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塔の魔女と使い魔  作者: 星野 優杞
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契約の解除

その言葉に今度は俺が目を見開く番だった。


言われた言葉が理解できなくて、

理解したくなくて、

動けない。


「あなたは、私の使い魔だからと、全力で私に尽くしてくれようとする。」


当たり前、じゃないですか。

だって俺は、あなたの使い魔なんですよ?


「でもね、私は100年経たないくらいで死ぬの。狼男の寿命はよく分からないけれど、きっと後、700年以上は生きるのでしょう。」


こんな、余命少ない私のところに居ても、あなたのためにならないわ。

魔女様はそんなことを言う。


――――彼女の秘密を知っている―――――


「俺は!あなたと一緒に死ぬつもりだ!!」


大きな声で決意を語る。あの夜からずっと、考えていたことだ。彼女は目を見開いて驚いた後、首を横に振った。


「いけません。やはり、あなたは私の使い魔でいるべきでは無いの。」

「魔女様っ!!俺が何のために成長したと……。」


月が空に懸かる。

黒い夜空に、銀色の月が懸かる。

俺と魔女様の間に架かっていた月が昇る。


「これでもう、渡れないでしょう。」


俺と魔女様の間の契約がプツリと切れた。






おかしい。おかしいおかしいおかしい。魔女は確かに魔力の扱いに優れた種族だ。魔力量によっては吸血鬼も敵わない。だけど


「あんな薄紫の老いぼれに、この俺が圧倒されるなんて!!」


ありえない。ありえない。あんな魔女……!!


町の人間が焦ったような目で俺を見る。化け物同士を殺し合わせていれば、自分たちには被害はないと思っていたのだろう。俺に対する落胆の色も見えて腹立たしい。

死んだと言われているの塔の魔女。忌々しい銀色の光。薄紫の髪に見合わぬ魔力量。若々しい見た目。


「……まさか。」


あの狼男には、不思議なくらい嫌悪感を抱いたのに、

塔の魔女にはそれが無かった。それどころか……


「塔の魔女は……。」






 塔の上で1人で歌う。

月虹には魔法をかけた。もう、この塔に戻ってこられない魔法を。

月の歌を歌う。


ああ、

今度こそ、

この歌声は誰にも届くことがないのに。






 あれから少し朝が来て、夜が来た。


「どうして見つからない?」


あんなに大きな塔なのに。自分が住んでいた場所なのに。俺はどうしても塔に帰ることができなかった。


本当は分かっている。魔女様が主従関係を解いた後、そういう魔法をかけたんだって。

でも、それを認めたくなかった。どうして、使い魔であることを許してくれないのだろう。


「俺は、あなたのために大きくなったのに。」


人狼の成長速度は、普通に育てば人間と同程度だ。

急激に成長するには条件がある。訳がある。


「あなたを守るために、大きくなったのに。」


心の底から守りたいと思える相手を見つけた時、人狼は、狼男は急激に成長する。


「あなたを守れないのなら、俺に何の意味もないのに。」


例え使い魔じゃなくても、あなたは俺の唯一なのに。

森の中で力なく項垂れる。


そうしてしばらくした時、誰かの話し声が聞こえた。化け物だから、人間により聴覚は遥かに優れている。


「本当にあの吸血鬼の話を信じて良いのか?」

「でもあの魔女をどうにかしないと安心して暮らせねーし……。」


話し声は、人間のものだ。

奴らは魔女様を殺しに行こうとしている。それが分かってしまった。いけない。駄目だ。


(あの人は、きっと人間を殺せない。)


そう思って、駆けだそうとした足が、動かなかった。動かない体で視線だけを動かす。森の中の闇。その闇の中にある俺の影。影の上から猫の鳴き声が聞こえた。

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