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塔の魔女と使い魔  作者: 星野 優杞
2/8

金色の月の夜


 お菓子が好きな魔女様は、自分で作っても上手くできないからと人間の町にお菓子を買いに行くことがあったらしい。

髪の色を隠して、普通の人間の服を着て。


それでも森から来たことがばれると、人間たちから酷い仕打ちを受けた。

見た目は人間と変わらない魔女様はそれがとんでもなく悲しかった。

髪の色が違うだけ。

知識の量が違うだけ。

それだけで集団というものは、個人を攻撃してくるのだと知ってしまった。


魔女というものは基本的に集団にはならない種族だ。塔の魔女は、塔の上で1人で生きるもの。それが時折、魔女様を苦しめた。


(だから俺は救われた。)




 影よりもずっと濃い黒の夜。銀色の月が出ている。

化け物を殺すための忌まわしい色。親は化け物に殺された。化け物同士だって殺し合うのだ。

銀の月の出ている夜だったから、化け物同士の殺し合いだったのに、まるで聖なるものに殺されたような気分になった。


銀色が嫌いだ。銀色が許せない。


俺のことも殺そうと化け物が俺の方を見た時、俺は見てしまった。



――――銀色の月は金色に取って代わる。



目の前の化け物は消え失せる。

何が起きたのか理解できない俺の前に、その人は現れる。


「ああ、ちょうど良い。」


金色の月を背後に立つ、少女。

魔女が身に付ける黒い帽子と服を着た彼女が俺を見て笑う。

そしてその手を俺に差し出した。


「私が月を架けてあげよう。」


それで君は私の元に渡ってこれるだろう。

その光景が瞼に焼き付いてしまっている。

あれほど美しい月夜を俺は他に知らない。






 「ナベブタの魔女が来るらしい。」


夕方に起きた彼女が面倒そうに頭をかいた。


「ナベブタって言うと、あの方ですか。」

「そうそう。」


ナベブタの魔女は、魔女の中でも大きな力を持ち、長く生きている魔女だ。気質は基本的に穏やか。いつも大切そうに鍋の蓋を被った豚を可愛がっている。比較的人間に対しても友好的だ。

昔大量に人間を殺したこともあるらしいが、人は見かけによらないものだと思う。集団にならない魔女の中では珍しく、同族を気に掛ける面倒見がいい魔女である。まあ、とんでもなく強いので穏やかで助かったと俺は思っているが。


「塔の魔女。」


玄関をノックしてやって来たナベブタ様は、やはり行儀が良い。気品と優雅さも感じられる佇まいをしている。そんな彼女の腕の中にはいつも通り鍋の蓋を被った豚が寛いでいる。ナベブタ様の髪は黒に近い紫だ。魔女の髪は紫の色素が強ければ強いほど魔力が強いらしい。


「跡継ぎや弟子を考える気はありますか?」


ナベブタ様の質問はいつも同じだ。魔女様の最近の調子を聞いて、世間話をして、それから決まった質問をする。


「無いです。塔の魔女は私だけ。それでいいと思います。」


魔女様はいつも同じことを答えた。ナベブタ様は静かにそれに頷く。魔女様の答えに納得しているのかしていないのかは分からない。


「そう言えば、吸血鬼が何やら良くない動きをしているそうです。」


ナベブタ様は帰り際に思い出したように言った。魔女様と俺を心配そうに見てくる。


「吸血鬼は……面倒ですね。」


魔女様が顔をしかめる。吸血鬼は生まれつきのものもいれば、吸血鬼にされたものもいる。また、人間から吸血鬼になったものもいる。そのせいで人間は吸血鬼を狩ることを禁じ、さらには協力して悪事を働くこともある。

吸血鬼に目の敵にされている狼男としては嫌なことでしかない。俺も顔をしかめていたのだろう。魔女様と目が合うと、ニッコリ安心させるように微笑まれた。


「ムーンボウは、私が守るから大丈夫よ。」

「守るのは俺の方です。俺はあなたの使い魔なんですから。」


そう返せば少し不服そうな顔をされてしまった。



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