戦時動員
戦争準備フェーズ
現在諜報部の報告によると、出撃準備を実施しているコミュニエロー艦隊の総数は実に二百隻を超え、もし、これらの艦隊が同時に進行するとすれば、防空艦隊の防衛ラインを突破して低軌道に侵入してくる確率が高まる。もし、対地攻撃が可能な艦が二十隻低軌道に侵入すれば、惑星ヒリアの防空体制のどこかに穴を生じさせ、そこからBC兵器などの大量破壊兵器の投下が可能となる。こうなれば、星の生産システムに致命的な影響を与えることができ、ドロイド循環生産システムを三十日以内に無効化することが可能である。ドロイド循環生産システムを失うと、立て直しのために資源を消費し、惑星持続性を大きくそがれる。敵軍による領空内での自由な作戦行動は何としてでも阻止せねばならない。
対する新任の東十条司令官の報告は楽観的だった。現在ヒリアにて訓練中の新造艦隊の準備は整っており、いつでも交戦可能である。総数は六十隻でしかないが、全てカテゴリー四の艦隊であり、十分に勝機はあった。
「どのみち迷っている時間はないわ」
リザ皇帝により即日、戦時動員要請が発動される。直ちに非常艦隊の建造計画が始動し約百四十隻の艦隊建造命令が下る。各惑星は備蓄を供出し、戦略物資の確保を行う。これら戦時動員案に元老院が同意。ヒリア帝国配下の諸惑星が戦時動員に協力することになる。
ヒリア帝国における戦時動員は、地球人諸君らに馴染のない光景かもしれない。戦時動員命令はヒリア政府より提出され最終的に皇帝の承認を得て命令が発動する。そして、この命令書を根拠にヒリア国民に動員の通知書が届けられる。特に動員命令を受ける可能性が高いのは家族三人以上の世帯であり、ティーンエイジの子供がいる家庭である。事情を知らない子供たちは帝国内で同時に「シウスが何か変なんだ!」と言い出しただろう。この帝国臣民であれば動員命令に拒否権はない。ヒリア国民である以上は従わねばならない。ヒリア国民は孤独を愛するべし。とは言うものの、生まれてからずっと寄り添う家族関係に突然の別れ。悲しまない子供はいないだろう。通知の届いたシウスは名残惜しむように子供の手を握る。
「嫌だよ」
本心ではそう思っても、戦争は非常である。静かな森の朝。家族は旅立つ。長く居た家を離れて。
「シウス! 行かないで!」
長く連れ添ったシウスは木洩れ日の射す林の中に消えて行ってしまう。そして、全国の家族は、
「今日からしばらくシウスがいないから、その分ちゃんとお手伝いするのよ」
と、子供に言い聞かせるのである。
ヒリア帝国において、軍隊は平時も戦時も志願者のみで構成される。よって、突然国民から徴兵されることはない。だが、家族暮らしの場合は国民に配給されているドロイドに余剰を生じている場合が多い。三台もあるなら一台くらい減っても差し支えないだろう。という発想のもと家族から一台だけシウスを拝借するのである。
集まったシウスはまず、各星の工業地帯で増産対応を行う。ヒリア帝国軍は主に防衛に重きを置いて装備を計画しているが、戦争する場合は打撃軍として装備の転換が必要である。まずは迎撃任務にあたるA艦隊向けの弾薬とドロイドの増産を行い、次に戦時編成されるR方面軍向けの武器装備とドロイドの増産を行う。シウスがシウスを組み立てる光景はまるで鼠算でもしているよう。新造したシウスは順番にラインに並んでまたシウスを作り生産力の拡張を行うのである。
戦時動員はまだ続く。ドロイドの台数が十分確保されると、今度は装備品の生産に移行する。例えば艦隊に搭載される戦闘機。機体自体はヒリア帝国の警備および災害対策や個人保有の小型民間機フレームをそのまま流用する。単一惑星で独立を果たしたヒリアの民間設備の多くは有事に備えて軍事転用が可能な設計となっている。町を行くバスも、船も飛行機も、ほとんどの民間機は一部のモジュールを組み付けるだけで軍事転用が可能なのである。これにより、素早く必要な台数を無駄なく安価に揃えることができる。なお、装備品の徴発に応じた企業や個人は後で新品の装備が届けられる。
そして、応急の装備品の調達が完了すると、今度は艦隊の新造や迎撃システムなど安全保障の根幹をより万全にする装備品生産に乗り出す。
最終的にコミュニエローと同等レベルの数の艦隊は予備役兵員の訓練を含めて概ね三か月あれば整う。しかし、コミュニー艦隊がオーバードライブでヒリア帝国星域に到達し作戦行動を開始するのは二か月もかからない予想である。当面の間であるが、A艦隊こと東十条の艦隊は空白となる一か月間を持ちこたえることが主目標となる。




