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銀河のヒリア帝国 戦争編  作者: 遥海 策人(はるみ さくと)
第一章 ヒリア帝国の日常
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グレイブルグのからくり時計

 さて、ミラナが飛行艇や列車を乗り継ぐこと七時間。面積で言えば地球の倍以上ある惑星ヒリアは大気圏内の移動も大変である。エージェット島は中央大陸を取り囲む列島線であるが、軍用機の堅い椅子にずっと座っていたら嫌でも体が痛くなる。のっけから不満たらたらで首都グレイブルグに到着する。都市を推奨しないヒリア帝国らしく、コンパクトにまとまった街だがやはり帝都である。田舎とは違って整然とした街並みで、シンプルなコンクリートの壁の商店街で店主たちが思い思いの飾りをつけている。ある喫茶店はたくさんの花を飾り付け、それにシウスが水をやっていた。「ピィ」とあいさつされたのでミラナはシウスの頭をなでる。

 この店は見事な木の彫刻が特徴的で海鮮料理を作っているらしい。建物自体は個性がないプレハブであり、このような建物が半円状に並んで広場を作っている。質素と言いながら、どの店も装飾で個性を出すのであった。

(ちょっと、散策してみよう)

 グレイブルグは帝国に住む二百五十億の国民を束ねる行政区でもある。いくら行政区と言っても、人がたくさん住んでいる以上は飲食店やデパートが揃っている。時刻は日も傾く時間である。夕食のために準備中だった店がまた開店し始める。暗く成れば鬱蒼とする島の生活と違い、暗くなるほどに町に明かりが灯っていく。ミラナが町の様子をじっくり眺めていると、後ろから声をかけられる。

「お嬢ちゃん、この町は初めてかい」

 白い調理服姿で店先にまで出てきた老齢の店主だった。顔に多くのしわが入っていることから既に三百歳程度だと思われる。

「はい、とても個性的な街で散策しているところです」

「珍しいね、学生さんかい」

「いえ、これから軍に入ります」

「そうだったのか。失礼したね。新人で軍令部ならお偉いさんになるに違いないな。うちの店をご贔屓にしてくれると嬉しいね」

「ははは、そうですかね?」

「間違いない。俺はこの場所で二百年以上も人を見てきたんだ。ついこの前も嬢さんみたいな可愛らしい軍人さんが入隊してあっという間に大佐になっていたからね。お嬢さんもきっと活躍できるさ。将来は提督や将軍になれるかもな」

「ははは、いやいや褒めてもなんにも出ませんよ~」

 と、まんざらでもないミラナであった。

「そうだ、大時計広場に行ったかい?」

「あ、いいえ」

 店主はその大きな時計の話をした。そして、興味を持ったミラナは老齢な主人の勧める大時計広場に向かう。迷路のような道の中、シウスについてゆっくり歩いていく。その場所はグレイブルグに注ぐ第一河川の小さなダム面に作られた、水で動く時計である。通りは狭く人気があるわけではない。印象としては住宅街の中に突然、巨大なこの施設のような時計が現れる感覚を受ける。実際のところこの時計は川の真ん中に作られているため、真っすぐな川の下流からならばどこからでもこの時計を見ることができる。ミラナはその時計の前で立ち尽くすことになる。

 その時計の機械的なディティール。シルバーに輝く歯車には一つ一つ違う色の宝石が埋め込まれ、毎秒毎秒違う色のギアが出会う。それらピカピカに整備されたギアが夜明かりを跳ね返す。この時計は毎秒表情が変わる、時を楽しく描くのだ。ミラナはそれを飽きもせず眺めていた。喫茶店の店主が言うには、この時計は帝国内のある職人組合が皇帝への感謝を示して寄付したものだ。昔ながらに振り子で時間を刻み、大きな歯車を川の水の力で動かす。時計としてはあまり正確とは言えず、一日一秒ほどずれるらしい。そのため毎日シウスが標準時刻に合わせて振り子を調整する。しかし、画一的かつ効率的な宇宙時代の人類にとってはそうした非効率で古典的ともいえるような造形物を見ると、我々と同じく洒落ていると思い、白銀色と無数の宝石による工芸品を見て美しいと感動するのである。ミラナがこの芸術に見惚れていると、気づけば十七時になろうとしている。

(そろそろ行かないと)

 しかし、ミラナは時計から響く金管楽器の音に足止めされてしまう。航空隊マーチの主旋律を奏でるのは十七時の場所から現れたラッパを持つ人形。そして、その旋律に合わせて次々と笛やドラムを携えた人形たちが現れる。一つの劇を見ているようだった。演奏が終わると十七時を告げる鐘が鳴る。十七回も鳴る鐘を聞き終えたミラナ。もう少し余韻に浸りたいところだけれども、やるべきことがある。

(よし、行こう)

 と、彼女はようやく歩み始める。彼女はすっかりこの町が好きになっていた。


 こうして、この物語の三人の主役がグレイブルグに集結することとなる。

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