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U-RED in THE HELL ―ナラクノネザアス―  作者: 渡来亜輝彦
第三章A:仮面の王と博物館

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11.ジャンクフードとネクタイピン

「スワロさん、ユーレッドさん遅いね」

 タイロがシェイクを啜りながら話しかけると、スワロがきゅーと鳴く。

「煙草……じゃなくて、あのサプリメントかなんか、ふかしてくるって言って帰ってこないし。でも、食事しっかり食べたらサプリメント要らないって言ってたような」

 タイロはちょっと心配になる。

「本当は、あれ、すごく気に入らなかったのかな」

 ちょっとだけ冷めたポテトが残されていて、タイロはそれを口に含みつつつぶやいた。


 それは、なんとなく、テーブルの上の食べ物が片付いてきた時の話だった。

 ユーレッドは少食だが、食べるのは早い。

 ちょっと量が多かったらしく、タイロにチキンナゲットを分け与え、その後もまだポテトなどをもさもさ食べているタイロに先駆けて、食後のブレイクタイムに移行していた。見かけだけは渋く珈琲を啜っている。

 そんな彼の動作を見ていたタイロは、ふと目を瞬かせる。

「あー、そうだ。思い出した」

「なんだよ?」

「いえ、ユーレッドさんに渡そうと思ったものがあったんですけどね、朝からなんかハードだったので、うっかりしてました」

 と言って、タイロがガサガサとショルダーバッグを漁る。

「俺に渡す?」

 ユーレッドは目を瞬かせる。

「昨日見つけたんですよ。あ、あった!」

 とタイロは紙袋を出してきた。

「はい! この間からお世話になっているので!」

「は? 餓鬼の上前ははねないっていってんだろ?」

 ユーレッドは、憮然としている。

「気をつかうなって。いらねーから」

「まあまあそう言わずー。あのセンス最悪なピルケースの代わりにいいやつと思ったんですが、いいのなかったんでー、とりあえずと思ってー」

「お、お前さりげにひでぇこと言うな」

 流石にユーレッドが、左目を引き攣らせる。

 タイロは、さらっとそんなことを言えてしまうが、特に悪気はないらしい。悪気がないので、さしものユーレッドもちょっと怒るタイミングがはかれないらしい。

 それがわかっているので、タイロも平気だ。

「まあまあ、開けてみてくださいよー!」

「んー、まあ、じゃあ見るだけな」

 ユーレッドは気乗りしない様子だが、紙袋から箱を出す。手のひらサイズの化粧箱で、ユーレッドはきょとんとした。

「なんだ、このサイズ? 菓子じゃないのか?」

「食べ物じゃないですよー! 開けてくださいー!

 開けると青いベルベットの台座にピンが乗っている。

「それ、ネクタイピンなんですよ」

「ネクタイピン……」

 ユーレッドが急に動きを止めて、じっとそれを見る。どうも、ユーレッドは、お礼に食べ物でも差し入れされたのかと思ったらしく、中身が意外で驚いたらしい。

 ネクタイピンは銀色で、小さい髑髏があしらわれている。

「ガラが悪くない程度にかわいく髑髏マークついてて、かっこいいかなーって思って。ちょっと安物なんですけどねー、昨日お店で見かけて……」

 タイロはそう説明する。

「ユーレッドさん、ネクタイいつもちゃんと締めててオシャレですからね。そういう小物なら、場所取らないしいいかなって。ネクタイピン、戦闘中になくしたり、壊れたりもするし、消耗品でしょ。それでー」

 タイロが話している間、ユーレッドは全くの無反応だ。ネクタイピンを拾い上げて、じっと見つめたまま、なんだかフリーズしている。

「も、もしかして、そんな安物気に入らないですか? 失礼でした?」

 流石にタイロがちょっと不安になる。

「あ、あー、それなら質屋に入れるか、燃えないゴミの日にでも」

「だ、大事にする!」

 ぐっとユーレッドがネクタイピンを握る。

「え?」

 タイロが呆気に取られる。

「あ、ありがとうな、だ、大事にする。マ、マジで」

 俯いたユーレッドの肩がふるえている。

(え、泣きそう? いや、まさかそんな)

 タイロが思わず焦る。いやまさか。ユーレッドに限ってそんな。

 またからかっているのでは?

 と思ったのだが、俯き気味のユーレッドは、どうも真面目らしい。

「あ、あの」

「お、俺、こういうの、貰ったのあまりねえから、その、反応が、うまく……」

 ユーレッドがぽつりといって、ネクタイピンをそろっと箱に戻す。

「お、俺、これ貰っていいのかな?」

 顔を上げたユーレッドは、困惑気味だ。

「え、貰ってくださいよー!」

 タイロは慌てていった。

「そ、そんな大層なもんじゃないんですよー。本当、失礼なくらい安物で。もー、そんなに真面目にならないでくださいってばー」

 タイロは思わず調子を崩す。

「いいんですって。そんなもので良かったら、いくらでもー」

「そ、そうか、じゃ、もらうな」

 そんな調子で、慌てて持ち上げてみたけれど、ユーレッドはなんだかまだいつもの彼と違って、タイロは面食らう。

(スカルとか、流石に子供っぽい? チンピラすぎて怒ったかな)

 心配になるタイロ。そして、程なく、ぎこちなく言い訳して、ユーレッドは席を立ったわけだが。

 

「ねー、スワロさん。普段、プレゼントとか貰わないの? ユーレッドさん」

 タイロはスワロに尋ねる。

「ユーレッドさんてさ、実はめちゃモテモテだし、絶対色々貰ってそうなのにね」

 ネクタイピンを化粧箱ごと、ジャケットの内ポケットに押し込んで、スワロを置いていってしまったユーレッドを思い出し、タイロは唸る。

 で、帰ってきていない。

 きゅー、とスワロが鳴く。相変わらず、機械を使わないと、タイロには何を言っているのかはわからないものの、なんとなく通じることは多い。

「本当にあんまり貰ってないの? ウィス姐さんとか、お姫様とか、なんかとくれるんじやない?」

 きゅ。

「貰わないことはないけど、あんまり普段は会わないのかな。あと、無難だし、どう考えても、栄養足りてないから、食べ物が多いとか?」

 きゅきゅ。

 この辺は肯定。頷いてくれるのでわかりやすい。

「んでも、俺のあげたので、気分害してない? 様子変だったよ」

 きゅー、とスワロは首を振り、それを否定したあと、呆れたような態度になる。

「そうじゃないの?」

 きゅ、きゅー、とスワロは何か言いたげだ。

「え? もしかして、本当にめちゃくちゃ嬉しいとか」

 きゅ、とスワロはうなずく。

 じっとタイロを見上げる。

「あ、男からお礼とかで、こんなプレゼント貰ったことないってこと? それで喜んでるの?」

 きゅ、とスワロが頷く。

「それだといいけどー。そんなに嬉しい反応じゃなさそうで」

 嬉しいなら、なんで戻ってこないんだろう。

 流石に、喫煙所やトイレで嬉し泣きしたりはしていないとは思うけれど。

「んー、まあでも、嬉しいなら良いかあ。今度はオシャレなピルケース選んであげようっと」

 そう言って、タイロは、あ、と思い出す。

「そうそう、ユーレッドさんが変になっちゃったから、出しそびれてたんだけど、スワロさんにもあるんだよー」

 そういって、タイロはごそごそとショルダーバッグをあさる。

「これはねー、ちょっとした時につけられるリボン。頭でも良いけど、背中だと可愛いと思うー」

 そう言って、タイロは紺色のリボンをだしてきた。きゅ、とスワロが驚く。

「こうやってつけてー」

 スワロの背中の首の後ろあたりにぺたりとつける。白いパールが飾られていて、なかなか可愛らしい。

「あ、似合うよ! やっぱり、可愛い!」

 きゅきゅ、とスワロが鳴く。

「鏡ないけど、俺のスマホのカメラで見て。スワロさん、よく似合うよ!」

 タイロはスマホを自撮りモードにして、スワロの前に置く。それを見てスワロが、甲高くぴぴと鳴いた。

「雑貨屋さんで売ってたのに、俺がマグネットつけたやつ。たまにスワロさん、帽子かぶってるけど、あれもマグネットだよね。俺のもあんまり通信やなんかに影響しないやつ選んだから大丈夫と思う」

 きゅ、ぴ、きゅ、とスワロが興奮気味に鳴いている。ライトが慌ただしく点滅している、

「あれ、そんなに喜んでくれてるの? あはは、嬉しいな。ごめんね、安物で。また良いのあったら」

 ふるふるとスワロが首を振る。ぴぴぴ、とスワロが電子音を立てる。どうやら礼を言っているらしい。

「ううん。スワロさんとユーレッドさんには、色々お世話になってるもん。これぐらい」

 タイロはそう言って、ポテトに手を伸ばす。あとは小さいかけらが少しだけ。それを平らげてしまうと、タイロはトレイを持った。

「あ、終わった」

 シェイクの残りを啜ってしまって、ぐしゃりと紙コップをつぶす。

「んじゃ、これ片付けてくるね。まってて」

 ぴー、とスワロは返事をして、スマホの画面を覗き込む。ちらちら画面をのぞくのは、小動物感もあって可愛い。

(可愛いなあ。戦闘用アシスタントじゃないみたい)

 タイロはトレイを運びながら、ついつい和んでしまう。

 スワロはあれでおしゃれだ。というより、ユーレッドがおしゃれをさせる。

 マリナーブベイに来てからも、観光地に行く時に帽子をかぶせたりしている。

 視界が狭まるし、センサーの邪魔なのに、可愛い特注の帽子をかぶせるのは、ユーレッドの愛情の表れで、スワロもそれを喜んでいる。

 そういうのをみると、タイロも何かと和む。

(ユーレッドさんが喜んでるかどうかはわかんないけど、とりあえずよかった)

 そんなことを考えていると、不意に隣から声がかかった。

「やあ。あの子、可愛いね」

 聞き覚えのある声だ。

「こっちだよ、タイロくん」

 どこにいるのかと、見回したところで不意に服の裾を引かれた。

 先ほどのタイロ達の席からは柱の影になる場所。その見えない場所で、なんとなく場違いな洒落たジャケットを着た金髪の男が座っている。

「あ、ユアンさん」

「やあ、こんにちは。タイロくん。久しぶりだねー」

 そこにいるのは、ユアン・D(ディマイアス)・セイブだ。

 久しぶり、とはいうものの、ディマイアスとは、なんとなく数日おきに連絡をとっている。といっても、別に大した情報もなくて、挨拶やおすすめの店を教えてもらう程度だが。

「ユアンさんもお昼、ハンバーガーなんですか?」

 彼ならもっといい店をいくらでも知っているのに。が、ディマイアスはふふんと笑う。

「僕、ハンバーガー好きなんだよねー。ホットドッグも好きだけど」

 ディマイアスは、特大サイズのハンバーガーを口に放り込んでいる。

 あとはタイロよりも多いポテトとバニラシェイク。そしてチョコレートパイ。

 見かけは紳士だが、食性がとてもジャンクで、ちょっと子供っぽい。あと、多分たくさん食べる方らしい。背の高さはユーレッドとそう変わらないので、ユーレッドが少食すぎるのだと思う。

「ここのハンバーガー、量もあるし、美味しいんだよねー」

「でも、ユアンさんなら、高級店のハンバーガーでもいいでしょう?」

「こういうもんは、多少ジャンクな方が美味しいでしょ。僕は今、高級な肉やパンなんかが食べたいわけじゃないんだよ。こういうおもちゃみたいな食べ物が食べたいんだ」

「それはわかります」

 ディマイアスがにやりとする。

 そういえばユーレッドも、ファーストフードを「おもちゃみたいな食い物」といっていた。だが、そのおもちゃみたいな食い物が、それはそれで美味いのも間違いないのだ。

「あー、そうそう。ユーさん、大活躍だったんだって?」

「あれっ、どこで聞いたんですか?」

 唐突にそんな話を振ってくるディマイアスに、ほんのり警戒する。

「僕は僕で、それなりのルートがあるさ。僕だって獄吏の端くれよ?」

 ディマイアスはそう答えつつ、

「でも、あの看守ジェイラーっての、あれを見たのは初めてでねー。君達がうまく引き出してくれたおかげで、うまいこと実物、見られてよかったよ」

 タイロは目を瞬かせる。

「え? ユアンさんも知らなかったんですか? あの強化兵士」

「噂には聞いてたけど、実物は見てなかったね。ユーさん達がなんかと訓練突破してるもんだから、あっちも見せる気になったんでしょー? なので、今日のパフォーマンスはかえって興味深かったよ。多分、ユーさんが本気出したせいで、彼ら、もうちょい露出が増えると思う」

 ディマイアスがにやりとする。

「ありがたいよね」

 タイロは、うーんと唸る。

「ユアンさんは、その?」

「なに?」

 ポテトをもしゃっと食べながら、ユアン・D・セイブは小首を傾げる。

「あの、看守の中身とか、材料、知ってるんですか? ベアヘッドって人のこととか」

 口の中のポテトを飲み込んで、ディマイアスは薄く笑う。

「そうだねぇ」

 にんまりと笑って彼は答える。

「中身が獄卒ってこととか? アレ、僕でも噂レベルでしか知らないの。ユーさんがバシッと断定してたの、怖かったくらい。なもので、あの熊男の中身とかはわからないんだ。僕みたいな目立つ外様は、潜伏しづらいし、今のとこ、知ってることはこれくらいかな。ただ、あの熊、普通の人間と思わないことだね。多分やばいよ?」

「それはなんとなく、わかります」

「うん。あ、でもひとつ、せっかくだし、良いコト、教えてあげよう」

 ちょいちょいと手招くディマイアスだ。

 なんだか既視感がある。さっきユーレッドにいっぱい食わされたのを思い出して、タイロはちょっと警戒するが、結局、顔をよせる。

「あの強化兵士作った理由ね」

「はい」

「アレ、最近近づけないとかいう、ここの博物館と関係あると思うよ」

 てっきりしょうもない情報だと思ったタイロはどきりとする。

「博物館?」

「うん、そう。周囲に強力な囚人が多くて近づけてないから、地味に彼ら焦ってるみたいだ。あそこに目的があるんだろうね。インシュリーくんも、それに関わってると思う。それに、お姫様のことも関係ある」

 ディマイアスは、少し真面目な顔になっていた。

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