表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
U-RED in THE HELL ―ナラクノネザアス―  作者: 渡来亜輝彦
第二章-D:黄昏世界のお姫様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/129

29.灰色ヒロイズム

 ふと周りが暗くなった。

 多分、これで映像は終わりなのだ。この事件はきっとまだ続くのだろうけれど。

 そう思ったが、まだタイロは、ゴーグルを外さない。

『コレで映像はお終イです。お疲れ様デシタ、タイロ』

 思った通りのスワロの声が響く。スワロは、続けていった。

『スワロも、ご主人ノこと、ナンデモ知ッテイルわけデハアリマセン。ご主人ノ、あの夢ノことヤ、アルルさんノ事モ、詳しくは知らナイです。ケレド、アンナご主人ニモ、良イトコロは有ルノデス。ワタシは、タイロに、ソノコトヲ知ッテイテホシかった』

「うん。だと思ったんだ」

 タイロはうなずいた。

「ユーレッドさんのそれ、俺も知ってるよ。ユーレッドさん、俺にも優しくしてくれるし。良い人っていいきれないけど、俺はユーレッドさんのこと好きだよ」

 タイロが答えると、スワロは満足げになった。

『タイロの言葉、嬉しいデス。スワロは、トテモ未熟です。それニ旧型のポンコツデス。あの時も、今日の昼も、スワロのせいでご主人ヲ傷つけマシタ。今日モ、タイロがいなかったラ、ご主人、もっと体調悪くなってタと思いマス』

「ううん。俺が面倒かけちゃったからもあるからさ。でもさ」

 タイロは、ふとスワロに尋ねる。

「スワロさんは、俺にユーレッドさんの味方でいて欲しいって言ったでしょ。俺はできるだけ味方でいようと思ってるよ。でも、どうしてこの映像見せてくれたの? ユーレッドさんに逆らってまで見せてくれたんでしょ」

 タイロは優しく言った。

「ここまで見せなくても、俺、味方にはなるよ? スワロさんは、それくらいわかってたんでしょ? なのにどうして?」

『タイロニ、ご主人ノこと、たくさん知ってて欲しかっタのデス』

 スワロはそっと答えた。

「俺に? どうして?」

『ご主人、昼間トテモ楽しそうデシタ』

 スワロは無感情ながら、妙にしみじみと話した。

『あんな楽しそうナご主人、スワロはほとんど見たコトがないです。幸せそうデシタ。スワロはご主人を更生させルのと、幸せニ暮らせるお手伝いヲするノが本来ノ役目です。だから、ご主人ニ幸せニシテテほしイ』

 スワロはトーンを低めた。

『タイロは知っテマスネ? ご主人、けして良いヒトではないです。悪いヤカラともタクサン付き合いガあっテ、言動モ暴力的デ、ご主人がもっと悪い人になってイカナイカ、スワロはいつも心配。ご主人、今ハ、獄卒同士でモメてるダケですから大目ニ見られてマスが、一般市民ニも手を出しタラ……。ご主人ガ、消滅刑ニナルノ、スワロは嫌デス』

 スワロは、少し明るくなる。

『デモ、タイロなら安心デスし、それにご主人モ楽しそう。スワロは、考えマシタ。こんなに楽しそうナラ、ご主人、悪いヒトにナラナイかも。ダカラ……、タイロとは仲良くシテテホシイ』

 スワロは健気にそう言って、ちょっとトーンを落とす。

『スワロは、ご主人ガダメな悪いヒトでも、ご主人ガ好きですカラ……。ずっと一緒ニイタイ』

 スワロは改めて尋ねる。

『スワロの勝手ナお願いデ、タイロには迷惑かけマス。ここまで聞イテ、マダ、タイロ、ご主人ノ、味方デイテクレマスカ?』

「もちろんだよー」

 タイロは明るく答えた。

「スワロさんのお願いだし、それにね、お陰でユーレッドさんが、お姫様を大切に思うのもなんとなくだけどよくわかった。ここでも、俺ができることなら、協力するよ」

 と、タイロはゴーグルを外した。

 目の前に丸いスワロが、ちょこんと鎮座している。ゴーグルを外してしまうと、スワロの声は電子音にしか聞こえない。

「でもね、一つ間違いがあるよ。俺、ユーレッドさんは一番スワロさんといるのが幸せだと思うけどな」

 きゅ? とスワロが小首を傾げる。

「だって、スワロさんはユーレッドさんの相棒でしょ? ユーレッドさんはね、本当にスワロさんがとても大切なんだよ。そんな変な気遣いしなくても、ユーレッドさんはスワロさんといれば、一線越えて堕ちてったりしないよ、多分。スワロさんの為に、踏み止まれるんだと思うよ?」

 タイロはスワロを抱き上げる。

「俺、ユーレッドさんってアレで結構ヒーローみがあると思うんだよね。まあ、ちょっとやりすぎたりするけど、そこんとこちゃんとしてるでしょ。それは、ユーレッドさんは、スワロさんといるから、何があってもギリギリヒーローでいられるんだと思うんだよ」

 スワロは、きょとんとタイロを見上げる。

「だって、スワロさんの前ではユーレッドさん、ちゃんとヒーローしてるもん。あれは多分意識的なところだと思うんだ」

 スワロがふと動きを止めて、じーっとタイロを見上げる。

「あ、でも、俺、こんなこと言ったら生意気だよね。まだ二人に遊んでもらって二日くらいなのに。適当だと思ったら流してて」

 慌ててタイロがそう断るが、不意にきゅ、と鳴いてスワロが飛びついてきた。

「どうしたの?」

 驚くタイロに、きゅ、きゅ、とスワロは鳴いてぐいぐい頭を押し付ける。タイロはようやく意味がわかって、スワロを撫でた。

「あはは。スワロさんはかわいいなあ。これからもよろし……く?」

 とタイロが言い終えかけた時、スワロがふと不穏な反応をした。

 そして、突然窓が割れた。

「ぎゃあああー、なに! なに?」

 タイロは悲鳴を上げつつ、スワロを抱きしめて部屋の奥に逃げる。

 割れた窓から黒い人影が覗いていた。服は着ているが、人間のように見えない。

(なにあれ、もしかして汚泥的な何か?)

 先ほどまでそういう映像をみてきたこともあって、タイロもかなり飲み込みが早くなっていた。しかし、早くなったからといって、そこまでなのだ。対抗できることは特にない。

(逃げなきゃ!)

「ま、まずい!」

 タイロは部屋の外に出ようとするが、うまくドアノブが回らない。

「え、マジ。なんで? 鍵でもかかってる?」

 ふと窓を見ると、服を着た囚人らしいものが棒のようなものを握っていた。その体が衣服から飛び出てぬるぬると変形する。

「わわっ! ヤバイ! た、助けて!」

 タイロは迫る囚人に思わず叫ぶ。スワロが戦闘態勢に入りかけるが、スワロだけでは心許ない。

「ユ、ユーレッドさーん!」

 近くにいるであろう彼に、タイロは思わず助けを求める。

「ユーレッドさん、助けて!」

 囚人が獣のように飛びかかってくる。と思ってタイロが頭を覆った瞬間、囚人は横から押し込まれたように壁に叩きつけられた。

「呼んだか?」

 いつのまにか、窓からユーレッドが入ってきて、囚人を斬り捨てて蹴倒していた。

「ユーレッドさん!」 

「あーあ、控室汚しちまった。ウィスのやつがうるせえかなー、これは」

 ユーレッドは気怠くため息をつきつつ、刀の刃を拭うと腰に戻す。

「まいいや。これで今日は本当に営業終了だぜ。あーあ、俺、本当仕事熱心だよなァ」

 ユーレッドは伸び上がる。

「ユーレッドざああん、来てくれてよかったあああ」

 タイロはやや腰が抜け気味で、ユーレッドに抱きつきかかる。

「な、なんだ、お前。またビビって泣いてるのか? 大丈夫かよ?」

 ユーレッドが頼りなげに眉を寄せる。

「い、いや、これはそうじゃなくて! その、いろいろな感情が押し寄せてきてですね」

 タイロは目のあたりを拭う。

「んん?」

「ユーレッドさんの体とか、風穴とかあいてないかとか、いろいろ心配になって……」

 と、ユーレッドがむっとして、タイロの手にあるスワロを睨んだ。

「スワロ、お前、やっぱり!」

 どき、としたように、スワロがきゅっと声を上げる。

「上映時間が長すぎるんだよ。わかってんだぞ! お前、あの後のことは見せんなって、俺が」

 慌ててタイロが間に入る。

「あああ、スワロさんは悪くないんです! 俺が、無理やり頼んじゃったから!」

 むー、とユーレッドは、タイロをにらむ。

「怒るなら俺を怒ってください。スワロさんは悪くないんで」

「お前も頼んだけど、乗ったのはコイツだろ。むしろ主犯はスワロだ」

「いや、でも!」

「ごまかすなって。ったく、それぐらいわかるっつうの」

 ユーレッドは、本気で怒っているわけではないらしい。ぷいと顔を背けつつ、

「どうせ見せるとは思ったんだ。俺が、何年そいつと付き合ってると思うんだよ。スワロの性格なんて、わかりきってる」

 ユーレッドは不機嫌を装っているらしい。

「どうせ変な気ィ回しやがったんだろう。全くしょうがねえな」

 タイロがちょっとホッとすると、ユーレッドはタイロを睨みつつ言った。

「まあ、べつにいーぜ。見ちまったもんは仕方ねえからな」

「すすす、すみませんー」

 きゅー、とスワロも申し訳なさげに頭を下げる。ユーレッドは、ちらとそれをみて、結局スワロをなでてやる。

 ユーレッドはなんだかんだで、スワロには甘い。

「でも、ユーレッドさん、来てくれてよかったです! どうしようかと思いました」

「お前が俺を呼んだからだろ?」

「でも、ここ、防音ちゃんとしてそうだし、聴こえないかと思ってたんです」

「そういやそうか。窓は割れていたが……、お前の声ははっきり聞こえてた」

 とユーレッドは顎に手を当て、ちょっと眉根を寄せた。

「まあ、そっか。今のもそうだよな。うーん、これ、偶然じゃなさそうなんだよな、やっぱり」

「へ?」

 ユーレッドが考え込んでしまったので、タイロはきょとんとしたが、

「あーっ、もう! 控室は汚さないでって言ったでしょ!」

 窓の外からウィステリアが顔を覗かせて、文句を言う。

「しょうがねえだろ、不可抗力なんだよ。勢いでやっちまったんだ」

 ユーレッドは平然と答えた。

「壁と床だけだから、管理局の清掃でも呼べ。ほれ、ドレスは汚れてねえだろ。これでも最低限の努力したんだよ」

「どうだか」

 ウィステリアは不機嫌に言いつつ、窓に手をかけて中に入ってきた。

「あ、あの、ウィスお姐さん、ドアが開かなくて、それでユーレッドさんを俺が呼んじゃったんで……」

 ここで喧嘩されても困る。タイロが慌てて割って入ると、ウィステリアは苦笑した。

「ごめんね、タイロくん。実はトリックに頼んでオモテから侵入できないようにしてたのよ」

「トリック?」

「もし旦那が間に合わなくても、トリックが助けてくれたと思うんだけどね。タイロくんにカッコつけたいユーの旦那が、何かと張り切って」

 チッとユーレッドが舌打ちする。タイロはきょとんとした。

「トリック、もういいわよ」

 呼びかけると、にゅるっと扉のスキマから黒いものが溢れてきて、虫のような形になる。

「わわっ!」

「大丈夫。大人しいいい子だから」

 驚くタイロにウィステリアがいう。

「大人しいっつーか、ワームの見かけとか、普通に考えて怖いだろ」

 ユーレッドがいらぬことをいうのを無視しつつ、トリックはウィステリアの手首で腕輪になる。

「え、そ、それ、お姐さんのアシスタントなんですか?」

「そうよ。でも、旦那達の持ってる獄卒用とはちょっと扱いが違うけれどね。何かと優秀な子なの。この子はトリック、それとジャックとミュジックよ」

 名前を呼ぶと、ウィステリアの二の腕の腕輪とイアリングが揺れる。

「よろしくね」

「あああ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 タイロが慌てて挨拶する。

 ウィステリアは、囚人の脱ぎ捨てた衣服を銃の先で持ち上げつつ肩をすくめた。

「でも、やっぱり変だわね。さっきの連中とは別働隊? それとも、同じかしら」

「さあな。同じチップはあるけどよ」

「でも、この状況、わざわざタイロくんをってことでしょう? ねぇ?」

「わざわざだよな」

 ちら、とユーレッドが、タイロをみて目を細めてにんまりした。

「な、なんです?」

「いやァ、なに。お前といると多分退屈しねえだろうなッて話」

「へ? どーいう意味っスか?」

 呆然とするタイロに、ユーレッドは意地悪にニヤリとした。

「俺が思うにさ、お前、多分、なんかの事情で命狙われてるぜ?」

「えええっ」

 タイロが思わず悲鳴のような声を上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ