第7話 ――過去の追求――
わたくしは、実験の結果のことなど気にも留めずに所長室へと向かった。
所長室へは何度か行っているので、セキュリティーのことはよく知っている。
あと、このセキュリティーを抜けられるのは、研究員様だけだろう。
いつものように厳重なセキュリティーを抜けE区画へと入り所長室の入口をノックした。
「誰だ?」よほど研究結果を楽しみにしているのか声が高揚しているように聞こえた。
「瑠奈です」わたくしが名乗ると、少々がっかりしたのか声のトーンがワントーン下がり、
「お前か。突然何の用だ?」と訪ねてきた。
そこは見慣れた部屋ではあったが、ぐるりと見わたすと、乱雑に置かれた書類やブランデーの瓶が転がっており、きちんと整頓された研究員様の研究室とは真逆だなと思い、「所長、少しは整理なさってはどうですか?来る度に書類や瓶が増えていませんか?」若干嫌味っぽくなってしまったが気になったので言った。
「ええい、そのことはいいのだ。用件を言ってもらおうか」若干イライラした様子だ。
「今日ここに来たのはその……」
「なんだ言ってみなさい。思いつめていては今後に支障が出る。」
思い切って少し声が震えたが「その……わたくしの子どもの頃のことが気になって、夜もよく眠れないんです。どんな子どもでしたか?」思い切って言ったせいか少し声が大きくなったのを感じた。
「子どもの頃の記憶など知らなくて良い。目の前にあることに集中しろ」冷たく言い放たれたその言葉は、わたくしの胸に刺さり、思っていたことをありったけ言った。
「なんで!わたくしはお父様の……所長の研究員時代のことしか知らない。いつもいつもこのことに触れようとすると話をそらす。お母様の事も教えてはくれない。知りたいのに……私の小さかった頃の記憶ですもの知りたいと思うのは当然でしょ!」
言われていることが相当気に障ったのか、知られたくなかったのかはわからないけれど
「そのことは知らなくて良いと言っておるのだ!二度と聞くな。命令が聞けぬのか?」キツく怒鳴りつけられた。
涙をこらえ、うつむきながら「はい……わかりました。私の要件は以上です。失礼いたします」と一言残しその場を去った。何故過去のことを知ってはいけないのか、探ることも許されないまま一瞬芽生えた勇気は消え去り、落胆へと変わっていた。
所長室を出るとちょうどそこには研究員様がこちらへ向かってきているところだった。
よほど実験の成果が良かったのか、私の足取りとは正反対に足取りは軽いようだった。