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Rebelsー反逆者たちー  作者: MoCo
第1章
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第1話 ――知らない天井――

 ぼんやりとした意識が、徐々に覚醒していく。

よほど長く眠っていたのか、妙に身体が重い。


――うぅ……ここは?


 目の前がはっきりとしないが、見覚えのない白い天井が見えた。

少しずつではあるが、視界が広がっていっているのが分かる。

 どうやら僕は今ベッドの上のようだ。


――何処だ……


 ぐるりと辺りを見渡した。

天井近くには、時間はわからないが日中なのだろう光を取り入れるだけの小さな窓、目に見える範囲の部屋の隅には、監視カメラらしきものが2基ある。

 身体を起こそうと力を入れるが、あまりにもだるいのでどうしようもない。

 かろうじて首はまわすことができたので、部屋の中を見渡す。

 無機質な箱の中の目の前には、ドアがあるだけのようだ。


――病院?


 外の状況も確認しようと、起き上がって動こうとしたが、全く動けないことに気がついた。

 ベッドの上で、頭の中が真っ白になるのを感じ、状況が理解できないことに、恐怖が襲ってきた。

「ここはどこなんだ!」

 僕の叫び声とほぼ同時に、扉が開く音がした。

 目をやるとそこには、歳は30代前半ぐらいだろうか。

 身長が175cmくらいの白衣を着た体格の良い男が、カルテのようなものを手に立っていた。

「やっとお目覚めかい?君は長い間意識を失っていたんだよ。気分はどうだい?」やたらと馴れ馴れしく、穏やかな表情で男は僕の方に近づいてきた。

 僕は憮然(ぶぜん)とした態度で「誰?」と呟いた。


 その男は、ベッドの横にあった椅子にゆっくりと座り僕に説明を始めた。

「心配しないで。僕は精神科医の桜井優作(さくらいゆうさく)といいます。君の主治医だよ。」

 僕は、それを聞き内心ホッとして警戒心が一気に溶けたような気がした。

 そのあとすぐに我に返ると、桜井と名乗る先生を問いただした。

「身体が動かないのですがどういうことですか!先生は知っているんでしょ!?」

 恐らく、身体が動かないことは知っていたのだろう。表情一つ変えず穏やかなままで、「まぁ落ち着いて。そうだろうね。」と答え、「ところで、質問なのだけれど君は自分の名前は言えるかい?」と聞いてきた。

 名前なんて言えるに決まっている。僕はそう思っていた。だが、「名前は……名前は……わからない。僕は……誰なんだ。」と、愕然(がくぜん)として答えた。

「では、過去のことは思い出せるかい?」と、先生は僕に追い打ちをかけるように問う。

 やはり何も思い出せない。何をしていたのか、何処に居たのかさえも思い出すことができず、驚きを隠せず衝撃を受けていると、「やはり過去のことも思い出せないようだね。」と、言いながら手に持っていたカルテに事細かに書き込んでいる。

 一通りカルテを書き終えると、先生は僕を安心させるように、「体が動かないのは薬が効いているからだよ。2、3日もすれば自由に動けるようになる。それから過去のことを思い出せないのは健忘状態。つまり記憶喪失と思ってくれればいい。」と言った。

「記憶喪失!?」その言葉に混乱した。その表情を見てか、「取り乱す気持ちもわかるが、とにかく落ち着いて。」と言ってくれたが、僕の徐々にたまった怒りは爆発し、「ここが何処かもわからない、自分が誰かもわからない、落ち着けるわけがないだろ!」と(わめ)いた。

 すると、先生も少々怒鳴り気味に、「今はわからないと思うが、その内わかるようになってくる。安心しなさい。」と(さと)してきたが、「そのうちって……そのうちっていつなんだよ!全部知ってるんだろ。今すぐ教えろ!」と完全に理性を失って言葉につまりながら騒ぎ立てた。

 先生は、先程とは裏腹に厳しい表情で、「答えられない義務がある。」とキツく突き放した。

 僕は納得がいかず、「義務なんて関係ない。答えろ!」と騒ぎ立てていると、触れられてはいけない部分に触れられたかのように、キッと僕を睨み荒々しく、「全て知ってしまうと、君の命も僕の命もなくなる。いいのか!」と、言い放った。

 流石に荒々しく言い過ぎたと思ったのか、ひと呼吸おいて「それが嫌なら、僕の質問以外は何も聞かないように。」と、指示されて僕は一気に冷静になり、言葉を失った。


 (しばら)くの間沈黙は続き、その場の空気をがらっと変えるかのように先生は「君は本は好きかい?本くらいならこの部屋にも持ち込み許可が出るはずだよ。」と優しく切り出した。

 僕は、先程までの殺伐(さつばつ)とした空気が一気に変わったことに呆気(あっけ)にとられながら「本か……嫌いじゃないけど」と答えた。

「嫌いじゃない、か。なら読んでみるといい。僕がおすすめの本を何冊か持ち込めるように申請しておくよ。それでいいかい?」と先生は提案してきた。

 僕はまだまだ訴えたい鬱憤(うっぷん)を抑えながら「ああ」と、投げやりに答えた。


 僕の答えを聞くと、先生は椅子からさっと立ち上がり「では、今日はこのへんで失礼するよ。」と笑顔で言うと、手元にあるカルテを雑にまとめ、足早に扉から出て行った。

 僕は、何もできない悔しさがあり、歯を食いしばった。

 すると、扉の向こうから去っていったはずの先生の声がした。

「君の体はまだ完全に回復していない。だから、もう少し大人しくしていなさい。」

 その後、コツコツと廊下を歩き去る足音が聞こえてきた。 

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