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塔の魔女と使い魔  作者: 星野 優杞
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月の魔女と銀の弓矢


魔法が、

全部解けてしまった。


そう思いながら、空を見上げる。

漆黒の夜空には銀色の月が浮かんでいる。


銀色に、違う銀色が混じる。


銀色じゃ、化け物に嫌われてしまう。

彼だって銀色を忌々しそうにしていたのに。


飛んできた銀色の矢が、吸血鬼の羽を貫いた。


「なにっ?!」


慌てて吸血鬼がその場から飛び退く。羽を治そうとしているが、上手く再生しないようだ。

それはそうだろう。だって、銀の矢に射抜かれたのだから。


「やっと、魔法が解けました。塔を探すのに苦労することになるとは思いませんでしたよ。」


私の上に乗っていた男が退かされて、体が浮く。

気まずくて、顔が見えない。


「魔法、解けちゃった。」

「あなた、俺にこんなに強い魔法かけてたんですね。」


私を抱き上げる月虹の手は、人では無く狼だ。

その手は、銀色の毛で包まれている。


「色を変えるどころか、性質まで変えられてたなんて驚きですよ。」

「個人的にはメッキだったんだけどね。」


恐る恐る見上げれば、銀色の髪と尻尾が見えた。

瞳まで銀色で、その色合いは出会った時のものだった。


「あんまり理解はしてないですけど、魔女様が封じてたこの力、そこの吸血鬼を倒せるものだと思っていいですか?」

「良いよ。月虹、あなたは私の月の弓、銀の矢なのだから。」


月虹の胸に手を当てる。月虹の変化に使っていた魔力を銀の矢の形に作り替える。作り替えた矢を、月虹が吸血鬼に向かって放った。銀には強い浄化作用がある。それは、化け物にとって、致命傷になるものだ。


「俺の色が変わって、その勢いのまま黒猫に矢を放ったら、影に固定できたのでこっちに走ってきました。」


既に使いこなしていたらしい。

まあ、私がいた方がその威力は決定的なものになるだろうけど。


「お前!!犬の、犬の癖に!!」


ボロボロになった吸血鬼が月虹を罵倒する。

それが状況を悪くすることに気が付いていないのだろうか?


「お前の主人は魔女じゃない!!人間だ!!ただの人間の小娘だぞ!!!」


月虹に隠していたことを言われてしまう。

まあ、仕方ないことだ。この騒動が終わったら、主従関係を解いた狼男は私を殺すだろうか。

私を抱えるムーンボウの手が一瞬震えた。けれどまた、強く私を抱え直す。


「もう、主人じゃない。」


そう、彼はもう、私の使い魔じゃない。


「だけど魔女様は出会ったその日から、俺の唯一だ。」

「月虹……?」


その言葉の真意が分からなくて、不安な気持ちを抱えながら月虹を見上げる。月虹は目を細めて微笑んだ。


「知ってましたよ。あなたが魔女じゃないことも、あなたが人間に混じりたくて俺を使い魔にしたことも。」


全て、すべてバレていたのだ。頭が真っ白になりそうだ。


「だけどね、魔女様。あの月夜、銀の月を金に塗り替えたあなたは」


ムーンボウは残った矢を全て吸血鬼に向けた。そして、一気に放つ。


「俺にとって、ずっと、金色の月の魔女でしたよ。」


ぽかんと口を開いた私に彼は愛おしそうにそう言った。




影よりも深い深い黒。

全てを塗りつぶすような夜空に、化け物の存在を認めない銀の月が浮かんでいる。


両親が目の前で殺された。

本来忌み子である俺を殺しに来た同胞に殺されたのだ。どうして俺が忌み子なのかはまだ理解できていなかった。


ゆるりと三つ編みにされた、薄紫の髪。

魔力がふわりと自分を包み込んだ瞬間、三つ編みがパラリと解けた。


薄紫の髪は金色に輝き、銀の月を金に変えた。




「どうして戻って来ちゃうのかしら。せっかく月を空に懸けてあげたのに。」

「俺としてはあなたとの間に架けて貰っているほうがありがたかったですよ。」


ああ言えばこう言う。魔女様は拗ねたように唇を尖らせる。

焼きあがったフィナンシェを皿に盛りつけて彼女の前に置く。彼女は警戒心の欠片も無く、それをフォークで口に運ぶ。


「……美味しい。前より腕が上がってるじゃない……。ってそうじゃない!!なんでまだ私の世話を焼いてるのよ!!もう私の使い魔でも何でもないくせに!!」


焼くならお菓子だけにしなさいよ!!と喚く魔女様は、何にも分かっちゃいない。


「使い魔じゃなくても、傍に居たいんだけど……駄目ですか?」

「なっ……?!」


顔を真っ赤にして固まる魔女様は口をパクパクと動かす。


「私は、人間で、100年もしたら死んじゃうし……そもそもあなたを使い魔にしたのだって、すごく酷い理由で。」

「俺はそれで救われたから良いんですよ。それに、あなたを守るために、俺は大きくなったんです!あなたと一緒に死んでもいいと思っています。」

「だから……!!」


ガタッと音を立てて彼女が椅子から立ち上がる。絶望したようなその表情に、俺は苦笑するしかない。


「ずっと俺は魔女様の秘密を知った上であなたの傍にいたんです。それこそ今更です。」

「そうだとしても、私が死んだとき、あなたも死ぬなんて……!!」

「人狼の、狼男の秘密を知らないからそんなこと言えるんですよ。」

「人狼の秘密……?」


キョトンとした彼女が愛しくて仕方ない。

そんな彼女の耳をくすぐる様に囁く。


「一生をかけて愛する人を決めた時に、俺たちは急激に成長するんですよ。」


耳を抑えながら飛び退いた魔女様の顔は真っ赤だった。





森の中の高い塔。

薄紫の髪の塔の魔女と、使い魔の黒い狼が住んでいる。

けれどそれは見せかけの姿。

塔の魔女は月を金に染める月の魔女で

使い魔の狼は白虹の如く、化け物を射抜く弓矢である。


最後までお付き合いいただきありがとうございます。短期集中連載的な感じにしてみました。

以下、各キャラクターの設定です。



月の魔女(現・塔の魔女)

種族 人間

色々あってたくさん魔力を持って生まれてしまった人間。両親が罪を犯し、彼女を育てられず当時の塔の魔女によって育てられる。魔力の多さと魔女としての能力、両親の罪などから人間の中で生きていくことが難しかった。魔女のふりをして生きていくことが可能だったため、魔女のふりをしている。たくさんの魔力を持って上手く扱える、魔法が使える人間。


月虹

種族 人狼

生まれた時から化け物を倒す力を持つ銀の毛並みだった。両親以外はたとえ仲間でも触れただけで相手に怪我をさせてしまっていた。人狼の仲間から疎まれ、彼を庇う両親もろとも殺されそうになっていた。両親が説明をしなかったこともあり、自分の銀の毛並みにどういう意味があるか正しく理解していなかった。そういう理由もあり、銀色は好きじゃない。好きな色は金色。理由は言わずもがな。魔女が人間でも自分にとっては唯一の存在なので傍に居たい。

名前は月虹は七色ではなく白で、白虹とも呼ばれている辺りから。白い月は銀色に見えるし、虹って弓に見えますよね!


吸血鬼

種族 吸血鬼

元人間な現吸血鬼。猫に死体を跨がれて吸血鬼になった。一緒にいる黒猫に吸血鬼にされました。人間の時の記憶はありません。始祖とか、純血種とか、眷属とかヴァンピールがいるような吸血鬼社会には属していないはぐれ吸血鬼。外見イメージは黒髪金目でした。黒猫も金の目をしてます。現時点でどちらにも名前設定はありません。


ナベブタの魔女

種族 魔女

穏やかですごく強い魔女。月の魔女が人間なことを知っている。むしろ赤ちゃん時代から知ってる。人間に対しても基本友好的。使い魔の豚が普通の豚だった頃に人間と色々ありました。それから使い魔の豚は鍋と合体した完全防御の魔法を与えられた使い魔になりました。


前・塔の魔女

種族 魔女

既に亡くなっている。月の魔女の師匠で育て親。寿命間近に人間の赤ちゃんの面倒を見る羽目になった。「魔女のふりをするなら塔の魔女のふりをすればいい。ナベブタ以外に知ってる奴はいないし、私が1000歳で死のうが、1100歳で死のうが、大して変わりは無いだろう?」と言って月の魔女に魔女としての居場所を与えてくれた。

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