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銀河のヒリア帝国 戦争編  作者: 遥海 策人(はるみ さくと)
第六章 グリンシアの水平線に敵艦見ゆ
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プランG

敵第二艦隊の行動分析とプランG

 一度戦いを終えた艦隊は次の会戦準備のために再び惑星軌道上のリボルバードックに戻る。リボルバーという名前の由来もこのドックの形状から来ている。名前の由来はとてもシンプルでリボルバー式けん銃の弾倉部に艦艇を収容しているように見えることからこのような名前になった。シルドリア級戦艦ならば最大六隻がこのドックに懸架できる。このリボルバードックは、大型の亜光速カタパルトとしても機能し、星系艦隊構想を担う重要な存在である。しかし、一方で戦闘能力は皆無であるため、もし戦うのであれば収容されている戦艦を切り離し、自身は一目散に逃げる算段をしなければならない。

 スピットフレイムの乗る戦艦ディストピアがこのドックに到着したとき、既に第一艦隊のシルドリアが補給を受けていた。これだけの大きなドックだが、例のごとく有人区画は極めて小さい。基本的に整備と補給と長距離航海が目的であり、各艦隊から削除されたオーバードライブ装置が想像よりも場所をとったため。ショッピングセンター、ゲームカフェ、飲食店などの遊興設備はミラナの住む田舎と大差ないレベルである。

 更に、この設備は長期航海を想定しているため、重力発生装置を備えている。戦艦をバランスよくリボルバーに収め、くるくると回転することで遠心力を重力の代わりにする超経済的な重力発生方法であった。

 そして、狭いだけに人口密度も高い。不意な遭遇は当たり前である。

「すまない、私が悪かったから。もう怒らないから」

 スピットフレイムはミラナを説得していた。以前の作戦会議でちょっと怒ったことがきっかけでミラナはスピットフレイムを全力で警戒していた。

「ほんとに?」

 ミラナはシウスの陰から顔を覗かせている。体を隠すのはきっとスカート丈の話をしたからだろう。

「本当に私が悪かった。君の兵器提案も用兵術も徹頭徹尾実践的であり、極めて役に立ったことは明白だ。私の視野が狭かった。この通り謝らせてくれ」

「それって『無重力下でスカート履くのははしたない』という貴方の、前宇宙的な持論を否定する理由にはなりませんよね」

 さすがに参謀、言われたことは覚えている。それとも、女の本能か。

 こういう、間の悪いタイミングで奥からカレンがやってくる。スピットフレイムとカレンの目が合う。非常に気まずい雰囲気。しかも、カレンは一瞬嬉しそうな顔をした。あの女は完全に面白がっている。

 一方のミラナは背後から近づいてきたカレンに気づいていないらしい。カレンは手のひらで合図を送る。発光信号で「救助が必要か?」と質問しているようだった。

 スピットフレイムはカレンの興味本位としか思えない誘惑的な問いかけに対して素早く勇敢で正しい回答を示す。

「お願いします!」

 カレンの顔に「にぱっ」と音のしそうなほどの笑顔が咲いた。スピットフレイムはこんな奴に頼らざるを得ない自分が悲しくなる。


「提督も紅茶が趣味なんですね」

 スピットフレイムは自身の紅茶の話を皮切りに、ミラナを喫茶室に誘い込むことに成功する。

「私はどうもコーヒーが口に合わなくてね」

 ミラナは熱いお茶にちまちまと口付けし、スピットフレイムは静かに口を潤す。互いの一息が重なる。このドックにいるときしか重力がなく、カップの紅茶が飲めない。

「うん、いい香り。それと、今後はいきなり怒るのやめてくださいよ?」

「その節は申し訳なかった。この通り」

 シウスがパフェを持ってくる。

「んん!? 良いんですか!」

「良いとも。君の采配により我々は一隻も失うことなく一勝することができたんだ」

 しばらく、二人は世間話を続ける。

「それで、敵の第二艦隊の件だが」

 緩んでいたミラナの瞳が引き締まる。

「謎の蛇行機動の理由ですか?」

 結局、話は非常に実務的な内容となった。コミュニー第二艦隊はクローザー提督率いる新鋭艦隊である。二つ名は杮落とし。辞書によれば歌舞伎座などがオープンすることを「杮落とし」という。なぜ、この二つ名となったのかについては議論しない。

 敵艦隊の構成はまさに大艦隊。ヘリオポーズを戦艦六隻と重巡洋艦六隻で蛇行するように航行していた。

「私は迎撃の攪乱だと思う。本筋は雲隠れだろう。」

 先も説明したが、恒星の重力圏に存在する物体は停止していると恒星の引力に引き寄せられるため勝手に移動する。恒星の重力に任せていればエネルギーなく加速していく。大した加速度ではないが、更にエンジン出力を加算すれば一か月もせずに恒星ブラックパールに到達する。

「敵、第二艦隊はとにかく扁平な形状をしている。これは、どこかでステルス航行に移行して、そのまま星系の軌道上に雲隠れし、長らくヒリア帝国に警戒態勢を強いて消耗させる作戦ではないかと思うが」

 ミラナは手に持ったままのカップを机に置いた。カツンとわずかに食器の音が鳴る。

「そんなまどろっこしい作戦はとらないと思います」

 エンジンを稼働していないステルス戦艦を見つけることは外宇宙ならば多少難易度が上がるけれども、星系内ならフラッシュソナーで発見できる。ブラックパール星系においてはヒリアスポットとネクランスポットの二か所にフラッシュソナーが常設され、有事では更に四隻のフラッシュソナー艦が哨戒活動を行う。逆に、見つからないように一か月間も宇宙に潜むという船員のストレスを考えるとその方が作戦上よほど困難である。更に、この手の作戦を行うならフラッシュソナーを掻い潜れるほど小さい全長数メートル程度の自動航行衛星が最適であり、なければミサイルの弾頭をステルスコンテナで覆えば良い。小さなものの方がより発見が困難になり、攻撃側はコストもかからないからである。

「あくまでも彼らは我々と闘うでしょう。エンジンを吹かしてわざと発見されるような軌道をとるのは、見つけてほしいからです。何か亜光速カタパルトと類似かそれを超えるような切り札があるのかもしれません。我々が発明し、敵がその兵器を持っていない保証はありませんから」

 ミラナの紅い瞳が鋭く輝く。

「なるほど、諜報省の調査も掻い潜って何か秘密兵器を開発した可能性か」

 ヒリア帝国軍は事前にオーバードライブ出現個所周辺に偵察衛星を放っている。そして、これらのマークしていたすべての艦隊を捉えている。ミラナは机の上に敵艦隊の軌跡を描いてみせる。更に、

「敵第一艦隊、戦艦リヒト・タッキー・スターの艦長によれば、我々をレーダーで捕捉することができなかったと証言しております。接収した敵艦のレーダーを解析してもこの証言は正しいことが確認されています。だからこその陽動です」

 わからないなら、おびき出せばいい。依然として数では敵艦隊に分がある。

「敵第二艦隊が目立つ挙動でゆっくり行動している間に残りの艦隊が全速力でウェイポイントに集結し『ここ』で一大決戦を行う腹積りではないでしょうか」

 星系地図上の一点を指さす。ミラナが描いたのは、一度恒星ブラックパールを使って急速なターンを行いまたヘリオポーズに戻るコースだった。他の艦が通常航行なりオーバードライブ実施することでこの場所が集結地点となるのである。これが当初の規定通りの作戦であるなら、鮮やかなランデヴーである。

「ふむ」

「我々はまず、彼らが集結する前に陽動艦隊を壊滅させる必要があります」

 スピットフレイムに反論はなかった。スピットフレイムはミラナの肩をポンと叩き、力強く。

「良い推測だ」

 しかし、この程度で人を評価するほどスピットフレイムも幼稚ではない。

「しかし、これをどうやって撃破する。各個撃破とはいえ相手は戦艦六隻。重巡洋艦六隻。単純火力では相手が上となる」

「ここは、プランGを使いましょう」


 ミラナの話を聞き終えたスピットフレイムはさっそく自室に戻る。

「フリゲート戦隊に連絡できるか」

 スピットフレイムは彼女の作戦を否定しなかった。むしろ面白い作戦だと思った。しかし、囮となる彼らの心意気は確認せねばなるまい。もともとフリゲート艦の戦闘ドクトリンは隠れながらこそこそと攻撃を行い、素早く引き返して撤退することである。こんな目立つことをしたがるかどうかが気がかりだった。

「フリゲート戦隊の指揮官としてどう思うか」

「栄誉ある作戦です。さらに言えば我々に最適な作戦です」

 戦隊指揮官曰く、フリゲートは常日頃から、艦尾方向からの攻撃を回避することに重きを置いて訓練している。敵艦に接近し、一撃を加えたら即反転して離脱せねばならない。よって、敵を引き付けながら逃げ回ることについてはすべての艦種の中で最も秀でている。艦長たちは口々にそう語る。

「なるほど、貴様らこそがこの任務に最適だということだな!」

「肯定いたします。マーズ提督」

 この後、マーキュリー、ヴィーナス、マーズの三指揮官と東十条提督、および、参謀本部による作戦ブリーフィングが実施される。

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