第4話 ――事前の手回し――
施設外にいても僕は、自由の身という訳ではない。
これは忠告された訳ではないのだが、監視の目が必ず何処かにあると感じていた。
そんな中、僕は準備の前段階として、秘密裏に情報屋とコンタクトを取った。
危険は承知の上でだ。失敗しそうであれば、即中止する手はずは整えていた。
何故、そんなことをしたのかというと、あの施設の事がどうしても知りたかったのと時期が来たからだ。
顔なじみの情報屋だ、彼から情報を得るのには慣れている。
いつもの喫茶店で落ち合うことになった。
約束の時間より少し早めに喫茶店へ到着した。長年の勘ではあるが、監視の目はないようだ。
ここに来るまで、かなりの裏道を使ったから、なんとか監視の目から逃れることができたようだ。
人目を避けた席を選び、アイスコーヒーを注文し、情報屋が来るのを待つ。
1年ぶりの懐かしい感じだ。
約束の時間通りに情報屋はやってきた。身長は僕より少し高く、40近い年齢だろう。腕にはタトゥーが彫ってあり体格がよく、強面だ。名前は知らないが、ギースと言えばその手の界隈では名の知れたやつだ。
「やあ、ギース久しぶりだね。元気にしてたかい?」と目の前に座った直後に声をかけた。「よお、元気にしてるぜ相変わらず身を隠しながら生活してるがな。ガハハ」盛大に笑った。さすがやり手の情報屋だ。辺りの様子を気にしつつ、自然になるよう声の大小をうまく使い分ける。
接客に来た店員に俺もアイスコーヒーでと笑顔で言うと、情報屋として仕事をする真面目な顔つきになった。
「1年も顔見せねえで、いきなり施設の情報が欲しいとはどういうつもりなんだ?」
凄く不思議そうな顔をしている。
「実は1年前から僕はあそこに通っているんだよ。なにか得られるかもしれないと思ってね。だが、監視され現状何も情報は得れていない。もっと早くにギースに声をかけても良かったのだけれど、まだ時期ではなかったんだ。」
ほう……と言わんばかりの顔をし、ギースは頷くとアイスコーヒーを一口飲み話を切り出した。「よくあそこに入り込めたな。どんな手を使ったんだ?」ニヤリとし、いかにも興味深そうな顔をした。
「まあ……とある方法でな」僕は、そっとギースから目を逸らせ話を濁した。
ギースはガハハと笑って「まあ、おめえさんのことだから、ヘマはしねえだろうしな。で、どういう情報が欲しいんだい?知ってる限りのことは手を貸すぜ。おめえさんと俺との仲だしな」いかにも親密であると言いたげに聞こえるが、これが彼の常套句だ。
「あの施設は一体なんなんだ?何をする場所なんだ?それが知りたい」僕は遠慮なしに聞いた。
「オーケー。あそこのことは俺らもよくわかっちゃいないが、あそこは外見は施設だが、中身はなにかの研究をしている研究所のようだ。通称【レベリスラボ】って呼ばれているぜ」彼は、知っている情報をすらすらと答えた。
僕はそれを聞き、やはりなと確信を持った。「考えていた通りの施設だったようだ。レベリスラボ、研究所か。何の研究をしているんだろうな?」疑問を投げかける。
俺も聞きたいことがあるんだが「時期を待っていたというが、その時期ってなんなんだ?」ギースは少し遠慮した様子で僕に言ってきた。
ここでギースを少し喜ばせておかなければ、次の時に面倒だなどと僕は考えつつ、
「時期については、青年が居るんだが彼が目を覚ますときが時期だと思っていた。ちょうど先日意識を取り戻したんだよ。で、調査の方を始めようと思ったわけさ。青年にも秘密がありそうだからね」内部事情も少しばかり織り交ぜて答えておいた。
内部事情が少し聞けてギースは満足気な顔をしている。そして「さっき伝えたので全ての情報だ。何の研究をしているかまでは、探りきれなかった。あそこのシステムはハッキング不可能に近い。だから俺らが知ってるのはここまでだ。そこまで力になれなくてすまねえ」と悔しそうな顔をしている。僕が、そうか。と言おうとしたところで「おっといけねえ、言い忘れるところだった。レベリスラボには、例の機密組織サマサのやつらが関わっているようだ。忠告だ、背後には気をつけろよ。おめえさんなら上手くやるだろうがな」じゃあまたな。と席を立った。
僕は、礼を言おうとしたのだが、ギースの姿はもう人ごみに消えてしまっていた。
相変わらず、去る時は速いやつだと感心し、残っていたアイスコーヒーを飲み精算を済ませ僕は喫茶店を出て人ごみに紛れた。
ギースのおかげであそこのいい情報が得られた。この先も順調にいけばいいが……と気を引き締め直した。