第6話 ――実 験――
私は、所長室を出てA区画にある亜空間移動実験室へと足を運んだ。
亜空間移動実験とは、亜空間を作り出す装置を使い、ワープのような事ができる空間を作り出し、目的座標へと即座に送り込んだり、そこから戻ったりすることが可能かどうかを実験している。いわば、瞬間移動をさせるようなものだ。
亜空間移動装置の使い道や、事の始まりを私は知らない。知ってしまうとどうなるか分かっているからだ。
実験室に入ると、巨大な装置や制御するためのコンピューターがあり配線が張り巡らされている。制御コンピューターには、私の補佐が座って準備している。ここの研究所は、人が多いわけではないことに加え、この実験は機密レベルが極秘扱いだ。よって、他の所員は関われない為、2人で実験を行っている。もう1人関わっているのが被検体Aである早坂瑠奈だ。
実験の予定時刻になろうとしている。私は補佐に「実験の準備は出来ているな」「はいっ、もちろんでございます。」キリっとした表情で彼女は答えた。
彼女は、身長165cmで髪型はボブ、スラっとしており年齢は25歳。2年という短期間で、補佐という立場までのし上がってきた、いわゆるエリートだ。
私は実験装置の中にいる、早坂瑠奈に目をやった。彼女の詳細なプロフィールは教えられていないが、年齢は18歳くらいで、身長は155cmくらい、華奢な体つきをしている子だ。
準備が出来ている様子の彼女に近づき「早坂瑠奈準備はいいな」「はい。準備は出来ております。」落ち着いた様子で返事が返ってきた。
「では、これより亜空間移動実験を執り行う」私は、荘厳な面持ちで言った。
「はいっ!目標座標セット完了。亜空間エンジン作動確認、亜空間開きます!」補佐の掛け声と同時に、エンジン音のような低い音が鳴り始め、亜空間エンジンが徐々に動き始めると、瑠奈の目の前の円状の機械が回りだし、円の内側に黒い空間ができた。黒いところが亜空間への入口だ。
装置の音が大きいので、私は大声を出して「瑠奈、今日の実験は最終フェーズだ。移動後5分経過した後に戻れ。いいな」「わかりました。5分タイマーをセットします」無表情で彼女は言った。「では、実験開始!」私の一言と共に、瑠奈は亜空間へ飛び込み閃光のような光と共に姿を消した。
「瑠奈の生体反応は消えてはいないだろうな?」「はい、全て順調です。予定通りの場所へ送り込めました」補佐はコンピューターで全てモニタリングしている。
そろそろ5分が経過するな。瑠奈はあの景色を喜んでくれてはいるだろうか?そうこうしているうちに、瑠奈が戻ってくる時間になった。
「研究員様、瑠奈が戻ってきます。」と補佐が言ったとほぼ同時に閃光のような光と共に瑠奈の姿が現れた。「瑠奈大丈夫か」「はい、問題ありません。」と冷静な答えが返ってくる。私は頷き「亜空間を閉じろ!実験を終了する」「はいっ!亜空間閉じます」
円状の機械の回転が徐々に遅くなっていき、亜空間が消えてゆく。完全に動作が止まると次に亜空間エンジンの動作が徐々に止まっていき、辺りは静寂に包まれる。
実験は成功だ。これで実験結果は得られた。私は、高笑いをしながら研究結果を見ていた。
ふと気づくと傍に早坂瑠奈の姿があった。「どうした?そうだ、今日送り込んだ場所はどうだった?」「はい。美しい海岸で、とても綺麗な海でした。あそこは無人島だったのでしょうか?」よほど美しかったのだろう。普段は大人びた冷静な彼女でも年相応の少女の素顔を見せてキラキラした笑顔でニッコリと微笑んだ。
「機密情報だ。詳しいことは言えないがいい所だっただろう。とっておきの場所にしておいた。君のおかげで最終フェーズは成功だ!所長にいい報告ができるぞ」私は歓喜していた。
「とっておきの場所ですか。ありがとうございました。いいものが見れました。あと、成功おめでとうございます。わたくしの任もこれで終わりですか?」「まだだ、まだやってもらうことはあるのだよ。ケケケケッ」私は不気味な笑みを浮かべた。
成功に浮かれている私に唐突に瑠奈は、「そうですか。命令であれば従いましょう。わたくしに今日は用がないようですね。所長に会いに行ってきます」と無表情で言うとゆっくりと亜空間移動実験室から出て行った。
瑠奈は一体何をしに所長の元へ?疑問に思い考え込んでいたが、私もこのあと所長に報告に行かなくてはならない、そんなこと考えている暇はないのだ。冷静になり、今までの全ての研究資料をまとめる為、自室へと戻った。