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30、そこは大阪湾でした。


「失礼いたしました、聖女様もいらしたのですね。」


 ゼフィール皇太子は未央の姿を見ると、遅ればせながら畏まった。

 未央は聖座の中心として、バイエル王国に莫大な利益をもたらしているので、聖女ということを差し引いても、皇太子ですら頭が上がらない存在になっていた。

「うちのことはそんな気にせぇへんで。たまには夫婦水入らずしてもエエんちゃう?」

結婚はしたものの、皇太子と皇太子妃というのは、なかなか公務が多忙で、二人きりでゆっくりする時間はなかなかなかった。

「でも、今回ゼフィール様は日本への転送に関してお伺いにいらしたので、やはり未央がいなくなっては困りますわ。」

「そういやそうやな。」

「お気遣い申し訳ない。ところで聖女様、こちらの人間であるイリィを、あなたの世界に転送できたと言うのは本当ですか?」

「ホンマです。ちょっぴりだけやけど、確かにイリィと一緒に大阪の水に浸かって来れましてん。」

「水に……?」

「すみません、向こうで水中に出現してしまったんです。」

不審な顔をしたゼフィール皇太子に、イーリスが説明をした。

「それは、危険ではないのか?」

「顔は出ていたので、命の危険はありませんでしたが、もしも転送人数を増やすとなると、今回以上の危険も視野に入れておかないといけないかもしれません。」

「ふむ……。」

イーリスの説明に、ゼフィール皇太子は少し考え込んだ。

「危険があるのであれば、聖女様に負担をかけるのも心配だが、何よりイリィ、貴女はまだ同伴するべきではない。まずは他の者に行かせるべきだろう。」

「うーん……。」

ゼフィール皇太子の言うことはもっともなのだけれど、イーリスは返事を渋った。

 イーリス自身が未央と一緒に行きたいという理由もあるのだけど、危険と分かって他人にお願いするのは、更に気が引ける部分もあった。


「危険でしたら、私が参りましょうか?」


「バルト!?」


 突然後ろから掛けられた声に、イーリスは驚いた。

「やだ、近くにいたなら教えてよ、ビックリするじゃない。」

窓の外にいた黒梟のバルトは、部屋の中に入ると、人間の姿に戻った。

「申し訳ありません。」

 元々はディパル王国の魔法使いだったバルトは、今ではイーリスの一番のボディガードとして、黒梟の姿で付近を監視していることが多かった。

「でも、私を守ってくれているのだものね、いつも本当にありがとう。」

イーリスがお礼を言うと、バルトは照れ臭そうに下を向いた。

 本当はもっと自分の時間を大切にして欲しいとも思うけれど、いつディパル王国復権派が命を狙ってくるかもしれないと、自主的に護衛を続けてくれていた。

「ところで、先ほどの話だけど、やはり危険を伴うところに、貴方を送るのは気が引けるわ。」

「危険とおっしゃっても、聖女様の世界には、魔物や猛獣は少ないと聞いておりますし、水中に出現した場合、聖女様を抱えて飛ぶことも可能ですので、私が一番適任かと思います。」

「うーん…。」

バルトの提案に、イーリスは確かにその通りかもしれないと思い始めた。

 空に逃げるとして、有翼人ハルピュイアであるイーリスは確実に目立って仕方がないけれど、黒梟であれば、人が飛んでいるのに比べれば、まだ目立たないだろう。

「じゃあ、バルトにお願いしようかしら?」

「畏まりました。」

イーリスは悩んだ末に、バルトに大阪旅行計画の実験に協力して貰うことにした。



 そして、翌日、準備を整えたイーリスは、噴水の祭壇の前で、未央とバルトを大阪へ転送するための祈りを捧げた。

 イーリスの前では、未央とバルトが手を繋いで立っている。

 今回はゼフィール皇太子も、実験の経過を見るために、私の後ろからその様子を見守っていてくれていた。


 初めて聖女を召還した時には何日もかかったけれど、今ではほんの数分で転送を実行できるようになっていた。


 祈り初めて数秒で、未央とバルトの身体が光りはじめた。


 転送が始まる、そう感じた時、予想外の突風に襲われた。


「しまった!!」


 突風に煽られ、祭壇の捧げ物が落ちそうになる。

 比較的軽い、菓子を乗せていた皿が風に浮き、未央の頭にぶつかりそうになった。


「危ない!」


 私はとっさに、手を伸ばして未央を庇おうとした。


「危ないで!」


 伸ばした私の手が消える。未央はすでに日本への転送が始まっていた。


「イリィ!!」


 異変に気がついたゼフィール皇太子が、イーリスに向かって手を伸ばした。


「ああっ!」


 未央とバルトを包んでいた光が、イーリスとゼフィールの姿も飲み込んだ。


「しまったっ…!」


 不思議な空間を通っていく感覚。


 そして、未央とバルトとイーリスとゼフィールは、気が付けば見たことのない水の中に移動していた。


「あかん!やっぱり水の中や!」


 移動してすぐには、不思議なシールドが私達の周りを守ってくれていたけれど、それは数分しか持たないものだった。


 私はすぐさま背中の羽を出すと、未央とゼフィール皇太子を小脇に抱えて、水面に向かって羽ばたいた。

 バルトも黒梟に姿を変え、一緒に羽ばたく。


 水面はかなり上だった。

 私達は、海のかなり深いところに出現をしてしまっていたようだった。


 何とかシールドが消える直前に、私達は水中から空へと逃げることができた。


 突然現れた、二人抱えて翼で飛ぶ人と黒梟の存在に、海鳥が驚いて騒いでいる。


 私達の目の前には、海と、船と、橋と、、そしてその向こうには、観覧車も含んだ、ビルのひしめく陸地が広がっていた。


「大阪湾や……。」


「一気に4人、転送…できちゃったのね…。」


 イーリスは翼を羽ばたかせながら、その光景を見て、一瞬呆然としてしまったのだった。




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