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塔の魔女と使い魔  作者: 星野 優杞
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塔の魔女と使い魔

森の中の高い塔。

薄紫の髪の塔の魔女と、使い魔の黒い狼が住んでいる。



―――――――彼女の秘密を知っている。

あの月の夜、俺に手を差し伸べてくれた、彼女の秘密を知っている。


「月虹!もっと上のやつ!!」


手を伸ばしても彼女の指定する木の実に手が届かない。

背後でぎゃあぎゃあ騒ぐ彼女にため息をついて、体を変える。人のような手足がすぐに毛深くなり、黒い毛が体を覆う。彼女が作った服には魔法がかけられているので、変化する俺の体と一緒に変化する。

そうして完全に変化した体で木の上に登って、彼女が望んだ木の実を採ってやった。


「最初からその姿になればいいじゃない。」


近づいてきた彼女の籠の中に木の実を入れ、元の姿に戻る。


「こっちの方が、人間に近いじゃないですか。」

「どうせ人間じゃないんだから、気にしなくても良いと思うけど?」


彼女はそう言いながら、俺の頭の上の耳と尻尾を見てにやにやと口角を上げる。


そう、俺は狼男。

人間ではなく、化け物である。名前は月虹。魔女様に付けられた名だ。


目の前で笑う彼女は薄紫の柔らかい髪を緩く一つの三つ編みにしている。

彼女は俺の魔女様である。ちなみに魔女というものは魔女という種族であり、人間ではない。魔女という存在もまた、化け物である。紫色の髪を持ち魔力を好きに使える種族だ。




 彼女は塔の魔女である。

森の中にある高い塔。階段も無く、人間には到底上ることができない塔だ。俺と彼女は住めるので問題ない。塔があまりに高いから彼女は最も月に近い魔女、月の魔女だとも呼ばれていた。


「私は好きよ?モフモフの耳も尻尾も。」


魔女様はそう言って俺の尻尾を撫でた。


「なんで尻尾?!」

「月虹が私より大きいからでしょう!!」


ちょっと前はこんなに小さかったのに、と彼女は拗ねたように口を尖らせた。そう言って彼女が自分の腰くらいのところで手をひらひらさせる。


「もうちょっとゆっくり成長してくれてもいいのに!」


今の俺の身長は魔女様の頭が肩にくるくらいなので、確かに大きくなったな、と実感する。静かに感動しているのだが、彼女的には不服らしい。


「使い魔の成長が嬉しくないんですか?魔女様。」


尋ねてみれば彼女はうぐっと言葉を詰まらせた。


「嬉しくないわけじゃないけど……。うん。」


俺は、魔女様の使い魔だ。3年前の月夜に彼女に救われ、契約を結んだ。

その時から、彼女は俺の唯一である。


「帰りますか。」

「帰りましょう。」


魔女様が指をパチンと鳴らせばどこからともなく箒が現れる。多くの魔女と同じように、彼女も箒で空を飛ぶのだ。そうして俺たちは塔の上に帰る。




「さあさあ月を掛けてあげようね~。」


魔女様はそう言いながら月によく似た照明を天井から掛ける。彼女が月の魔女と呼ばれるのは月に近いからだけではない。なんだかんだ月のことが好きなようで色々と月っぽいものを揃えているのだ。


「さあお茶にしましょう。」


そう言って魔女様に渡されたティーポットを傾ける。

流れ出すのは夜色のお茶。深い夜色の液体の中には無数に星が煌めいている。この煌めきが多ければ多いほど甘くなる。

今日のお茶は大分甘そうだな、と思ったが彼女的にはまだ足りないらしい。

日暮れの空には金色の星が輝いている。


「暮れの明星、明けの明星。その黄金色の蜂蜜を、私に分けてくれないか。」


ティーカップを持って、彼女は窓辺に歩いていく。そうして水面に金星を映す。彼女のティーカップに、流れ星が走った。魔女様は満足そうに頷いて俺を振り返る。


「あなたはどうする?」

「俺はそこまで甘党じゃないんで。」


そう答えれば彼女はふむと頷いて椅子に座り直した。お茶請けはクッキーだ。


「……美味しい……。」


彼女はお菓子を頬張り感心したように言った。


「なんでお菓子作りが得意なの?そんなに得意になって何をするつもり?!可愛い女の子でも誑かすつもりじゃないでしょうね?!」


クッキーを頬張りながら唐突に責められる。俺は魔女様の口の周りのクッキーのかけらを取ってやりながらため息をつく。


「魔女様がお菓子が好きだからでしょう。何をするつもりって、魔女様に食べてもらうつもりなんですよ。それ以外にあり得ないでしょう。」


だって彼女は俺の唯一だ。

魔女様の瞳がティーカップのお茶のように煌めきを増して、頬がばら色に染まる。


「俺はあなたの使い魔なんですから。」


そう言えば彼女はハッとして、すぐに頬の色を戻してしまった。それを少し惜しく思いながら俺もクッキーをつまむ。不味くはないけれど、彼女ほどおいしくも感じない。クッキーをお茶請けにするくらいなら魔女様の笑顔をお茶請けにしたほうがお茶が美味しい。




 化け物の生活は基本的に人間の逆で昼夜逆転である。でも魔女様は変わり者でどちらの時間も好んでいる。だから色んな時間に起きて色んな時間に寝ていた。基本的に俺は彼女と同じ生活をしているけれど


「規則正しくない!!」


これなら普通の化け物の方が規則正しい。睡眠時間がグチャグチャになりがちな魔女様の睡眠も食事もいつの間にか俺が管理することになっていた。

料理が上手くない割に魔女様はグルメで美味しくない物はあんまり食べたくないらしい。自然と俺の料理の腕が磨かれてしまった。特に甘いものを食べると、とんでもなく嬉しそうな表情をするので、ついついお菓子作りもできるようになってしまっている。

嫌ではないから困るのだけど。


(少しでも、魔女様が嫌な想いをしないように。)


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