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のこされた犬  作者: 栗きんとん
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すすき

私の名前は 照美、現在55才です。

10年前に 離婚して今は、娘のゆかりと2人で暮らしをしています


結婚当初から、夫は仕事嫌いで、どこで働いても長続きせず、常に家計は火の車でした。

まだ一才にならない娘を、保育園に入れ、私はパートに出る事にしました

送り迎え 家事 育児と目の回るような忙しさでしたが、私がしっかりしなければ、家は成り立たなくなると自分に言い聞かせ頑張ってきました


ゆかりが小学校に上がる頃、義理母と同居する事になりました。

義母は垢抜けたタイプの女性でしたが、性格はきつく、人を苛立たせる言葉を吐くのが得意でした

頭の良い義母は「ご飯炊きは、私がしてあげるから、照美さんには、おかずお願いね」と言い、仕事から、帰ると夕飯時に一人分のご飯が足りなかったり、冷や飯を食べさせられる事も、多々ありました。

嫌がらせは、色々とされていましたが、夫は見て見ぬふりをし、愚痴を聞いてほしくて会話を持ち掛けても知らんぷりでした

そんな折、夫は、また仕事を辞めました。

このままでは家計が成り立たないと思い、義母に

「食費を入れて頂けませんか。」と懇願したところ、

「なんて嫁だ、親の面倒みるのに、金取るつもりか、遣り繰りが下手なんだろう、足りなかったら、夜も働け。」と言われる始末でした。

そんな状態の中でこれ以上、働いて、夫と義母の為に尽くして意味が在るのかと思い、離婚を決意しました


それから10年経ち、ゆかりも、高校を卒業し、就職先も決まり、新社会人になろうとしていました。

4月の桜の花が満開の日、入社式を終えて、満面の笑顔で、家に帰って着た、ゆかりが

「お母さん、これからは、楽させてあげるからね。」

思わず、頬伝う涙を止めることが出来ませんでした。

この頃、照美は、誰も長続きしない課に、異動させられていた。

石破という、60歳近い女性を中心に、気に入らない社員や、パートをイジメ抜いて辞めさせていたのだ。

照美も、ターゲットにされ、嫌がらせを受けていた。

お土産を配ってもらえなかったり

靴の中にゴミを入れられたり

皆から無視されたり

照美はこのままでは、仕事を続けるのが難しくなると考え、石破の所に行き、「至らない所は直しますから、どうか許してください。」 と何度も頭を下げ、歯をくいしばって堪えた。

そのかいあって、少しは空気も変わってきたが、その頃、照美の体調は悪くなっていた。


9月の彼岸頃になると、夕方は、涼しくなってきていました。

夕飯の仕度をしていると、ゆかりが「ただいま。」と帰ってくる、いつもの風景だ。

ご飯を口にほお張りながら、目をキラキラさせて、ゆかりが言った「ねぇねぇ、犬飼ってみない、ここペットOKだし、私がお金を出すから。」

たしかに、この子には、寂しい思いもさせてきたし、「うーん、飼う飼わないは、於いて於いて、ペットショップに入ってみようか。」

日曜日にペットショップに行く事にした。


真っ先に、目に入ったのは、ゴールデンレトリバーのパピーちゃん(生後2ヶ月)でした。

店員さんが、「抱っこしてみます?」

ゆかり、「はい。」

30分位、「かわいい、かわいい。」を繰り返しながら、腕の中で、顔をつけたりしていました。

ま、その結果、飼う事になりました。

犬の名前は、ミク、最初の頃は、凄く、手がかかって大変でした。

でも、家に帰った時の楽しみでもありました。


ミクが、一才になる頃、ゆかりの様子が、変わってきました。

いままで、明るく、元気に、会社に向かっていたのに、表情が、暗くなってきて、朝も、中々、起きられなくなってきました。

照美が、「どうしたの?何かあったの?」と聞いても、「大丈夫。」と言うだけで、なにも、答えてくれませんでした。


12月の冷たい雨が降る日、ゆかりは、布団の中から出るのも、面倒な様子でした。

やっとの思いで説き伏せ、医者に連れて行くと、結果は、鬱病でした。

会社にいる、50代の、小野という女性社員は、いままで自分が頼まれていた仕事が、ゆかりに、依頼されるようになったのが、面白く無かった為、在りもしないことをでっち上げ、妬みと嫉妬で、退社へと追い込んだのです。

その結果、自分は役立たずなのかもしれないと、自分を責めるようになってしまったのです。


年が明け、ゆかりの顔には、笑みが少しづつ戻ってきました。

ミクを連れて、温泉にでも、行きたいね。と言う、話しも出てきて、ペットOKの宿を予約しました


3月の暖かい日に、出発しました。

車に荷物を詰め込み、ミクも、後ろのシートから、顔をのぞかせ、いつもと違う、雰囲気に、テンションも高めだった。

2人と1頭での、旅行は、リラックスできる最高の一時でした。

この旅行を境に、ゆかりも、元気を取り戻し、就職活動を始めました。


照美も、「さぁ~頑張るぞ。」と思った矢先、会社が、閉鎖してしまい

直ぐに、再就職先を探さなければならない状況におちいりました。

50代後半の、照美でも、採用してくれる会社はありましたが、年の往った人を雇うのは、それなりの理由のあるところが多く、人が、居着かないような所で、性格の悪い人は必ず居て、たちの悪い、嫌がらせや、罵声を散々浴びせられました。

この頃の照美は、精神的に大分、参っていて、もう働きたくないと思っていました。


ゆかりも、仕事は直ぐに決まっても、人間関係で、自分を追い詰めやすくなっていました。


そんな時の、心の救いは、ミクでした、

顔をペロペロ舐めながら、心配そうな目を向けてきます。

ミク:(ねぇ~大丈夫?わたし、ゆかりちゃんも、お母さんも、大好き)


早朝の爽やかな風が吹き抜けていった。

照美とゆかりは、ミクを連れて、カフェの歩道を散歩していました、二人はミクに顔を近付け、強く抱いた後に、リードを電柱に巻きつけ、振り返らずに 車に乗り込みました。


犬山は、カーテンを開けると、「今日も良い天気だな。」と呟やき

コーヒーを飲みながら、新聞を開くと、車の中から女性二人の遺体発見の記事が目に入った。

足下には、レトリバーが、伏せていた、「今日は、ドックランにでも、いってみるか。」頭を撫でながら、呟いていた。


ドックランの駐車場に近付いて、来ると、レトリバーは、急に体を起こし、キョロキョロし始めた。

【この、ドックランは、以前 照美とゆかりと来たことがある場所だった。】

ランの中に入ると、誰かを捜しているように、ダッシュで走り回り、飼い主を捜す声を出して必至に、吠えた。

ミク:ワオ~ン オ~ン

ミク:(お母さん、ゆかりちゃん、どこ?私は、ここに、いるよ、早く会いたいよ、ねぇ~早く迎えに来て)

そこに居合わせた全員が、今まで、聞いたことのない、悲痛な声に、涙を流さずにはいられなかった。






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