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U-RED in THE HELL ―ナラクノネザアス―  作者: 渡来亜輝彦
第三章B:サイケデリック・チェイス

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11.バトルモードのLED


「オメガラインとは、穏やかではないですね」

 秘書が冷たく笑う。

「勿論、あなたの理解は間違ってはいません。しかし、それは、おいそれとだす名前ではありませんよ」

 嗜めるような言葉。しかし、なんとなく、含みがある。

「ただ、もちろん、あなたに対する報酬はあるはずです。あの方にとって、該当者、つまり救世主メシアを見つけ出すのは悲願だったのですから」

「それなら良いのですが」

 宥めるような秘書の言葉に、メガネ先輩がやや安心した気配になった。

 タイロはちょっと顔を覗かせて、改めてメガネと秘書の姿をうかがう。そこからは、二人の顔がまともに見える。

(あれ? あの秘書のひと、素顔だな)

 そういえば、朝は仮面をつけていた。

 流石にこの施設に入り込むのに、管理者アドミXの関係者を示す仮面の着用はまずいのだろうが。

 インシュリーの秘書官は、仮面がなくても声や雰囲気が印象的だったので特定できていたわけだが、やはりとても中性的で綺麗な人だった。顔だけ見ていると綺麗な女の人にもみえる。凛としていてクールで、アルルやウィステリアにある柔らかさはあまり感じられないが、どこか女性的な気がした。

(うーん、なんだろうな。男装の麗人感あるんだなあ)

 タイロがのんきなことを考えていると、ふと、どこからか鋭い気配が感じられた。

「E03?」

 秘書が声をかける。

「どうしたんです?」

 秘書の隣にいつのまにか、例のエースの強化兵士、看守ジェイラーE03が立っている。他の看守たちは輸送車に乗り込んでいたが、彼は後からやってきたようだ。

 真っ黒な仮面型のヘルメットをつけ、黒いバトルスーツに身を包んだ看守達は、大して個性を持たないのだが、エース級の彼は個体識別がつくように腕章がなされていた。

(あれ、確か、ユーレッドさんと競争してた……)

 とタイロは朝のことを思い出していたが、急にどきりとした。

 ヘルメットのバイザーは、黒くみえていてLEDライトが時折ちかちかするだけ。奥の目など見えないが、E03の視線がタイロ達の方を向いた気がしたのだ。

 いや、気のせいじゃない!

 と、その時、E03が動いた。

(見つかった!)

 きゅっとスワロが鳴いて電磁バリアのようなものを目の前に張る。

「アルルちゃん!」

 タイロがアルルの手を引いて逃げようとした時、E03はスワロの妨害を破り、飛び上がってタイロとアルルの前方に着地した。

「わっ!」

 E03はまずアルルとタイロの間に、引き抜いたブレードを振るう。避けたアルルの手を取ろうとしたが、素早く近づいてきた別の看守ジェイラーがアルルをかつぎあげた。

「タイロくん!」

「アルルちゃん!」

 慌てて手を伸ばしたタイロは、アルルのバッグのキーホルダーを掴む。ハーバリウムの入ったアクリルキーホルダーだ。しかし、強い力に耐えきれず、鎖ごとちぎれてしまう。

 そんなタイロの前に、ブレードをかかげたE03が立ちはだかる。

 はっとタイロが息を飲む。

 スワロがさっと前にきて、タイロをかばおうとした。

「E03、その子を殺してはダメ!」

 ふと秘書の声が響く。

 E03がぴたりと動きを止めた。

 メガネと秘書が、タイロに静かに視線を向ける。

「タイロくん。なんで君が?」

 メガネが流石に驚いた様子になった。

「確かにこの研修施設にはいる予定でしたが、なぜここに? 研修中ですよね? しかも、なぜその少女と?」

「マツノマさん」

 と秘書は断り、タイロに視線を向けた。

 近くで見ると、スレンダーだが妖艶にも見える。そして、なんだか怖い。

「貴方がタイロ・ユーサくんですね」

「えっ、と、ぉ。たしか、イ、インシュリーさんの助手の方〜……」

「ええ。インシュリー隊長の秘書官のマルスと申します」

 タイロはキーホルダーを握りしめつつ、どうしたものかと考える。護身用の武器テーザーはあるが、タイロの腕でどうにかなりそうではない。人間二人だけならまだしも、E03とかいう新型強化兵士もいるのだ。

(偶然を装おうかな? で、でも白々しい?)

 とはいえ、今はそれしかない。

「あ、あの、カッコいい輸送車があったんで、俺、ついついみてたんですよ。そしたら、鍵があって、で、なんとなくパス入れてみたら開いちゃってっ!」

 タイロは慌てて平静を装う。

「び、びっくりしましたよー。なかに女の子が入ってるんですもん! えっ、あれ、一体、なんでここにいるんですってなって」

「タイロくん、そんなことを。まさか私のパスワードを盗み見て」

「あっ、いえ、その、なんとなーく、覚えちゃっててぇ。すみませーん」

 メガネは、どうやらタイロの言い分を信じそうな気配だ。

 いける、かも!

「あ、あの、で、アルルちゃんとお話ししてたら、なんか困ってるみたいなんで、外に出てみたんです。そんな手荒なことしないでくださいよ。室内が飽きてて、ちょっと、外出てみたかっただけなんですから。ね、アルルちゃん」

 担がれていたアルルをみやると、肩を掴まれているが、地面には降ろされていた。

 看守達は彼女に危害を加えるつもりはなさそうだった。

 タイロが静かにしているように目配せすると、アルルは事情を察して頷いた。

「タイロくん、貴方には関係のないことです。さっさと戻って……」

「えっ、戻って良いですか? あ、あのくれぐれもアルルちゃんには手荒にしないでくださいね」

「いいから戻りなさい!」

 メガネはとりあえずタイロをここから遠ざけたいらしい。逆に行けそう。

 スワロがタイロの肩に戻ってくる。

(外に出られたらユーレッドさんがいる! アルルちゃんのことを教えればなんとかなるはず!)

 とにかく通信制限されていない場所に出さえすれば、ユーレッドに繋げるのだ。

 気が変わらないうちに外に出よう!

 と足を進めたところで、冷たい声が聞こえた。

「貴方、なかなか侮れない子ですね、タイロくん」

 インシュリーの秘書のマルスが割って入った。

「マツノマさん、彼が彼女を見つけたのは半分偶然ですが、半分は偶然ではないですよ。彼は、プリンセスのことを事前に知っています」

「えぇ? そんなことわー」

 どきりとしつつ、タイロはごまかす。

「いきなり可愛い女の子がいたからびっくりしましたし、お姫様だなあって思いましてけど、それだけで……。事情なんか、知りませんし! っひえっ!」

 いきなり、E03がタイロの首にブレードを向けた。

「マツノマさん」

 秘書マルスがため息をつく。

「どうやら、彼はあなたが思っているよりも、いろんなことを知っているようですよ?」

 マルスが別の看守達に声をかけた。

「プリンセスを連れて行きなさい」

「あっ! ちょっ……!」

 その声に反応して、看守達がアルルを元のコンテナに運んでいく。

「タイロくん!」

 アルルが叫ぶ。

「アルルちゃん! だ、大丈夫! 心配しないで!」

 タイロがそう返した。

「あ、安心して! 待ってて!」

 アルルは何か言いかけたが、彼らは彼女を押し込んでしまった。

「い、いきなり乱暴なことするなんて! なんでですか?」

 タイロがそう尋ねる。

「"ユーレッド"とは」

 マルスが強調するように呟いた。

「獄卒UNDER18-5-4のことですね。貴方は、このマリナーブベイで彼と親しくしている」

「えっ、ああ、そ、そうです。通称で呼ぶのは許されてると思いますが」

 慌てて答えるタイロに、マルスが目をすがめる。

「それは良いのです。しかし、貴方が彼と懇意にしていることに、もっと注意を払うべきでした。彼、お姫様の騎士でしょう?」

「え?」

 タイロはどきりとする。

「貴方は彼に頼まれるかなにかして、彼女のことを探していたはず」

 マルスの眼差しは、全てを見透かしているようだった。

「彼が貴方にそこまで話しているとは、最初思いませんでしたが」

「まさか、タイロくんがそこまで?」

 懐柔できそうだったメガネ先輩が、嫌な反応する。

「しかし、彼の適合率的にはあり得なくももないのです。もしかしたら、彼が"救世主"の可能性もないわけではない。だとしたら、獄卒の態度変化もあり得ます」

「なるほど」

 何か意味のわからない話をしているが、自分が把握しない内に、状況が悪化している感じがする。

 メガネがきりっとタイロを見る。

「タイロくん、君を甘く見ていました。獄卒を手懐けているとは思っていましたが、そこまで聞き出せているとは」

「い、いや、手懐けるだなんて! た、ただ、俺、仲良くしているだけですよ?」

 なんだかまずい。

「あ、あのっ、先輩! まさか、俺を口封じとかするんじゃないですよね?」

「まさか」

 マルスが笑う。

「安心してください。タイロくん。あなたは救世主メシアの可能性があるため、よほどでなければ危害は加えられませんよ。我々も、貴方が非協力でも丁重には扱います」

「め、めしあ?」

 めしあとか救世主とか、耳慣れない言葉にタイロは目を瞬かせる。

「貴方には本番のテストを受けてもらう予定ですからね」

 メガネは、相変わらず仏頂面だ。

「もっとも、仮に救世主だとしても、必要なのは肉体だけですから、死んでいても良いのですけれど、パフォーマンスが最大に発揮されるのは生存時ですから」

「こ、こわいことをいいますね。先輩」

「いえ、怖いことではありませんよ」

 とマルスがつぐ。

「貴方はここに来る前、さらにここに来て以後、囚人の襲撃を受けていた。命を狙われているのかもしれないと、どこかで気づいていたでしょう? しかし、貴方への襲撃はあくまで囚人による襲撃で、他の攻撃は行われていません」

「え、ええ、そうですね、マルスさん」

 タイロが思い出しつつ頷く。

「それは貴方を殺すだけでは、われわれの妨害をする上で大した意味がないからです。救世主のサンプルは、肉体情報に意味があり、妨害を行うつもりなら書き換えてしまわなればならない」

「かっ、書き換え?」

 タイロは、ぴんときたらしく顔を上げた。

「も、もしかして、囚人に食わせてってそういうことですか? 元の体が残らないようにって、そうじゃないと俺を殺す意味がないってことですね?」

「汚泥汚染は、元の性質を変質させるのにもっとも簡単な方法です。古くはオメガ・チルドレンの襲撃に、囚人や汚泥が使われたのも同じ理由からですね」

 マルスは冷静にそう告げる。

「ですから、貴方には、なるべく、その元気なままで同行していただきたいのです」

「本来なら貴方の試験はもっと後だったのですがね。本来なら、試すべきことがたくさんあった。しかし……」

 メガネ先輩が、後を引き継いでレンズの奥の目をすがめた。

「知られてしまっては仕方がない。今から、我々の任務に同行していただきます」

「な、何言ってるんです? 同行って、どこに? 俺たちは獄卒の人たちの引率で?」

「貴方が目的地を知る必要などありませんよ」

 メガネの声が今まで以上に冷たい。凍っているかのようだ。

 まずい。これはまずい。

 タイロの本能的な部分が警鐘を鳴らす。どう考えても、これは良くないことだ。

(ユーレッドさん、早く気づいて!)

 思わずそう願いつつ、タイロはアルルのキーホルダーを握ったまま、そっと足を後退させる。と、すぐに看守E03が反応した。

 しかし、そのE03がタイロからすぐに視線を別の場所に移す。

 その瞬間、E03がブレードを構えて行動に出た。タイロたちが目指していた出入り口付近に、そのまま飛び込む。

 そこから影が飛び出す。E03のブレードを紙一重でかわした人物は、そのまま反撃する。E03はかろうじてかわしたが、肩や腕の装備品が弾けて散らばった。

「チッ! ギリギリ避けたか?」

 飛び出してきた男が舌打ちする。白いジャケットが翻った。

「ユーレッドさん!」

 タイロが思わず呼びかける。

 看守E03は間合いを取って後退する。そのヘルメットの表面に、LEDライトが静かに光る。静かだから、どこか攻撃的な気配の点滅を繰り返す。

 既に抜刀していたユーレッドは、タイロとE03の対角線上に現れていた。

「ま、エースなら一撃じゃ無理か。つうても、ドレイクなら、今のカウンターで確実にいけてるんだけどな。俺は気が短いから引き付けが甘いんだな。まだまだだよなァ」

 ユーレッドは自省するように呟きつつ、やや大きな動作で振り向きつつ、タイロとスワロにに視線をやった。

「お前ら、怪我はないか?」

「ユーレッドさん! 来てくれたんですね!」

「まったく! これだから餓鬼は仕方ねえ! 迷子になるとは思ってたけどよ。大事じゃねえか」

 ユーレッドは肩をすくめた。

「メガネ先生とインシュリーの部下に新型強化兵士とか、最悪なんだよな」

「すっ、すみません!」

「獄卒UNDER18-5-4ですね?」

 秘書マルスが彼をみながら、腰の銃に手を伸ばそうとしたが、ユーレッドは右手をそちらに伸ばす。

「おっとそこまで!」

 未だに義手を装着していたユーレッドの右手には、先ほど射撃場で使っていた拳銃が握られていた。

「悪いが、俺の方が早く撃てるぜ。メガネ先生も秘書様も妙な動きはしないほうがいい。あと、秘書様だからなんだか知らねーが、俺を気軽に番号で呼ぶな。許可してねえよ」

 ユーレッドは、肩をすくめつつ冗談めかしていった。

「獄卒UNDER18-5-4! 貴方の銃器使用は!」

「実戦では禁じられてるよな?」

 メガネが声を上げるが、ユーレッドが、すかさずかぶせてきた。

「俺のルール違反を、上に通告したかったらすりゃいいぞ。それで俺は一発アウトだ。ただし、それしようとするならここの通信制限も取っ払わねーとな? てなると、"エリック"の調査員イヌの見てるカメラも復活して、お前らが何しようとしてるか、リアルタイムで全部アイツらに筒抜けになるなー? ははっ、覗かれるのは、俺は構わないぜ? それで良いならやってみなァ」

 ユーレッドは皮肉っぽく言って笑う。痛いところらしい。メガネがぐっと詰まった。

 右手の拳銃で脅して対応しながら、ユーレッドはあくまで左手の剣に意識を向けていた。ここでの強敵は、あくまで看守E03だ。ユーレッドは、確実にそちらに警戒していた。

「タイロ」

 ユーレッドが笑みを引き攣らせつつ、ボソリと言った。

「は、はいっ」

「スワロと安全なところに隠れてろ。エースは一匹だが、雑魚も多い」

「えっ、でも、アルルちゃんが!」

 ユーレッドは、肩をすくめて苦笑した。

「馬鹿、アレ見ろよ」

 ちらっと一瞬向けたユーレッドの視線の先には、輸送車とコンテナを積んだトレーラーがある。それらはいつでも出発できるように、いつの間にか運転手がスタンバイしている。

 その運転手も、おそらく強化兵士の看守のように見えた。

「どうも、お前が、強化兵士に掴まれたら、ここでゲームセットらしいぜ?」

 看守E03のバイザーのライトが、色とりどりに怪しく点滅している。

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