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U-RED in THE HELL ―ナラクノネザアス―  作者: 渡来亜輝彦
第二章-D:黄昏世界のお姫様

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13.緑夜の蛮行-2

「厄介?」

 ユーレッドはふとそう聞き返す。

『もし獄卒なのだとしたら、いよいよどこかの調査員エージェントないし、それに近しい存在の可能性が高いわよ。だとしたら、裏にいるのは管理者アドミに近い高等管理局員かもしれないわ』

「そんなこと、最初から予想済みだろう? まあ、俺はアイツは過激派のスパイかなんかかと思ってたがな。あの過激派の裏側にもいろいろヤバイのがいるってハナシじゃねえか」

 現に、とユーレッドは言葉を区切って、ちらりとあたりを見回した。あたりはやはり、黒いタールのような汚泥が林の中をうごめいているばかりである。

「あいつらどっから囚人をけしかける方法を教えてもらったんだろうな。いくらゲートに近い郊外だといっても、居住区内にこんなにうようよ入り込んでくるのは異常だぜ?」

 で、とユーレッドは、付け加えた。

「結局のところ、ビンズの奴は敵か味方かどっちなんだよ?」

『あんな奴、味方のはずがないでしょう?』

 ハハッとユーレッドは笑う。

「どうせそんなことだろうと思ったぜ。だが、ちょっとコイツは流れが良くねえな。っと!」

 ぴぴ、とスワロの警告音が発せられると同時に、ユーレッドは大きく左側に身をかわす。ぬばっと囚人の黒い触腕がユーレッドのいた場所に覆い被さる。

「俺に対して、右から来るとはいい度胸じゃねえか!」

 ユーレッドは挑発的にそういうと、流れるように身を翻してざっと囚人の泥のような体を引き裂いた。

(んー、これはかっこいい)

 相変わらず、こういう時の彼の動きは異常なほど滑らかで美しい。基本的に目の前で揉め事は起こしてほしくないタイロでも、目を奪われてしまうくらいだ。

 しかし、本当にこういう時の彼は体力があるというか。全力疾走というわけではないのかもしれないが、それなりのスピードをキープしながら走っているのに、ウィステリアと散々雑談ができている。あまり息も上がっていない。

 しかも、ところどころA共通語を交える余裕すらあるのだ。

(この辺は素直に褒めてあげたいところだよね。かっこいいよなあ)

 タイロが思わずほれぼれとする。

『大丈夫?』

「ふん、雑魚しかいねえよ。だが、それにしても数が多いな。いくらけしかけているとはいえ、多すぎるぜ? 昼間のアイツを餌にして、集めたのか? 囚人は一般人より獄卒の死体の方が本当は好みだからな」

 ウィステリアの問いかけにそう答え、ユーレッドはふむとうなる。

「せっかく、おひいさまを連れ出すルートを確認しに外に出たのに、まさか帰りにこんな目に合うとはな。ルート変更が必要か?」

『今のところ大丈夫じゃないかしら。ただ、過激派のテロリストの連中の動きを感知して、管理局の戦闘員が動いているようだわ。待ち合わせ場所は少し変更するかもしれないけれどね。アナタのいくつかある隠れ家まではたどり着けるでしょ?』

「ちッ、ざっくりしてやがるなあ」

 ユーレッドは肩をすくめるようなそぶりを見せる。

『けれど、ずいぶん、あの過激派の連中大胆ね。お姫様がここにいることしっているんでしょ、彼ら。それなのに、こんなことをして、お姫様がどうかなったらどうするつもりなのかしら』

「知ってるからだろ」

 ユーレッドがぽつりとつぶやく。

「あの娘は、汚泥や囚人なんてもんには元から強いんだ。知ってりゃこれぐらいの手荒なことはするぜ。それに、最悪死んでいても構わねえんだろう。アイツらが欲しいのは、あの娘じゃなく、”鍵”なんだ。あの娘の識別票でも手に入れればそれでいい。バラバラになりさえしなきゃ、いいと思っているんだろうよ」

 ユーレッドは、確信を持った口調でつぶやく。

「あの娘はただのお姫様じゃねえ。”魔女”だからな」

(魔女?)

 タイロは、ユーレッドの口から思わぬ単語が漏れたので気を留める。

 魔女? マジョ? ウィッチの魔女?

 スワロもこれは意外に思ったのか、思わず、きゅきゅ、と小さく鳴いた。

 一体ご主人は、この期に及んで何をファンタジックなことを言っているんだ。とうとう、本当にイカレた? というような反応だった。

 スワロはちょっと毒舌だ。言語化されていないけれど、タイロにもスワロの言いたいことはなんとなくわかった。

 しかし、どうもこれは的外れな言葉ではないらしい。

『あら、ユーの旦那、随分と余計なことを知っているわね』

 ぼそとささやくように付け加えたユーレッドの言葉に、ウィステリアが思わず意外そうに反応する。む、とユーレッドが、眉根を寄せて困った顔になった。

『油断ならないわね。お姫様のこと、本当はどこまで知っているのかしら?』

「は、はァ? な、何も知らねえよ! な、なにも言ってねえだろ、俺は!」

 慌ててユーレッドはごまかす。

「非常事態に余計なこと言うな! 大変なんだよ、こっちは!」

『ああそうね。ふふふ、一度、旦那とはしっかりお話しないといけなさそうね』

 ウィステリアがなぜか面白そうに笑う。

「知ってることなんざあ何もねえよ」

 ユーレッドは慌てて話を変える。

「そ、それより、さっき管理局の連中がどうのって言ってたな? そいつらのおおよその位置とか教えろよ」

『正確な位置は今調べているところ。でも、その工場跡の南東の林の向こうから遠巻きに囲んできているわ。そのうちライトが見えると思うわよ。で、ひとつ、よくない話』

 ウィステリアが、そう前置いた。

『その遠巻きにしている連中が、対獄卒用ジャマーの大型なものを運び込んでいるわ。その一帯に、対獄卒用ジャマー射出の準備をしている……』

「なんだと?」

 ユーレッドが少し眉根を寄せる。

『小型のジャマーは射程が短くて持ち込む必要があるけれど、それは彼らも二の足踏んでいるみたいね。これだけ囚人反応があれば、彼らはおいそれと入り込んでは来ないはず。そこで大型のジャマーを使うことにしたみたいよ。それなら一気に獄卒だけを制圧できるし、なんなら過激派の獄卒も巻き込めるわ』

「ちッ、それはまずいな」

 ウィステリアの声は冷静だが、ユーレッドは珍しく困った様子になる。

「普段ならそこまでは影響はないんだが、この囚人の数の中だ。あれ食らうと、少なからず俺にも影響が出る。流石の俺もあの娘を連れて逃げるのは難儀だな」

『精一杯妨害はしてみるわ。でも、彼ら、本当はショックウェイブの申請をしていたみたいでね。あいつらもなかなか過激ねー』

 ウィステリアが、けらけらっと笑う。

「な、なに笑ってんだ! ショックウェイブだけは俺だってシャレにならねーんだぞ!」

 少しイラっとしたらしく、ユーレッドが喧嘩腰になるが、ウィステリアは軽く流す。

『それは大丈夫。こっちだって、いろいろやってて大変なの。それにしても、あいつらも何か知られたくないことでもあるんじゃないかしらね。全く、裏にどこの管理者アドミが絡んでいるのかしらねえ』

 ウィステリアが続ける。

『対獄卒ショックウェイブについては、ちゃんと手を回して申請不許可にしておくようにしてるわよ。命令無視されなきゃ、引っ張り出すこともできないようにしてやったわ』

「ほ、ほほう、お前、つくづく怖い女だな」

 ユーレッドは、やや引き気味だ。ため息まじりに気だるく吐き捨てる。

(いや、本当にウィステリアさん、怖いな!)

 思わずタイロがユーレッドに同調してしまう。

(ウィス姐さん、この感じ、調査員エージェントとかそっちの人っぽいけど、上にいる人めちゃくちゃえらい人でしょ、さては……。こともなげに申請の妨害できているし、超怖い)

 有能なのは間違いなさそうなのだけれど。ユーレッドが、ちょっと苦手にしているのもわかるところである。

『ところで、獄卒といえば、旦那の他にいた獄卒は大丈夫なの? あと二人ほどいるでしょう?』

「さぁ、どうかな。夕暮れまでは、姿は見かけたな」

 ユーレッドは興味なさげだ。

「こんだけ囚人が出てきていたら、あいつらだって何か行動してるだろう。つっても、この囚人の数じゃ、喰われてるかもしれねえがなー。あいつらの性格考えると、籠城してるとも思えねえし」

 ユーレッドは、彼らに対しては非常に冷淡だ。正直、彼らがどうなっていようと、どうでもいいのだろう。

「ま、あいつら、敵みたいなもんだから、俺にとっちゃ食われてもらった方があとくされなくて楽……」

 そんな冷たいことをユーレッドが言いかけた時、スワロが急に鋭い警告音を立てた。

 タイロも聞いたことのない音だ。思わずドキッとしてしまう。

 それはユーレッドも同じようで、飛んでいるスワロに険しい顔で問いかける。

「どうした、スワロ?」

 電子音が聞こえ、スワロが早口で何か伝えたらしい。ユーレッドがさっと顔色を変える。

「なんだと? それ、本当か!?」

 ユーレッドは盛大に舌打ちする。

「くそッ、あんのロリコン野郎ォ! さっさとぶっ殺しておくんだった!」

 ユーレッドは極めて物騒なことを口走りながら、足を速める。ウィステリアが心配そうに尋ねた。

『どうしたの? アルル姫に何かあった?』

「ああ。娘に預けてきた撮影者レコーダーからスワロに連絡が入った」

 ユーレッドは、思わず歯噛みする。

「中に獄卒が二人いるんだが、その一人の瘦せたやつの方があの娘を変な目でみてやがったんだよ。知ってたんで俺も警戒していたんだが、この非常事態に何を血迷ったか、おひいさまに襲い掛かったらしい!」

 えっ、とウィステリアが声を上げる。

『部屋に、鍵はかけてなかったの?』

「鍵はちゃんとかけてたし、汚泥を通さないようにもしていたぜ」

 ユーレッドは非難めいた声にそう反論する。

「ただ、中から開けちまったんだよ! くそ、俺だって確実にわかるまでは、絶対に開けんなって言ったのに!」

 ユーレッドは苛立ちながら吐き捨てる。

「急いで戻る!」

 さらに足を速める。

 彼の行く先に黒い囚人が数体ぞわぞわと起き上がってきていたが、ユーレッドは軽くステップを踏んで攻撃をかわし、すれ違いざまに斬りはらった。

 緑色の画面に黒い体液らしいものが飛んでいくのがかすかに映る。

撮影者レコーダーがそばにいるから、多少の抵抗はできるだろう。あの娘だって、何もできねえわけじゃあねえからな!」

 ユーレッドは自分に言い聞かせるようにそういうと、ウィステリアに声をかけた。

「ウィス、後で座標と、連中の妨害の経過の連絡寄越せ! 制限時間内にどうにかしてやるぜ!」

 ユーレッドはそう言い置くと無言に落ちた。

 今度は手前に現れた囚人をばさっと斬り捨てる。

 どんどん工場の壁が迫ってくる。ユーレッドのジャケットの裾や袖がひらめく。すでに足元は汚泥が侵食し始めていて、ところどころ踏みつけるとべちゃりと音がする。

 目の前には建物の壁。廊下につながっているらしい窓が一つある。彼はそれをちゅうちょなく乱暴に蹴破った。

 ガラスの割れる音がし、その、電灯も消えてしまった暗い建物の中に、ユーレッドの痩身はするりと消えていった。

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