ヒリア帝国の激動
「んーーーーーーー!」
アリスはグレイブルグ空港でストレッチを始める。小さなプラネットシャトルは彼女にとって少し窮屈だった。通り行く人が彼女をちらりと見つめる。
「よし! せっかくの都会だから、まずは見て回ろう」
惑星ヒリア、首都グレイブルグは質素な町である。それでも、それなりに歴史を刻んだ町である。観光できる場所はある。例えば、ヒリア帝国博物館であるが、彼女が最初に向かったのは旧議事堂だった。
このヒリア帝国の歴史について少し語ろう。この議事堂はヒリア始まりの場所であり、帝国で最初に閉鎖された場所でもある。議事堂に滴る血のりが当時の悲惨さを物語る。今では一般公開されており、当時の国政がいかに危機的であったかを物語る光景が広がっている。ヒリアの歴史は惑星QC-ZZL7899というクライソォワ連邦時代の名前を捨てた時点から始まる。
当時の惑星QC-ZZL7899は滅亡期を迎えていた。滅亡期の意味は文字通り滅亡までのカウントダウン状態である。間違っても惑星が爆発するなどの意味ではない。主な原因は、居住する惑星人口の超過。基本資源バランスの負債増加。その後続く、インテリ層の国外脱出。国民知能の低下による衆愚政治の横行。資源枯渇に伴う自給システムの崩壊。食糧難。そして、地上の人間が大量絶滅。そうして、数千年もの間居住が困難となる死の惑星が出来上がる。が、どこの国家もこうした滅亡期の惑星の面倒を見ようとはしない。大量絶滅まであと百年というカウントダウンを迎えた惑星は、どんな国家からもめでたく独立。ヒリアもクライソォワ連邦からめでたく独立となった。独立記念式典はとても質素に行われたそうである。
宗主国としては面倒を見たくない。だからあとは当事者たちで何とかしろという意味である。それが銀河の習わしだった。銀河中に人類が住んでいて、居住している惑星の数だけでも数億もあるのである。面倒が見切れなくなったらいったん惑星をリセットして、新規開拓するほうが安上がりだった。国家として自治を任される独立はある意味で最後通牒である。にもかかわらず、議会の人間たちは独立を喜んだ。彼らは最初にこの惑星の名前を決めようと決意し、五年間も議論したが結論が出なかった。これがヒリア帝国の前身であった。
「ピィ〜」
アリスが薄暗く長い廊下を歩いていくとシウスが突然立ち止まる。それに合わせてアリスも一緒に止まる。そして、左を見ると大きな扉があった。本議場の入り口である。
この扉が開くと、すぐに当時の匂いが漂う。演壇から扇状に広がる議員席があり、ここが独特な香りを放つのは血だまりの影響であった。広い議場には五百年前の血の香りが充満している。議場に広がる血溜まり。深いグリーンの床材と対照的な赤黒い血の海。これがヒリア・ブラックハート皇帝による最初の革命の現場。そして、ヒリア・ブラックハートの最初の仕事は機能を完全に停止した議会・政府に立ち代わり、国家危機管理法の下、合法的に自身が臨時代表として君臨することとなる。これが、血のり革命である。当時の革命や、皇帝の権力掌握方法については今なお合法性に対する議論が存在するほどに強引な方法であった。
扇形の議員席の外周に沿ってゆっくりと進む。すると、
「ピィ」
シウスはまたも立ち止まる。この中央部の通路に、血の足跡が残っている。演壇まで真っ直ぐと迷いなく進むこの血の道のりは、まさにヒリア皇帝の刻んだ道である。帝国民ならば誰でも知っているこの映像。これが、帝国史の一ページである。
「ここは政治の中枢と鳴く動物たちの巣窟。議員と名乗るパフォーマーから全ての権限を取り上げ、ここに臨時代表の権限を授かることにした。そして、最初に命ずる。今日から議会は閉鎖し、議員権は全てはく奪する」
ヒリア皇帝の新国家樹立宣言は当時の国民は好意的に受け取った。実際、今となってこの国家が失敗だったという人間はほとんどいない。




