宇宙での正しい投降手順
マゼラン条約に則り、捕虜の身柄は保証される。
「勝ったんですね!」
第一艦隊に付き添ったミラナは喜んでいた。戦場の特等席で、ただ一方的な戦闘を眺めた彼女はこの戦闘を次のように評した。
「まるで、ゲームのチュートリアルですね」
艦隊の集結、敵艦の索敵、諸元収集と攻撃、および殲滅という教科書に載っているような流れで戦闘が進み、敵艦隊はほぼ闇雲に反撃するしかできなかった。
「あんまり、敵を侮らないでね」
有頂天になるミラナに、カレンにはこれくらいの注意しかできなかった。
さて、少し話が変わるが、宇宙空間において戦意を喪失した場合は投降することが可能である。エンジンを失い、艦上構造物を大きく損傷してもたいていの場合、艦橋部は無事に残っているだろう。というのも、この時代の船は、艦橋以外に有人区画は存在しない。脱出用の小さなエンジンと、投降したことを知らせる信号灯と無線機だけが装備された筒状の艦橋パッケージ。この部分だけは徹底的に強化されている。だから、コミュニー艦隊もすべての艦がこの艦橋パッケージだけは無事に残った状態になっている。
さて、実際の投降手順だが、まず、艦橋パッケージの分離前に武装の停止である。艦上の全ての武装を収納位置に戻し、収納できない兵装は初期位置に戻す必要がある。そして、エンジンを停止して加速を止める必要がある。
一つ前の時代、戦闘艦は全自動の完全無人であった。しかし、人工知能の戦争関与を拒否するシリウス条約発効に伴って、有人化改造が施されている。つまり、取ってつけたような場所に有人区画が存在していることが多い。とにかくたいていの場合、有人区画はコンパクトに艦の一か所にまとまっている。
投降に必要な手順の内、この艦橋パッケージから他の武装を全て分離して操作不能な状態にする必要がある。大抵の場合はこの時点で交戦相手の砲撃も停止しているだろう。
更に、投降信号の発報が必要である。銀河連盟の戦争を規定するマゼラン条約に定められた内容の無線と発光信号を発し、敵だけでなく見方にも投降を知らせる必要がある。
そうすることで、しばらくすると敵の回収船がやってきて少なくとも命の保証をしてくれる。大丈夫、安心してほしい。投降してもマゼラン捕虜協定により、事情聴取はされるが尋問や拷問は禁止されている。宇宙空間なので監禁状態とはなるが、衣食住は保証され、適当な娯楽も与えられるし、帰るべき国が残っていれば三年以内に送還され、なければ家族や親せきなどの親族の亡命した国家か、個人の希望する国家が同意すればそこに帰還することができる。なので、安心して投降してほしい。
上記の手順を踏んでコミュニー第一艦隊は投降した。そして、オオクマ提督も事情聴取を受けることになる。
「へぇ、それで嫌々ながら提督になったのね」
オオクマは号泣だった。戦争は怖かったそうだ。東十条提督もお互いに艦隊を率いて雌雄を決した提督である。だから、東十条提督はオオクマ提督にコーヒーを差し入れし、少し歓談することを持ちかけたのだ。それが、いつの間にかオオクマの愚痴を聞くだけになっていた。
彼は、先も紹介した通りミュージシャンだった。それもクライソォワのミュージシャンである。コミュニエローでもそれなりに有名であり、偶然先の時期にコミュニエローでコンサートを開いていたらしい。しかし、彼が提督となった理由は本人もわかっていなかった。もともと、ヒリアとの戦争突入の話を受けて帰国しようとしていたところ、スター総帥に呼ばれ、
「エキサイティングなライブがある」
と言われ、サプライズで提督に任命されたそうだ。諜報部の情報と同様に今までに従軍した経験もなく、軍事学に詳しいわけでもなかった。まして、艦隊運用などしたことがない。実は暗所恐怖症で宇宙は大嫌いだったらしい。このようにしてオオクマの不満を東十条が聞いていった結果の大号泣であった。
東十条が懇談室を出るとマーキュリー艦隊指揮官のカレンとその子分であるミラナが待ち構えていた。
「裕子さん、どんなお話ししたんですか!」
「ちょっとした昔話かな」
「どんな?」という質問には答えない東十条であった。




