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U-RED in THE HELL ―ナラクノネザアス―  作者: 渡来亜輝彦
第三章C:サイケデリック・インフェルノ
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8.戦闘狂フィースト-1


 強化兵士『看守ジェイラー』のエースであるE03。

 そういえば、彼はアルルを乗せたトレーラーに同行しておらず、タイロの乗せられたトラックの方にいた。

 タイロは彼に捕えられたのだったが、一方、あれ以降さして興味もなさそうで、彼は檻の中のタイロを無視していたはずだ。

 看守たちは余計な行動を取らなかったし、彼らは行動を抑制されているのだろうけれど、エースであるE03のそれは他の看守と比較しても特に徹底していた。

 囚人との戦闘では、彼は真っ先に戦闘に参加していたはずで、タイロを振り返ることはなかった。

 一番、看守らしい忠実な兵士。なんの感情も示すことなく、淡々と命令に従っている。

 そうなのかな、とも思っていた。

 しかし、捕獲対象のタイロを放置して戦闘に臨んでいた彼の態度は、実のところ職務熱心な忠実な看守の態度などでなく、本気で戦闘を優先していただけで、タイロのことなどどうでも良かったのではないだろうか。

 彼は、本当は闘いたいから、そうしていただけだったのでは?

 真面目に、あくまで忠実に任務をこなしながら、もしかしたら、彼はこうして支配を逃れる機会をずっと狙っていたのかもしれない。

 自分の思うまま戦う為に!

 そう考えて、タイロは思わずぞわりとした。

「ちッ!」

 ついてくるE03に舌打ちし、ユーレッドは振り向きざま左手の拳銃を連射した。

 E03は焦ることなくブレードを構えて速度を落とす。いくつかの弾丸をそれで防御したのか、甲高い音が鳴る。

 全弾撃ち込んだユーレッドが薬莢を捨て、リロードしようとしたが、その時、E03が、がっと加速をかけた。

 それにいち早くユーレッドが気づく。

 ブレードは拳銃では防ぎ切れない。

 ユーレッドは拳銃をホルスターに滑り込ませると同時に、ユーレッドは背中に背負っていた刀を抜こうとしたが、E03の動きの方が速かった。

 タイロがはっと身を屈めるが、直後にガッと甲高い音が鳴り火花が散る。

 ユーレッドはタイロをかばうように、体を左側を内に傾けている。半分鞘から抜いた状態の刀の刀身で、E03のブレードの刃を受け止めていた。

 ギリギリギリギリと、金属の軋む音が響く。

「ユーレッドさん!」

 流石のユーレッドも完全に刃を抜く暇がなかったものか、それを考慮してわざとその体勢で攻撃を受けたものらしいが、彼にしては珍しく不利だ。

 E03が見えぬバイザーの奥でニヤリと笑った気配がしたのは、タイロの気のせいか。それは気のせいか、残虐な笑みに見えた。

 ガッと力任せに押し込まれ、オートバイが傾きそうになる。

 ユーレッドはかろうじて姿勢を保つ。ユーレッドの右手がギシリと軋んでいる。今の彼の右手は、強化プラスチック性の義肢なのだ。タイロもハンドルを握っているが、実際、オートバイを支えているのはユーレッドの右腕だった。

「ユーレッドさん!」

 タイロは思わず声をかける。

 ユーレッドは右腕の義肢の出力が、タイロの腕力以下だと言っていた。右腕だけでは、E03の攻撃を防ぎながら姿勢を保って走行するのは危険だ。スワロのサポートはあるとはいえ、相当スピードも出ている。

 歯を噛み締めているユーレッドは返事をしなかったが、心配そうなタイロに視線を向けてわずかにニヤッと笑う。

 何てツラしてんだ!

 という声が聞こえそうだった。

 そのまま、E03は一度刀を引くとすかさず叩きつけてきた。ユーレッドはやや姿勢を変えるようにして、抜きかけの刀で防御する。

「ちッ!」

 二度の斬撃を受けたところで、ユーレッドが舌打ちし、一瞬の隙をついて刀を抜いて反撃した。

 ガキン! とかなり重い音がする。ギギッと金属が軋み、タイロの目の前で火花が散った。E03はユーレッドの攻撃をブレードで受け止めている。

 ユーレッドはE03を引き離すようにして、距離をとったところで追撃するが、今度はE03の方が引き下がった。深追いを避けたのか、この戦闘を楽しんでいるのかはわからない。

「ユーレッドさん! 前ッ!」

 ハッとタイロが前を向いて叫ぶ。

 壁が目の前に迫ってきていた。が、ユーレッドは流石に気づいていたらしい。軌道修正して扉をかわし、スピードを上げた。

 少し遅れてE03もついてきて、扉を華麗に抜けてくる。そして少し遅れてトラックが続いた。

「あんの野郎!」

 ユーレッドはチラリとミラーをみやって吐き捨てる。

「人の嫌がることしやがって!」

 ユーレッドは舌打ちして悪態をついた。

 タイロには、ユーレッドの言わんとすることがわかる。E03はユーレッドが低出力の右腕だけでオートバイを支えているのに気づいており、敢えて揺さぶりをかけて来ているのだ。しかも。

「す、すみません。俺がいるからっ!」

 ユーレッドは、タイロをかばいながら動いている。それをE03は巧みに突いてきているのだ。

 弱味につけこんで弄んでいるかのように。

「はっ、何言ってんだ!」

 ユーレッドは苦笑した。

「お前にそんな気ィ使われるようじゃあ俺も、耄碌したもんだぜ!」

 ユーレッドがちらっと前に座るタイロに視線だけ向ける。

「でも」

「ふん、これくらいのハンデがねえと燃え上がらねえって話だぜ! お前は気にせず振り落とされねえように集中してなア!」

 そうこうしている間にも、E03が再び攻撃の機会を狙っているのがわかる。

「あいつ、やっぱりな」

 ユーレッドは、チラリとサイドミラーを見ながら苦笑した。

「飛び道具より、ブレード使った白兵戦の方が得意ってか? 根性据わってんじゃねえか!」

 ユーレッドは少し面白そうに言う。

「ユーレッドさん、でもどうします?」

 タイロが心配そうにいうと、ユーレッドはふっと笑った。

「そりゃあ、俺としても、あいつの気合に敬意を込めてやりやってやりたい気持ちもあるんだがな。そんな俺でも、今は、そう簡単に応じてやる場合じゃねえのもわかってるぜ」

 ユーレッドは、バイクのスピードを上げながら、ミラーでE03の背後をさらに見たようだった。

「あのドロドロの汚泥トラックをなんとかしねえとな! あいつと打ち合うのだけならなんとかなるが、他のやつに囲まれたら、流石にこっちがまずいぜ」

 きゅっとスワロが同意する。

『ネザアス、それじゃ、どうしようって言うんだい? なにか作戦ある?』

 黙って聞いていたキーホが、声をかけてきた。

「せっかく、ご丁寧にトラップだらけの場所なんだ。バトルフィールドが確保できるまで、有効活用させてもらうぜ!」

『ゆ、有効活用って?』

「あの防火壁だ! どのみち、どんどん迫ってくる。アイツが機能しているうちに、罠にかけて、トンネルの中で片付けるしかねえ!」

 当然ながら、まだ諦めていないE03が近づいてくるが、ユーレッドは威嚇射撃をしながら、彼との距離を一定の距離に保とうとしているようだ。

 ただ、それだけにスピードがやや不安定になって来ていた。先ほどはそれなりに余裕で抜けていた防火壁との隙間が、体感的にも狭くなっていくのが感じられる。

「ユユ、ユーレッドさん? 隙間あ! なんだかスピードが落ちてないですか?」

 タイロが不安そうにそう言うと、

「当たり前だろう。牽制すりゃスピードは落ちるぜ。それに有効利用するって言ってるだろ?」

「そ、そんな! 壁に挟まれちゃわないです?」

「心配すんな、まぁ見てろ」

 ユーレッドはそういうと、閉まる防火壁の隣をすっとすり抜けた。

 なるほど、あれで常に防火壁に挟まれないルートを確保しているようで、迫り来るそれを確実に避けている。

 しかし、E03は常に攻撃の機会を伺ってもいた。それに対して、銃撃を中心にして牽制をかけているが、そのためにスピードが落ち、背後のトラックとの距離が近くなっている。

(壁に挟まれるのも怖いし、あいつも怖いんだけど、あれに追いつかれたらどうしよう)

 もうトラックからは、飛び道具が飛んでくる気配はなかったのだが、それもそのはず。

 トラックの中がすごいことになっていて、タイルは気が気でない。

 トラックの中では看守たちが既にもう溶けてしまったようになっていて、黒々とした泥の塊が向いている。

 いや、もうあれは囚人といっても良いのだろうか。

 『ぐちゃぐちゃに溶けて絡まった何か』が、団子のようになり、だんだんひとつの塊になりつつあるのだ。それがトラックの荷台いっぱいに広がっていて。

 もはや、正視に堪えないどころか。

「ユユユ、ユーレッドさん、どうするんですか? 後ろのトラックうう! いつのまにか、すんごいグロくなってる!」

 泣き事のようなことをいっていたタイロだが、ユーレッドがそれに反応しかけて、そのまま引き金を引いた。

「ひゃあっ!」

 いつのまにか、E03が近づいて踏み込んできそうになっていた。すかさずユーレッドが撃ち込んだ弾丸は、ブレードに弾かれているがらそれで彼が引き下がる。

「チッ、油断もスキもねえ! アイツら、そろそろ囚人化が進んでノってきてるぜ!」

「ええっ、そんなっ!」

 タイロが情けない声を出している合間にも、E03は攻撃を仕掛けようとしてくる。それ押しのけるやうに、ぐっとアクセルをふか好き。スピードがどんと出て、タイロの体に圧迫がかかる。

 迫り来る防火壁。すりぬける合間がどんどん狭くなってくる。

 タイロはハンドルをつかむ手に力を入れるが、ユーレッドは冷静にハンドル操作を行いすり抜けていく。少しずつ防火壁との距離が近くなっている。

「キーホルダー!」

 ユーレッドが声を上げる。

「お前さっきシステムに侵入するとか言ってたが、進捗どうなんだよ?」

『は、っ、はいはい、お待たせしております。えーと、もうちょっと。もうちょっとでシステムに侵入できそうなんだけど、もうちょっとだけ待って』

 キーホは、こんな事態なのにのんきな返事だ。

「もうちょっとってどれぐらいだよ! あー、とにかくできたらすぐ言えよ」

「了解!」

 ユーレッドは、なんだかんだでキーホにはやはり少し甘い……気がする。

「ウィス! 聞いてるか!」

『ええ、大体状況は』

 ユーレッドがウィステリアに呼びかけると、ザザッと雑音が入り、歌声が途切れてウィステリアが返事をする。

「ここからは、ガチの白兵戦だ! 俺がちゃんとノレるように歌ってくれよ!」

 ユーレッドは、そういうとホルスターに銃を収めると背中の刀の柄に手をかけた。

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