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塔の魔女と使い魔  作者: 星野 優杞
3/8

化け物を狩る吸血鬼

 人間の血は美味しい。だけど、魔力量が少ない。人間の血で生きていこうと思ったら、大量に必要だ。

それに比べて化け物の血は魔力量が多い。化け物を殺さない程度に血を貰えば生きていける程度には。


「魔力が多い人間を量産出来たら理想的なんだけど。」


娯楽品としての役割が大きい人間の血を口に含む。美味しい。美味しいから人間にはそれだけで生きる価値があると思う。


「吸血鬼様。次のターゲットは……。」


人間の望む通り化け物を殺して、その化け物の血で命を繋ぐ。褒美として俺は人間に狩られないし、いらなくなった人間を貰える。ウィンウィンの関係と言うやつだ。


人間は面白いもので、自分に危害を直接加えていなくても加えそうだと思ったら、見た目が不気味だと思ったら、俺に狩りを頼む。人間に友好的な化け物だとかは関係ないらしい。

俺は気に入らなければこの町くらい滅ぼせる力がある。でも化け物でも集団となった人間より強いものはそこまでいない。露払いには人間も使えるのだ。せいぜい利用させてもらおう。

―――――飽きるまでは。






 月の歌が聞こえる。その歌声は、金色にも銀色にも聞こえる。紺碧の夜空に静かに響き渡る。


「また歌ってるんですか?」


塔の上で月を見上げて歌う。彼女に後ろから声をかけると嬉しそうに笑われた。


「歌が好きなの。」


そう言われてため息をつく。


「こんなところで歌ったって、誰にも届きゃしないですよ。」


塔は高い。地上に彼女の声は届かないだろう。


「月には届くかもしれないよ?」


彼女は可笑しそうに笑った。月の魔女と呼ばれることもある彼女の声は、月に届くだろうか。

紺碧の夜空には銀色の月が懸かっている。


(届かなければ良いんだ。)


届いて、月に気に入られでもしたらたまったもんじゃない。

彼女を守ると心に決めているけれど、さすがに月は敵に回したくない。


ふわりと薄紫の髪が光るのが見えた。気が付いたら魔女様は俺のすぐ目の前に来ていた。

彼女は俺のことを見て嬉しそうに、嬉しそうに笑う。


「月虹には届いてるでしょう。」


歌を聞いて来てくれたんでしょう、と。


その言葉に、

表情に、

心臓が飛び跳ねて、

息ができなくなるかと思った。


「歌で獲物をおびき寄せるなんて、セイレーンですか……。」


すっかり熱くなった顔を隠すことも出来ず、顔を背ける。

魔女様はクスクスと可笑しそうに笑った。


「私の下半身は、鳥でも魚でもないよ?」


そんなの、よく知ってる。






 森の奥の奥に、その高い塔はあった。高くて目立つけれど、周りに人間がいないからそんなの関係なかった。人間が来ない森の奥にあるのだから関係がなかった。

けれど人間と言うのは意外と進化が速かったりする。昨日は誰も入らなかった森に、今日は家を建てている。だから当たり前と言ってしまえばそうなのだけれど、人間が塔を見つけてしまったらしい。


「と言うわけで調査を頼まれたのさ。」


目の前の男は白々しい笑顔を張り付けてそう言った。魔女様のご飯を作っていたのに、急に押しかけられて迷惑である。威嚇の意味を込めて睨みつければ忌々しそうな表情をされた。


「調査だから、戦闘をするつもりは無いんだけど、殺してやっても良いんだよ?犬っころ。」

「喧嘩なら買うぜ?猫に跨がれた死体の癖に。」


男は真っ黒な猫を連れていた。きっとこの猫が彼を化け物にしたのだろう。


「喧嘩じゃない。殺し合いだよ。そんなことも分からないんだね?精神は見た目に比例してないのかな。」


その言葉に俺は言い返せなかった。

確かに俺は急激に成長したタイプの狼男で、精神は見た目ほど成熟していない気がしているからだ。


「私の使い魔を苛めないでください。」


ため息をついた魔女様が俺を庇うように立つ。


「躾がなっていないんじゃないかな?塔の魔女。」

「拾ったのは3年前だもの。まだまだ教育途中よ。」


俺は口を開こうとして、閉じる。何も言えやしなかった。


「3年か。確かに俺たちの時間の中では瞬きほどの時間だ。」


男は羽をバサリと動かした。

そう、この男、吸血鬼である。


そして男は魔女様をじっくりと見始める。

ねっとりとした視線に、思わず俺が魔女様を庇おうとすると、魔女様に止められた。


「そもそもあなたのせいですよ?塔の魔女がワルプルギスの夜に顔を出さないから、あなたは既に死んだのだと噂されていたのです。今回お会いできて正直驚きました。」

「騒がしいのは苦手なので。」


魔女様はにっこり笑う。

張り付けたような笑顔は今まで見たことが無い表情だ。俺に向けられたことは無い表情。


「それにしても随分お若いですね?塔の魔女は若返りの魔法を開発したのですか?」

「偽れるのは表面だけでね。寿命は延びはしないよ。」


吸血鬼は探るように目を細める。


「塔の魔女は力のある魔女。もっと濃い紫色の髪をしていたでしょう。年を重ねて、魔力も髪の色も薄れたのですか?」

「いい加減にしろ。」


俺は魔女様の制止を振りきって矢面に立つ。


「調査とやらはもう十分だろう。」

「月虹!?」


俺は魔女様に嫌な想いをして欲しくない。悲しい顔もさせたくない。

そのためにお菓子を作れるようになった。何のために体が大きくなったと思っているんだ。

こういう時に前に立てるようにだろう!!


俺の鋭い視線を受け止めた吸血鬼は口角を上げた。


「確かに十分だ。ここからの判断は人間の仕事だからね。」


そして空中で綺麗にお辞儀をして笑った。


「それでは塔の魔女。またお会いできることを楽しみにしていますね。」

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