第8話 ――研究結果の報告――
私は研究結果をまとめ即座に所長室へと向かった。
向かっている途中、涙混じりの瑠奈に出会うとは思っていなかったが、
私の足取りはそんな事を気にするよりも軽かった。
E区画へと入り所長室の扉を叩いた。「所長様、所長様。研究結果を持って参りました」
呂律が回っていないのか聞き取りづらい返事が返ってきた「おお、お前か入れ」
中に入ると、ブランデーの瓶を煽っている所長がいた。
「所長、何かあったんですか?」気になりそう聞いた私は所長の愚痴を聞かなければ良かったと思った。
「どうして、あの娘は過去のことを知りたがる?洗脳ミスか?鳥島君」
瑠奈の事はいつも話したがらないはずが、今日に限って私に質問を投げかけけてきた。
酒が回り気分が良くなっているのだろうか……
私の名前を知っているのは、所長だけ。だから2人だけの時は私を名前で呼ぶ。
「所長はミスなどされていません。瑠奈に少し甘くしすぎたのではないでしょうか?」
「そうかな?甘くした覚えはないのだが……まあいい。結果を聞かせてもらおうか、鳥島君」
なおもブランデーを呑むのを辞めず、うすら笑いを浮かべ、所長は私に結果報告をするよう促してきた。
「所長、報告をとおっしゃいますがそんなに酒が回った状態で報告してよろしいのですか?それに、毎日そんなに酒ばかり飲んでいて大丈夫ですか?緊急事態の時に」
少々所長にとっては耳の痛い事を言っていると、更に気分を悪くしたのだろう遮られてしまった。
「もうよい!鳥島君」怒りの表情を浮かべている。
「失礼いたしました。ただ所長のお体が心配なのです。所長は私の命の恩人なので……」
「そうだな。鳥島、お前は戦場で敵兵に打たれ瀕死状態だった。それを私が助けたのだ。恩を忘れるな。私のことを気にかけてくれたことには、感謝する。大丈夫だ。で、亜空間移動実験の方はどうなっておるのだ?」
「ご報告致します。今回は最終フェーズとして瑠奈を無人島へと向かわせました。
移動はスムーズに行われ、過去の実験も含め失敗は1度もありませんでした。所長、この規模の実験をして何にお使いになるのです?まさか……」
「成功か。はははっ宜しい。お前はこれ以上のことは知らなくて良い。わかったな、さもないと……」
「はっ、仰せのままに。記録の全てをお渡しいたします」
「うむ。もう良い、下がれ」所長は不気味な笑みを浮かべている。
「ひとつ言い忘れていたご報告が」
「なんだ言ってみろ」
「あの、精神科医の桜井優作のことなのですが、隠れて何か詮索しているようでして……」報告しなければいけない大切な事項を忘れるところだった。
「ほう、あいつがか。何者かは調べ尽くしたはずだが嫌な予感がする。監視の目を強化しろ」所長は帽子の下に隠れた目を鋭くして言った。
「はっ。承知致しました」
「もう何も言うことはないな。」
「はっ。」
「では下がれ。今日のところはもう良い」
所長室をさり際に、振り返るとブランデーを煽りながら、窓の外を見つめ何かぶつぶつとつぶやいている所長が見えた。内容までは聞こえなかったがいい事ではないことは察しがついた。その後、私は所長室を後にした。