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U-RED in THE HELL ―ナラクノネザアス―  作者: 渡来亜輝彦
第三章C:サイケデリック・インフェルノ

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2.地獄巡りハイウェイ

 タイロは思わず涙ぐむ。

「ユーレッドさん! 本当に来てくれたんだ! それに無事でよかった!」

 タイロはぐすんと鼻をすする。

「足溶けてるみたいに見えたし、大丈夫かってずっと心配してたんですよ」

「へへっ! 大げさだな、お前は。あれくらい、どうってことねえよ」

 ユーレッドはタイロの頭をどやしつつ、得意げだ。

「まったく、お前ら、ほんと、俺がいねえとダメだよなァ」

 と、その時、スワロがふと反応する。

 同時にキーホも気付いたらしく、声を上げた。

『ネザアス! 看守ジェイラーが!』

 スワロの視線の先で、ぎしっと音を立てて、撃ち倒されたはずの看守が立ち上がり、まさにユーレッドに飛びかかろうとしていた。

 が、ユーレッドはそれをスワロよりも先に読んでいたらしく、素早く左手をあげた。銃声が三度鳴り響く。容赦なく弾丸を撃ち込むと、看守は黒い塊になりながら崩れ落ちた。

 しかし、少し様子が変だ。うねうね動いている。

「チッ、ちょい上等の黒物質ブラック・マテリアルだな。後始末が厄介だ」

 ユーレッドがそう小声で吐き捨てた。

「はわわ、まだこのひとたち動くんですか?」

 タイロが気味悪そうに、まだ動く黒い塊を見やる。ユーレッドは肩をすくめた。

「ああ。こういうのは厄介でよ。まだ囚人なりたてで、コアの形成が不十分なんだ。さっきも俺は正確にコアをぶち抜いているんだが、こうして動くだろ? この状態だと、トドメ刺すのが逆に難しい。もうちょっと完全に”固まって”からのが楽だな。こいつだって、また新たしいコアを作って復活するだろうから、早めにずらかるぜ」

 そして、ユーレッドは左目を引き攣らせるように細める。

「だが、気に入らねえなあ。獄卒を改造したものだとは踏んでいたが、コイツらにこんなに良質の黒物質ブラック・マテリアルが使われているとはな。余計に厄介だ」

「そんなもんなんですか?」

「ああ。強化兵士が囚人堕ちするのは、獄卒の例を引くまでもなく厄介なことなんだぜ。しかも、こいつらはいい餌な上に、最初から理性があってないような奴らさ。改造したっていっても獄卒は獄卒。命令系統やられたら、どのみち、制御できなくなるのわかってるのに、実戦配備しようとするとはなあ。やっぱり、ここに長居はできねえな」

 ユーレッドの肩にスワロが戻る。

「色々聞きてえこともあるんだが、積もる話はまた後だ。この調子じゃ他の看守も食われてるだろうよ。行動は早めにしねえと、こっちも命とりだ」

 ユーレッドはトンネルの入り口の方をチラリと見た。ずるずると何か引きずるような音がする。

「囚人の数もすげえことになってきている。あいつらは呼び合うからな。騒ぎに惹かれて集まってきているんだろう。移動するぜ。ほら、お前はこれかぶってろ!」

 ユーレッドはタイロに、積んできた携帯用ヘルメットを投げ渡す。小さく折りたたまれているヘルメットだが、ボタンを押すと展開してちゃんとフルフェイスのヘルメットになった。

「後に乗れ」

「はい! ユーレッドさん!」

 タイロは素直に従って、ヘルメットを被ってタンデムシートに乗った。

「じゃあさっくり行くぞ! 振り落とされねえよう、つかまってろよ!」

「でもユーレッドさん、どこへ」

 今にも出発しそうなユーレッドに、タイロがそう尋ねる。

「一旦お前を街に戻す。途中囚人多くてヤバイけど、なんとか通れるしな」

「えっ、でも、アルルちゃんは? それに、いったん戻ったら、今より道が大変なことになるんじゃ……」

 タイロが目を丸くして尋ねると、ユーレッドは答える。

「アイツらは、おひいさまにはすぐに危害を加えたりしねえだろうよ。お前を置いてから俺が戻っても十分間に合う。そりゃ、道はちょっと大変だが……」

「何言ってるんですか! そんなの、ユーレッドさんに負担が大きいだけでしょ。いいですよ! 俺、一緒にいきますよ!」

 舌打ちするユーレッドに、タイロが答える。

「アルルちゃん目の前で攫われたのに、俺だけ帰るとか嫌ですからねっ! それくらいの覚悟あります!」

 きゅっとスワロが嬉しそうな声を上げた。と、不意にタイロが何かに気づいてトーンダウンした。

「あっ、でも、足手まといで、俺がいないほうがいいなら、辞退しますけど。で、でも、ユーレッドさんのお役に立てることがまだあるかもしれないし、出来たらいきたいです!」

 ユーレッドは一瞬呆気に取られていたが、我に返ると、ふっと笑った。

「ははっ、ヘタレ小僧が無理しやがって!」

 と、ユーレッドはにやつきながらも、真意を探るように目を細めた。

「いいのかよ? 俺と一緒にいくと地獄巡り確定だぜ?」

 タイロはにっと笑ってうなずく。

「だって、俺も十分巻き込まれてるし、今更ですからね! いいですよ! ユーレッドさんと一緒なら、怖いこともないですからっ!」

「あははっ、いい返事だな! いいぜ! 一緒に地獄巡りといこうか!」

 ユーレッドがエンジンをかけ、発進する。急激に速度をあげて、オレンジ色のトンネルの中を進んでいく。

 ユーレッドの乗っている戦闘用の新型オートバイは、尋常でなくスピードを上げていく。普段なら怖いと思うような風圧を感じたが、ユーレッドと一緒のせいか、やはりタイロは怖くない。スワロがやや振り返り気味にタイロと視線を合わせてくる。

「へへっ、このバイク乗れてよかったね、スワロさん」

 タイロがのんきなことをいう。と、ユーレッドがふと声をかけてきた。

「タイロ、先に言っとくぞ。俺の右腕は、自重を支える程度の出力しかない。お前の握力以下だと思ってくれ。それに耐久性も低い。なんかあった時に絶対に右手は掴むなよ。それごと持っていかれるだけで、俺は何もしてやれねえからな」

「わかりました! でも、大丈夫なんですか? 装着時間長いのは辛いって前……」

 タイロはユーレッドの右腕を見る。見かけはごつい外見だが、それが強化プラスチック製で携帯用の簡易なものだったことをタイロは知っていた。

「ふふっ、そこはスワロがなんとかするからよ。その辺の調整はお手のものさ。なア?」

 ユーレッドはニヤリとして、スワロに視線を向けた。スワロがきゅっと鳴いてユーレッドを見る。

「それにな、お前に"呼ばれた"せいで、今は体の調子がすげえいいんでな。右足やられたのすら、さっくり治ってるくらいだぜ」

「それならいいんですが、あんまり無理しないでくださいね」

「ははっ、心配いらねえよ!」

『旦那、聞こえてる? なんだか、トンネル周辺から通信状況良くないみたい』

 と、話をしていたところ、不意に雑音と共にウィステリアの声が聞こえた。ユーレッドが右耳につけているインカムの声をスワロがタイロに聞こえるようにしてくれたらしい。

「おう、聞こえてるぜ。ウィス、タイロとスワロを無事に回収した。囚人湧きすぎで戻れねえし、博物館にそのまま進んでるぞ」

 ユーレッドがインカムに声をかける。

『あら、思ったより合流が早いわね。あいつら、トラックを途中下車してたの?』

「そういうことだ。タイロ捨てて、おひいさまのトレイラーだけ進んでたぜ」

(やっぱり、俺、捨てられてる!)

 いや良いのだが。扱いのぞんざいさに、タイロはむっつりとする。

『でもよかった! スワロちゃんとは接続どう? こっちは増幅して、回線太くしてみたから、今は大丈夫そうだけれど』

「良好とは言い難いが、今のところ大丈夫だ。かなり接近するまで繋げなかったから、スワロとの距離は近いほうがいいけどな」

『そうなのね。確かに、そのトンネル周辺、ものすごく通信状態が良くないみたい。通信妨害ジャミングでもされてるのかしらね』

 ユーレッドがくっくと笑う。

「まァそうだろ。旧世界技術博物館は、元からそういう妨害により守られた場所だったからな。情報博物館だった頃から、面倒臭え場所だったんだぜ?」

『そうなの?』

「ふふん、まあ、お前らはくわしくないか。でも、あそこにいた魔女の娘のことは、お前も知ってるだろ?」

『えっ、ああ、イノアのことかしらね。情報博物館に派遣されてたのはあの子だけども』

 ウィステリアから知らない女性らしき人物の名前が出るのを、タイロは興味深く聞いている。タイロとしては、魔女と呼ばれるウィステリア達のことも未知なる情報だった。

 色々気になることが多い。

『ああ、そういえば、確かに彼女の能力で、昔からすごい防衛システムが周辺に張り巡らされているってきいていたわ。あの子、暇つぶしに防衛システムの開発やら更新やらしてたもん。それがまだ生きているの?』

「多分な。だが、ま、俺はスワロとは離れなきゃ大丈夫だし、この単車の通信機なら信号増幅してりゃ影響薄そうだ。引き続き、ナビゲーションしろ。あいつら、看守のやつを食っちまってる上に、数が多い。汚泥の反応や道の状況を俺に伝えろ」

『わかったわ』

「頼むぜ」

『ええ。気を付けてね』

 ウィステリアの返事が聞こえ、いったん通信が切れた。

「そんなに通信状況良くないんですか? ここ」

 タイロはそう尋ねる。

「おう。だから、スワロとの同期が遅れたのさ。そうじゃなきゃあ、スワロと通信してお前に何となく現在地を教えるくらいのことはできたんだけどよ。スワロが、本格的に壊れちまったのかと心配したぜ」

 きゅるっとスワロが不服そうに鳴く。

「んー? 途切れ途切れだけど、俺の接近してくるのはわかってたって?」

 ユーレッドが言うと、スワロがきゅきゅっと訴えるように鳴いた。どうやら、ちゃんと信頼して待っていた、と言いたいらしい。

「ははっ、そうか。お前は健気だなあ」

 ユーレッドは苦笑しつつ、

「まあしかし、気を付けたほうがいい道ではあるのさ。元から旧世界技術博物館周辺の道は、いろんな仕掛けがあるんだ、ある程度は俺にも覚えのあることだから、対応できるんだけどよ。ココ、初見殺しって言われてるんだぜ」

 と、ユーレッドは楽しそうに語っていたが、それから、ふと、スワロの方をチラッと睨んだ。

「でだ」

 思わぬ視線に、きゅるっ? とスワロが鳴く。

「お前、誰だ?」

 タイロがきょとんとする。

「お前? え、スワロさんですよね?」

 タイロと同じように、きゅ? とスワロが怪訝そうに小首を傾げる。

「スワロじゃねーよ。スワロにくっついてるキーホルダーみてえなお前ッ! お前のことだ!」

『ほあっ!』

 唐突に指摘され、気配を完全に消していたキーホが奇声をあげる。

「てめえッ、何、当然のように気配消してやがる! 待ってやってたのに、自己紹介とかねえのかよ!」

『おおおおああああ、わたくしめのこと、き、気づいていたんですかああ』

「ふん、いつも、アルルのカバンにくっついてるやつじゃねーか。それをタイロがスワロにつけてるだけで、何かあるって予想つくだろ。俺を舐めるなよ」

『さ、さすがだなあ。よくみてるなああ……』

「それぐらい当たり前だろ。しかも、さっき声かけてきたろ! また俺のこと、よりによってネザアスって」

 ユーレッドが目を細めてにらみつける。

『えっあっ、聞いてました? い、いやぁ、そ、そこは、空耳で済ませていただけるかと思って』

 キーホはごまかすようにいうが、ユーレッドは犬歯をぎりっとかみしめるようにして物騒に笑いをゆがめる。

「てめえ、俺のこと舐めてんのかァ? あのなぁ、そもそも、俺のことネザアスって呼ぶやつは、数えるほどしかいねえんだ。てことは、お前、何者だ? なんで俺の名前を知っている?」

『そ、それは、そのー、あのー』

「第一、てめえ、なんでこの状況で通信に割り込んできてやがるんだ? それにスワロにハッキングして視覚情報得てるだろ? お前、どっから繋げて喋ってる?」

「ユーレッドさん、キーホさんはアルルちゃんの保護者の方らしいんですよ。それなので、なんか、通信妨害されているところでも、割って入れるすごい技術持ってるらしいんです」

 タイロが助け舟なのかどうなのかわからない情報を入れてくる。

「アルルの保護者ァあ?」

『ほあっ、タイロくんん、あまり詳しい話はああ』

 確実に動揺するキーホ。

「あアん? 今更、何隠そうとしてんだ!」

 ユーレッドが舌打ちし、冷たくキーホルダーをにらみつける。

「てめえ、どうせ、エリックの関係者かつ、地位がヤベェやつなんだろ!」

『うおお。鋭いい。ま、まああ、そうですよ、そうですとも。ちょっとした中央管理局の関係者でございますううう』

 キーホはオロオロしている。ユーレッドは見透かしたように嘲笑った。

「はん! どうせたたけば山程埃出てくるんだろ、お前みてえなやつ! まぁいいさ。エリックに絡むとろくなことねえから、俺は追及しねえよ。その代わり、てめえ、とりあえず、俺に協力しろ!」

『えっ? い、いいんでしょうか、わたくし、ここにいても』

 キーホにとってそれは意外な返事だったらしい。

「何言ってんだ? てめえが誰だか知らねえが、黙って見てるくらいなら情報流せ。俺の役に立て!」

『あっ、でも、僕、そろそろ会議に戻らないと』

「えー、キーホさん、さっき、会議もうサボるって」

 キーホが逃げの姿勢に入るのに、タイロが非難めいた口調になる。が、どうやらそれが当のユーレッドを刺激したようだ。

「はッ? 大事なアルルが拉致されてんのに会議?」

 明らかにユーレッドが顔をひくっと引きつらせる。

「何言ってんだテメェ! あの物のわからねえエリックみたいなこと言ってんじゃねえぞ!」

 ユーレッドがイラッと片眉を上げる。

『ひっ!』

「フけろよ」

 ユーレッドが有無を言わさぬ圧を持って告げる。

『えー、でもですねえ、ぼ、僕がいないとぉぉ……』

「俺がフけろっつってんだぞ! フけろ!」

 ギラっとユーレッドが、スワロの視線に合わせてキーホルダーを睨む。ひっ、とキーホが悲鳴を上げた。

『すすす、すみません。欠席の連絡入れます』

「よし!」

 ユーレッドが頷く。

 どうもキーホはユーレッドにやたら弱いらしい、が、これは初対面の人間の反応とも思えなかった。ユーレッドは、彼のことを知っているのかどうかもわからないけれど、それにしても。

(そういえば、ユーレッドさんとは、面識があるみたいなのに、なんか奥歯に物の挟まったみたいな言い方してたよなあ)

 キーホさん、なにものなんだろう。

 そんなことをついつい考えてしまう。

 ユーレッドは、その間にもオートバイを高速で操っている。

 オレンジ色の照明がタイロの視界をいくつも通り過ぎていく。このトンネルはずいぶん長いらしい。

 と、ユーレッドが、眉根を寄せた。

『ユーの旦那、後方に何か迫ってるわ! 汚泥の反応が強いわ!』

 同時にウィステリアの声が聞こえた。

「あー、やっぱりか。くそ、足が速いな」

 ユーレッドが苦笑する。

「えっ! まさか!」

 タイロがちらっと後ろを見ると、高速で遠ざかるオレンジ色のライトの下で、ぞわっと黒いものが道幅いっぱいに広がっているらしいのがかろうじて見えた。

「わわーっ、なんですか、アレ!」

『囚人だねえ』

 ユーレッドの代わりに答えたのはキーホだ。

『しかし、ネザアスが、相当のスピードですっ飛ばしてるのに、ついてくるとは……。あいつら、ヤバイね』

 キーホがしみじみ告げる。

「おい、ウィス。ほかの看守はどうなってるかわかるか?」

『うーん、正確にはわからないけれど、半分くらいは喰われてるんじゃないかしら。トンネルの外の戦闘規模がとても小さいから……。取り込まれてると考えたほうがよさそうよね』

「あーあ、そりゃやべえな。アイツらが中途半端に上等な黒物質ブラック・マテリアル投与されてたんで、奴等を刺激しちまったかな」

 ユーレッドが苦笑いする。

 きゅきゅっとスワロが警告する。

 ユーレッドはバックミラーをチラッと見るだけだが、おそらくスワロの視覚情報も参照している。そんなユーレッドの反応にタイロが再び振り返ると、黒い物体の中から、汚泥に塗れた無人のトラックが走ってくるのが見えた。

「ぎゃああっ! なんです、アレ!」

「お前が乗ってたトラックじゃねえか」

「えっ、運転席、誰も乗ってないですよ!」

「そこが汚泥の怖えとこじゃねえか。もとからアイツらはただの単純な悪意のプログラムが結びついただけのもんだからな」

『そうだよ、タイロくん。汚泥は機械も乗っ取っちゃうからね。アイツら、本来はコンピューターウィルスみたいなもんだからさ。人間とか操るより、本当はああいうコンピューター積んだ乗り物制御する方が得意なの』

「えっ、めっちゃキモいんですが、あのトラック」

『でしょ。意外と見た目から受ける精神的ダメージも大きいんだよね。まったく厄介なんだよ』

 キーホがユーレッドの後を受けて補足する。

「ふん、キーホルダー、流石に詳しいな」

 ユーレッドがにやりとする。

「トラックが追い付いてくるのは想定外だったぜ? 弱点分かれば教えろ」

『え、ええっと、そうだなあ。あのタイプの車輌は、自律型の自動運転ついてると思うんだよね。アイツらはそれを支配して動かしてると思う。僕が知っているタイプのだと、運転席付近にシステム関係まとめてた筈で、そこを吹っ飛ばしたらなんとかなると思うんだけど、軍用みたいなもんだからなあ。結構装甲硬いと思うよ』

「了解。まあしかし、あの鈍足野郎で、俺に追いついてくるほど飛ばしてるんだろ。大分無理してんな」

『そりゃそうだよ。運転手いても、君のスピードについていけるような乗り方する車じゃないからね。そこんところの弱点はつけるかもしれない』

「へへっ、そりゃあいいことを聞いた! 見てろ、周りの汚泥ごとぶっ飛ばしてやるぜ」

 キーホの情報を聞いて、ユーレッドがかえって好戦的な笑みを浮かべた。

 ふと見ると、トラックの荷台には何人かの人影も見える。きっとそれは看守たちなのだ。だが、そこにいるであろう看守が原型を保っているのかどうか、タイロは知りたくもなかった。

「ユユ、ユ、ユーレッドさん、これ、追いつかれるやつですか?」

 タイロが怯えつつ尋ねると、ユーレッドの嘲笑が響く。

「まさか。俺は対囚人戦に関してはプロなんだぞ。あんなにわか作りのポッと出の強化兵士と一緒にされちゃ困るぜ」

ユーレッドは、そういうと左足付近に積んであったサブマシンガンを抜いた。

「まぁ、見てな! そこいらの底辺獄卒との格の違いを見せてやる!」

 ユーレッドの左目がキラッとまだ青く光る。


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