないんだけど、意外と拒否感がない)

 むむ、とジャスミンは唸る。

(第一、レコのやつ、あたしには懐かないくせに。不具合あることも黙ってたのに、ここであの人に相談するとはね)

 その辺ちょっと悔しいが、

(まあでも、タイロが懐くの無理ないか。普通にしてると、そこそこいい兄貴感ある……)

 と納得しそうになって、ジャスミンはハッとする。

(いやいや、あんなサイコなやつに絆されるとか絶対ダメ。優しかろうがなんだろうが、基本ヤバイやつなのは確定してるんだから)

「あー、接触不良っぽいですね。ちゃんとはめなおしたら大丈夫ですよ」

「本当か。それなら簡単に直る。良かったな」

 とはいえ、目の前に広がるのは、かなり平穏な風景だ。きゅー、とアシスタント達が嬉しそうに鳴いている。

 そんなタイロとユーレッドを見て、ジャスミン・ナイトはふむと頷く。

(やっぱり、似てる)

 ジャスミンは、そっとスマートフォンを取り出すと、とある写真を表示させた。

 それは写真立ての写真を接写したものだ。少し光が入り込んでいるが、人物はかなりうまく撮れている。

 今時紙に印刷している古びた写真だった。劣化してややセピアがかっている。

 そこには、二人の男が写っていた。

 ちょうど今のタイロとユーレッドのように、一人が椅子に座り、背の高いもう一人が近くのテーブルに寄りかかってしゃがむようにしている。

 椅子に座っているのは、まだあどけない少年で眼鏡をかけ、ぶかぶかの白衣を着ている。

 背の高い方は明らかに成人男性だが、こちらも白衣を着ていた。椅子に座った少年に、兄のようにしゃがみ込んで寄り添っている。

 その男の方は、白衣に聴診器、ネームプレートと、どうも医師に見える。

 調子良くVサインをし、ほんのり悪戯っぽく柔らかく微笑んでいる。表情に明るく優しい人格が滲み出ている一方、顔つき自体はかなり精悍で、ほんのり目つきは鋭い。スタイルも良く、なかなかの男前といってよかった。

 少年の方は医者ではなさそうだが、ぶかぶかの白衣と首から下げたネームプレートからして、患者ではなさそうで、子供ながら研究者の雰囲気を漂わせている。

 顔は幼いが表情は大人びていて、控えめに微笑んでいた。

 ジャスミンは写真を並べるようにして、タイロとユーレッドを見た。

 わかりやすいのはユーレッドの方だ。

 普段、どこか冷たい、危険な雰囲気を漂わせている彼と違い、タイロを見つめる彼は優しく穏やかな表情をしていた。

 そうすると、すぐにわかるのだ。

(似てる)

 この医師の男の顔。

 普段は雰囲気が違ってわかりづらいが、この優しい表情のユーレッドを見ればはっきりわかる。

 医師らしき白衣の男は、右目も右腕もあるけれど、ユーレッドと瓜二つなのだ。

 そして。

 ジャスミンはタイロをじっとみて、写真の白衣の少年とすかしてみる。

 こちらも雰囲気は全然違って、タイロの方が寧ろあどけない表情で、少年の方が冷静で知的な感じがするけれど。ましてタイロはかけないメガネでわかりづらい。

 けれど、幼い頃から彼を知るジャスミンならわかる。

 その顔は、ジャスミンが知る少年時代のタイロによく似ている。

(やっぱり)

 ジャスミンは確信した。

(やっぱり、この二人、この写真の二人に似ている)

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