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9、バイエル王国に着きました。


 辛くもバイエル王国に到着した私達一行は、大量の気絶している鳥という、実に奇妙な手土産を共にすることになってしまった。

「途中何者かの魔力で操られた鳥達に襲われる羽目になりまして、無作法どうぞお許しください。」

無事に王室同士が一同に会し、ピュレル王国のトゥマリス国王はまず、大量の鳥を持ち込んだ非礼を詫びた。

「とんでもない、お詫びを申し上げるのはこちらの方です。今回襲撃に使われたのが、我が国の森に住まう鳥、誠に申し訳ない。こちらからの護衛もお付けし、もっと警備に気を配るべきでした。」

バイエル王国のカウキエス国王は、噂で聞くよりもだいぶ柔和な話し方で、恐縮の意を表してくれていた。

「いえ、軽率であったのはこちらも同じ。王室が丸ごと飛んできたなら、敵国の良い標的になるのだと、先に気付いておくべきでした。」

「敵国…、ですな。」

「ええ、襲ってきた鳥を確かめてみたところ、全ての鳥から、ディパル王国でよく使われている魔力の波動を感じました。」

「ディパル王国……、」

カウキエス国王は渋面を作る。

「我々両国の婚姻を、あちらはむしろ宣戦布告と取ったのかもしれませんな。」

「我々としては、三国仲良くできれば一番良いのですがな。」

「誠に…、なかなか上手くいかないものですな…、」

ディパル王国は、隣に位置している国でありながら、謎の多い国だった。

 国交は最低限にしていて、魔法も独自のものを研究している。

 今回ピュレル王国がディパル王国を婚姻相手に選ばなかったのも、そもそも妙齢の王子がいるかどうかさえ定かではなかったからだ。

「今後も警戒が必要ですな。」

「ディパル王国の情報につきましては、今後も両国間でぜひ共有して行きましょう。」

輿入れ中にバイエル国内でピュレル王国が襲撃されたため、ディパル王国はバイエル王国、ピュレル王国共通の敵として認識されてしまった。

 せっかく戦を起こさないために婚姻を決めたのに、早速立ち上ったキナ臭い匂いに、イーリスはため息を吐く。

 人と言うのは、何故こうも戦をやめようとしないのか、それにより傷付くのは、いつも力のない平民、そして動物達だというのに。

「今回襲撃に使われた鳥達は、辛くも皆命だけは助かっております。つきましては、鳥達を無事に森へ返したいというのが王女の願い。どこかの園をお借りして、この鳥達の療養に使わせていただくことは可能ですかな?」

「ほう、それはそれは、」

カウキエス国王は、面白そうにイーリス王女の方を見た。イーリスは自らの願いを父であるトゥマリス国王が代弁してくれたことに感謝し、深々と頭を下げた。

「イーリス王女はとても優しい姫なのだね。姫の願いであれば、聞かない訳にもいくまい。では、城の隣にあるバイエル動植物園を使ってくれたまえ。あそこなら、獣医もいるし、環境も整っている。」

「ご温情感謝いたします。心よりお礼申し上げます。」

イーリスは心からお礼を言った。世界的な広さと設備を誇るバイエル動植物園を借りられるなら、これ以上に良い場所は他になかった。

「あと、親鳥を無くした雛鳥達の保護も考えているのですが、お許しいただけますでしょうか?」

「もちろんだ。その雛鳥達は、先ほど目を回していた鳥達の子供なのだろう。親子は離れるべきではない。共に保護しなさい。」

「バイエル王国陛下の海より広い寛大なお言葉に、感謝してもし切れません。」

更に深く頭を下げながら、イーリスは心底感謝していた。カウキエス国王は好戦的で怖いという噂を聞いていたけれど、鳥達に見せるこの優しさは、決して作られたものではなかった。

(歯向かう者に対してだけ、非情なのかもしれない…、)

小説の中でピュレル王国を滅したのは、このカウキエス国王率いる軍であったので、決して心を許すことはできないだろう。けれど、必要以上に警戒することもないかもしれない、と、イーリスは認識を改めた。

「怖い思いをさせてすまなかった、イーリス王女。」

後ろに控えていたゼフィール皇太子が口を開いた。

「いいえ、私は何も。今回傷付いた鳥達も、バイエル王国で癒していただけることが叶い、本当にありがたく思っております。」

「今回の襲撃に使われた鳥達は、とにかく数が多く、ピュレルの精鋭の騎士だけでは迎撃が追い付かなかったかもしれないと聞いている、そなたの力で助かったと。意外に女傑であったのだな。」

「それは……、」

ゼフィール皇太子の冗談のような言葉に、イーリスは耳まで赤くなかった。

 強くなりたいとは思っていたけれど、まさか女傑と評されるまでになるとは、か弱い一般的なお姫様のイメージとは真逆だろう。

「お恥ずかしゅうございます。まだまだでございます。」

「まだまだとは、もっと強くなりたいという意味か?」

孤児院に入り浸っていたのを知られている時点で、もはや深窓のおとなしい姫君のイメージは持って貰えないことは分かっている。

 であれば、わざわざここで取り繕う必要はなかった。

「はい、強くなければ、国民を守ることもできませんので。」

強くありたい、大切な者を守れるように。それは私に前世の記憶が蘇ってから、一貫して持ち続けていた願いであった。

「ますます、好ましい。」

イーリス王女のその返事に、ゼフィール皇太子は満足そうに微笑んだ。

 その笑顔のあまりの格好良さに、イーリスの顔は再び耳まで赤くなる。

 すでに気心の知れたような、仲の良いゼフィール皇太子とイーリス王女の様子に、その場にいた大人達は、皆温かな笑顔で二人のことを見守っていた。

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