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U-RED in THE HELL ―ナラクノネザアス―  作者: 渡来亜輝彦
第三章B:サイケデリック・チェイス
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7.謎めくコンテナ


「これ、かっこいいね、スワロさん。乗るならどれがいい?」

 タイロにきかれて、スワロはきゅーと鳴く。

 野外練習場の駐車場には、車がずらりと並んでいた。

 ここは、E管区の獄吏、裏ではとある派閥の調査員エージェントの基地でもあるので、仕事に使えそうな車も多い。

 輸送用のトラックから、軽い戦闘用車両まであるし、一方、福利厚生のためかスポーツタイプのひたすら格好いいのもある。二輪車も同様だ。

 免許のないタイロはユーレッドに乗せてもらうつもりなので、運転の難しそうなスポーツタイプの車でも問題なさそうだ。確認していないが、スワロの反応やユーレッドの普段の態度からして、多分、車の運転ぐらい余裕なのだろう。

 スワロもどうせなら、カッコいいの、と思っているらしく、スポーツタイプのものを見ている。

「こういうの、いいよね。ユーレッドさんも似合いそうだし」

 タイロの一押しは、赤いスポーツカーと白くてステッカーの貼ってあるもの。仮に公務で使われる可能性を考えると派手すぎるけれど、この華やかさはユーレッドには似合いそうだ。

「迷っちゃうねえ。へへー、これで、ヤスミちゃん誘って、今度デートしたいね。マリナーブベイにいる間に一回誘ってみよ」

 きゅー? とスワロが首を傾げる。タイロは免許がない。マリナーブベイ滞在中にとる気なのか?

 と、その意図は、タイロにも通じている。

「え、ちがうよー。俺が免許とるの、すごい時間かかりそうじゃん。大体免許取り立てで格好つけようとしたら、ボロ出そうだもん。だから、ユーレッドさんに頼むの!」

 他力本願。それにも呆れるが、スワロは別に懸念があるらしい。きゅ、とスワロが大丈夫かと、言わんばかりだ。

 先ほどはユーレッドの大人の対応で和やかだったとはいえ、基本的にジャスミンはユーレッドに塩対応である。というより、ジャスミンも獄卒には厳しい。

「大丈夫だよ。今日だってほんのり仲良くしてたもん。これからどんどん仲良くなってくれるはずー。ユーレッドさんは、話したらそんなに怖い人じゃないしさあ」

 楽観的すぎることを言いつつ、タイロはえへへと笑う。

 きゅ、とスワロが呆れて鳴く。

「いいじゃん。俺、二人にも仲良くしててほしいもんね」

 と、ふと、タイロが口をつぐむ。

 タイロは、車の間から少し離れた場所にあるトラックの方を見ていた。

 カーキ色の、なんだか軍用のトラックに似ていて、ごつい印象だ。そういう作戦に使う車なのかもしれないが。

 タイロが注目したのは、別にトラックが格好良かったからではなく、その前に人間がいたからである。

 そして、タイロが慌ててひゃっと車の陰に隠れる。きゅ、と小声で尋ねるスワロに、タイロも小声になる。

「見て、スワロさん。アレ、メガネ先輩だよ」

 タイロの視線な先には、確かにメガネがいた。

 先程、意外とかっこいい名前が判明したメガネだが、それと同時にオメガラインとかいう怪しげな組織とのつながりも指摘された。

 今のタイロとしては彼は同僚だけど、ちょっと気をつけたい存在である。

「これ、お前のいう通り、押さえておいたぜ。こいつさあ、時々急に依頼が入るから、俺の名前で先に予約しておいたぞ」

 メガネの話し相手がそういう。

 ここの訓練場のロゴのある作業服を着ているが、雰囲気はなんとなくE管区の管理局の関係者風だ。ここに出向している獄吏かもしれない。

「すみません。ありがとうございます」

「ヒロトは数少ない同期だからなー。俺たち以降は同年代が集まるのもなかなかない。俺みたいにマリナーブベイに派遣されてると、余計に同期には会わないからな」

 気にするな、という男は、なんだか人が良さそうだ。

「でもよ、こんなゴッツイ輸送車要るか?」

「それが要るのですよ。管理者アドミXのところの強化兵士を連れて、荒野に行く用事がありましてね」

(え? そんなの、俺聞いてないよ?)

 タイロは眉根を寄せる。

 スケジュール帳を開いてみないと正確にはわからないけれど、あと三日くらいはずっと訓練の予定だ。訓練所まで、獄卒を運ぶバスは確保してある。

 確かに荒野での訓練予定は入っているが、その時の輸送車両はタイロが予定が決まれば、バスの会社を経由してお願いするようにしていたはず。メガネの仕事ではない。

 それに、あのメガネ、強化兵士とか言っている。

(あの看守ジェイラーってやつのことだよね。それ)

 ますます聞いていない。スワロと思わず顔を見合わせる。

 もう少し聞いてみよう。と、スワロも言っているようだ。

「なるほどな。アイツらも派手にやってるね」

「ええ。困ったものですよ。彼等は加減を知りませんからね」

 メガネは肩をすくめる。

「で、このコンテナも運ぶのか?」

 と、彼は隣の、トレーラーのコンテナをこんこんと叩く。ずいぶん大きなコンテナだ。しかも、普通のコンテナでもなさそうで、迷彩色に塗られている。

(あやしい!)

「これ、運べる車探すの大変だったんだぜ」

「すみませんね。彼等がどうしてもというもので」

 メガネは涼しげにいう。

「何入ってんだ、コレ?」

(よし、訊いた!)

 一番気になるところだ。タイロはグッジョブ、と心の中で呟く。

「さあ、中身は詳しく聞いていないんですよ」

(そんなわけ、絶対ないだろー!)

 しらばっくれるメガネにひっそりとツッコミを入れる。が、でていくわけにもいかない。

(お友達、がんばれ! もうちょい詳しく!)

 タイロはそっと思念を送る。

「えー? お前がー? まさか、知ってるだろー」

 いい具合にお友達が食い下がる。

「まあ、どうせろくなもんじゃないんだろうけどさ」

 メガネは曖昧に笑う。

「そうですね。簡単に言うと、荒野で使う実験用具と武器とでも言いましょうか? 強化兵士を連れて行くので、その為です」

「へえ、なるほど」

 彼がどこまでそれで理解したのか、相槌を打つ。

「こんなガチガチの施錠付きだしな。やばいもんなんだろうな」

「ガチガチでもありませんよ。ちゃんと、我々の権限でもあきます。ただ、まぁ、同じ部署の人間でしか開きませんから、逆に安全かもしれませんね。シャロゥグの人間なんて、私が連れてきているもの以外、マリナーブベイにほとんどいませんから」

(え、じゃあ、俺でも開けられる?)

 タイロの悪戯心がチラリと頭をもたげる。純粋に中身が気にもなる。

 オメガラインとかいう如何わしい組織と関わりがあって、なおかつ、かつて自分と同じ場所にいたかもしれない、メガネ先輩。

 そんな彼が怪しく立ち回っている。

 一体なんの実験をするというのだろうか。

「運転手の手配はできてんの?」

「ええ。J管区の関係者に免許のあるものがいます」

「なるほど。じゃ、そいつの登録はいるから、届出だしといてくれよ」

「ええ」

 どうも書類の手続きがあるようだ。

 ここではなんだから、と、ロビーの方に向かう気配がする。

(チャーンスっ!)

 とタイロはスワロを見やる。スワロが、きゅ? と一瞬、小首を傾げるが、タイロの意図を見越して頷いた。

 ほどなく、彼らが移動していく。

 タイロとスワロは、車の間に紛れながら、トレーラーの方までやってきた。

 やはり無人。周りに人の気配はない。これはチャンス。

「こんな普通じゃないコンテナ、気になって仕方ないよね。スワロちゃん」

そこにナンバーを入れるデジタルのダイヤルロックがついてある。

「えー。同じ、部署の人間とか言ってたけど、生体認証式とか、そういうんじゃないのか」

 タイロはちょっと戸惑う。

 さわると画面でIDとパスワードを求められる。試しに自分のIDを入れてみるが、その時点で受け付けないようだ。

(くそう、メガネ先輩め。小細工を!)

 むむう、と顔をしかめるタイロに、スワロがきゅきゅと覗き込む。大丈夫かと言いたげだ。

「大丈夫、もう一個、心当たりがあるんだー!」

 タイロはそう言って、それを入れにかかる。

 ぴぴっと手早く入力すると、今度はどうも通ったらしい。ぴー、という音と共に施錠が外れる気配がした。

 きゅ、ぴぴ? と、これは自分が手を貸さなきゃと思っていたスワロが、意外そうな反応をする。タイロはドヤ顔になっていた。

「ふっふっふっ」

 タイロはコンテナをそっとあけつつ、得意げになる。

「部署の、とかいってたから、メガネ先輩のロッカーの電子キーのコード、入れてみたんだよねー」

 そんなもの覚えているのか? と言いたげなスワロだ。

「他の同僚のひとのはあんまり覚えてないけど、あの人、隣だから。意外と警戒心ないし、番号使い回しだし、電話番号からの数字だし。しかも、俺、下っ端でパシリだから、忘れ物とってこいとか、そう言うのたまにあるんだよねー。まあ、普段やり込められてる俺としては、それくらいはねー」

 と、話していると、向こうから再びメガネたちの声がした。

 ぴ、とスワロが小声で警告する。

「え、もう戻ってきたの? ちょっと、書類書くの早すぎない?」

 焦るタイロだが、どんどん彼らは近づいてくる。こうなれば、と、慌ててタイロは、コンテナの隙間に体をねじ込んで中に入った。スワロも後に続く。そーっとコンテナを閉めたが、うまく音がならずに済んだ。

 コンテナの中は外の音があまり聞こえない。しかも真っ暗だ。

 コンテナの壁に耳をつけて外を伺うと、どうも足音どころか話し声も聞き取りづらい。

「スワロちゃん、メガネ先輩行ったかな?」

 小声でスワロに尋ねたが、スワロは懐疑的な反応だ。近くにまだ人がいるらしい。

「困ったね。遮音効果抜群みたいだけど、出づらくなっちゃった」

 とタイロはぼやきつつ体をよじったが、そのまま壁にぶつかって、わあっと声を上げた。

「なにこれー、超狭い!」

 そう文句を言ったとき、

「誰かいるの?」

 ふと女の声が聞こえた。

「へっ?」

 思わずタイロが固まる。

「え、あれっ」

 スワロが気を利かせて、ライトをつける。タイロがぶつかったのも当然、コンテナの中にさらに一回り小さなコンテナが詰められているようで、壁がある。タイロは、その壁と入ってきた扉の、せいぜいニメートル弱ほどの隙間に入り込んでいただけだった。

「あ、あのっ、そちらに誰かいるんですか? な、なに、なさってるんです?」

 思わず変な方向に敬語。

 そんなタイロに、壁一枚向こうの、女、というより、少女っぽい感じの声が答える。

「なにっ、て? あなた達が閉じ込めたんじゃないの! いつ出してくれるの?」

「閉じ込めた? って?」

「あれっ? 貴方、どなた? あの人たちの仲間じゃないの?」

 少し強めの反応だった少女が、困惑気味になる。

「あの人たちって、特にオシャレでもないこだわりメガネかけた、根暗感のある地味な男のことですかー?」

 ほとんど悪口な本音をこんなところで出すタイロに、スワロがしずかに呆れる。

「メガネの人? そういえば一人いたなあ」

 囚われている割に、相手もなんだかのんきだ。

「ここ、どうすれば開けられます?」

「えーと、そこにドアがあるんだけど、鍵がかかっているかも」

「えーっと、同じキーで開くかなあ」

 そこにもダイヤルロックがあって、IDとパスワードを求められていた。タイロは先ほどと同じものを入れてみるが、どうもダメ。

きゅー、とスワロが大丈夫かと覗きにくる。

「それじゃ、アレかな」

 タイロは少し考えて、別のキーを入れてみる。

「ロッカーのパスワードじゃなくって、これは先輩のスマホのロックを外すコードと」

なんでそんなもの覚えているのか、というスワロの視線を「いや、あのひと、そういうとこの警戒心がー」などと苦笑いで流すタイロ。そのまま、コードをてきぱき入れてみると、かちゃりと音が鳴った。

「やったー!」

「良かった! 扉は外からしか開かないの。ドアノブを引いて」

 女の声がそううながす。

「あ、じゃあ、失礼します」

 とタイロがノブを引くと、扉の向こうからまばゆい光が漏れてきた。

 中はちょっとした部屋だ。

 寝台があって、椅子があって、暇つぶし用のタブレットがあって、奥には簡易のバスルームまであるらしい。

 広めのカプセルホテル風の雰囲気だ。

 監禁用にしては小綺麗な小部屋の真ん中に、ワンピースを着た黒髪の少女が立っている。

 十六くらいにみえる、おっとりとした上品な雰囲気のとびきりの美少女だ。

「あ、本当に貴方、彼らの仲間ではないみたい? 見たことのない人ね。あれ?」

 きゅ、ぴー! と、スワロが一際大きく声を上げる。

「スワロちゃん? スワロちゃんだよね?」

「えっ、あれ?」

 タイロの元から飛び出して行くスワロをみつつ、タイロも彼女に見覚えがあることに気づいていた。

「ユーレッドさんも、ここにきてるの? スワロちゃんがいるなら、そうだよね?」

 抱き止めたスワロに、興奮気味に矢継ぎ早に話す少女を見つつ、タイロはようやく彼女のことがわかった。

「あれっ、やっぱりそうだ!」

 タイロは、自分の予想に納得して頷いた。

「君、えっと、たしか、キサラギ・アルルさんだよね? お姫様でしょ!」

「え?」

 突然タイロにそう言われて、少女がきょとんとする。

 あれから数年経っているのに、まったく変わらない姿。長い黒髪に大きな瞳のとびきりの美少女のまま。

 けれど、確かにそれは、あの"黄昏世界のお姫様"キサラギ・アルルだった。


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