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32、道頓堀を歩きます。

 

 その日、道頓堀はざわついていた。


 目も眩むようなイケメン二人と、美少女二人、合わせて四人が連れ立って歩いていたのだ。

 全員サングラスをかけて帽子まで被ってはみたものの、身体から迸るイケメン&美少女オーラは隠しようもなかった。

「アカンこれ、マスクもしといた方が良かったな。」

「じゃあこの、タコのマークが付いた布マスク買いましょうか?」

未央の提案に、イーリスは近くの店で売っていた布マスクを四枚買うことにした。

 それぞれ気に入った柄のマスクを選び、早速装着する。

 帽子にサングラスにマスクと揃うと、もはや不審者ではあったけれど、だいぶ美男美女オーラは消すことができた。

「さあ、これで大阪を食べ尽くすでー!」

未央はウキウキと先頭に立った。

「たこ焼き、お好み焼き、串カツ、豚まん、ミックスジュース!大阪は食い倒れの街やさかい、全部食べへんかったら帰れまテンや!」

「1日に全部は無理でも、絶対全部食べたいですわね!」

イーリスと未央は連れ立って、道頓堀のメインストリートに足を踏み入れた。


「危ない!!」


その瞬間、ゼフィール皇太子が突然、イーリスを抱えて横の路地へと避難した。バルトも慌てて未央を抱えてゼフィール皇太子に続く。

「何事でしょうか!?」

突然のことに、イーリスは目を見開いた。

「怪物がいるっ…!」

ゼフィール皇太子は、真剣な顔でそう言った。

「怪物でございますか……?」

ゼフィールの言葉に、イーリスは周りを見回したけれど、それらしいモノの姿は見えなかった。

「くっ…!何故街の者は皆普通なのだ…?もしや、あの建物を襲っている怪物が見えているのは、私だけなのか…?」

ゼフィール皇太子は、冷や汗をかきながらも、いかにイーリスを守ろうかと考えているようだった。

「建物を怪物が襲っているんですの…?」

「そうだ、イリィにも見えていないのか?あんなにも巨大なカニが、建物にしがみつき蠢いているのに!!」


「カニッ………!!」


「ああ…、カニはん、なぁ……。」


 ゼフィール皇太子の言葉に、ようやくイーリスと未央は、何を皇太子が勘違いしているのかを理解した。

「皇太子はん…、堪忍な、アレ、あのカニな…、ただの看板なんや…。」

未央は申し訳なさそうに、皇太子にそう説明をした。

「看板…?いやしかし、動いているぞ…?」

「せやから…。」

未央が説明しようとした時、ゼフィール皇太子はまた別のモノを発見してしまっていた。

「あちらの建物は巨大タコに襲われているではないか!何故この街は巨大海洋生物の襲撃を受けてしまっているのだ!?」

「巨大海洋生物の襲撃て…、ゴジラの襲撃みたいやん…。ていうかあれも看板です。タコ焼き売ってますって分かりやすくしてあんねん。」

「看板……?」

未央の言葉に、ゼフィール皇太子は再びしっかりと、壁面の巨大タコを凝視した。

「確かに、ピクリとも動かないな…。しかしずいぶんと大きくてリアルな看板だな、こちらの世界の看板は、全てあんな感じなのか?」

「違います。この街だけです。他の街の看板はもっと大人しいですので、安心なさってください。」

すかさずイーリスが訂正した。日本全国道頓堀並みの看板が当たり前だと誤解されるのは避けたかった。

「そうなのか…。」

「せや、この大看板は道頓堀のシンボルや。ここに来た観光客は皆看板の前で写真撮ってくねんで。」

「写真…?」

「即席絵姿みたいなものですわ。」

ちょいちょい会話が成り立っていないところは、イーリスがすかさずフォローする。

小説の世界の人間に、いきなりこちらの世界を理解しろというのは難しい話だった。

「それはともかく、あの看板は心配あらへんから、早速たこ焼き食べに行こうで!」

「そうですわね!たこ焼き!!」

ずっとずっと食べたかった、本番大阪のたこ焼き。

 前世で大阪旅行をした時に何回か食べて、そのあまりの美味しさに感動したたこ焼き。

 東京の揚げたようなたこ焼きとはまったく違う、外はパリッとしていながらも柔らかくかつ香ばしく、中はトロトロで出汁の味が最高に美味しい、至福の食べ物。

 イーリスはあのたこ焼きを食べられないことが、小説の世界に生まれ変わってから一番辛いと感じていたことだった。

 けれども、その禁欲期間ももう終わるのだ。


 これからは、未央と一緒であれば、好きな時に大阪に来られる。

 大阪だけではなく、神戸も広島も東京も仙台も北海道でも、行こうと思えばきっと行ける。

 今日は、その輝かしい第一歩だった。


「メインストリートのたこ焼き屋も、もちろん美味しいんやけど、うちのオススメはこっちの裏通りにあんねん。」

未央に誘われるまま、横の細い路地に入ると、そこにはまるで民家の窓を店にしただけのような、小さなたこ焼き屋があった。

「うちはここが、大阪一旨いたこ焼き屋やと思っとる。」

「ここがっ…!!」

窓のような狭い間口の中に、とてつもなく美味しそうなたこ焼きがどんどん焼かれていくのが見えた。

 気の良さそうな、白い割烹着と三角巾をしたおばちゃんが、凄まじい手さばきで美しく丸いたこ焼きを次々とひっくり返している。

「美味しそうっ…!!」

その素晴らしい手さばきと、漂ってくる良い匂いに、私はフラフラとその場へ吸い寄せられて行ったのだった。



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