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27、大団円

 

 あの日、聖女を襲ったディパル王国の刺客は、イーリスを癒すために放たれた未央の『祈り』の力を至近距離で浴びて、すっかり毒気を抜かれてしまっていた。

 そのため、ディパル王室が極秘に進めていた禁忌魔術の内容に関して、簡単に口を割り、バイエル王国とピュレル王国に戦争の口実を与えた。

 国家上げての禁忌魔術の極秘開発、それは国を挙げて潰されても文句の言えない、正に禁忌の行いだった。

 戦いは一瞬だった。

 開戦前に、バイエル・ピュレル両国は入念に準備をし、開戦宣言と同時に、バイエル軍は陸から、ピュレル軍は空から、一度に攻め込んだ。

 両軍の目標は、ディパル宮殿ただ一つだった。

 地域の砦や国民には一切危害を加えず、国の中心部まで一気に入る。

 機動力においては劣っていたバイエル軍であったけれど、アレロー、オーキュティー両軍の持つ、疾風と突風の風の魔法を軍全体にまとわせ、飛躍的な機動力を実現していた。

 正に疾風のごとく現れた、両軍からの魔力照射に、ディパル宮殿の魔力障壁も長くは持たなかった。

 そのシールドの綻びから、ゼフィール皇太子率いるバイエル軍が道を作る。

 そして、そこに、軍の影に隠れて、イーリスの翼により前線まで運んで貰っていた、聖女、未央が『聖なる祈り』を叩き込んだのだ。

 一国の王女と聖女が前線に出るなど危険過ぎると、誰もが反対したけれど、未央は自分の聖女としての力だけが、この戦をすみやかに終わらせられる手段だと分かっていた。

 そして何より大事な聖女を抱えて飛ぶのに、一番信頼できるのは、イーリスを置いて他にはいなかったのである。

 いかに飛行技術に優れていたとしても、信頼関係がない相手と敵陣に突っ込むのは危険すぎた。

 この作戦において、失敗は即、死に繋がる。

 万に一つも失敗は許されないとして、作戦はイーリスの回復を待って実行されていた。

 実際、聖女の希有な力がなかったなら、この戦いはもっと長引き、犠牲者も大勢出ていたことだろう。

 聖女の力により、禁忌魔術を封じられ、更に戦闘意欲まで削がれたディパル中枢部は、もはや戦う相手ですらなかった。

 宮殿内に突入した両軍により、ディパル王家は次々と捕縛され、禁忌魔術研究の証拠は次々と抑えられた。

 ここに、歴史上初めてのディパル宮殿の無血開城が実現したのだった。


 捕縛されたディパル王家、貴族、軍の上層部の皆は、それぞれが国際法の元に処罰され、財産、領地没収、投獄など、それぞれの罪に応じた罰がくだされた。

 王のいなくなったディパル王国は、バイエル王国とピュレル王国共同で管理することとなった。


 こうして、長くこの世界を苦しめていた戦争の脅威は、この戦を最後に、この世界からはしばらく消えることになったのだった。

 バイエル王国のゼフィール皇太子とピュレル王国のイーリス王女の仲睦まじさは、すでに皆に知られており、この二人の仲が壊れない限り、恒久的に世界は平和に包まれることになるだろう。


 世界が平和になるということは、産業が発達し、経済が活性化するということだった。

「つまり、ここでもうちの出番っちゅーこっちゃ!」

聖女、未央の目は輝いていた。未央の目には、日本とこの世界を股にかけて、大儲けをする、商売のビジョンがしっかりと見えていた。

 異世界との行き来に「祈り」と「噴水」が関係していることを突き止めたイーリスは、聖女の『祈り』とイーリスの「祈り」を合わせて、未央を日本とこちらの世界を行き来させることに成功することができた。

 その度に未央が持ち込む、日本からの珍しい物は、こちらの世界に革新をもたらし、全てが良い商売の元になった。

 更にこちらの世界でお金になりそうな物を持って帰り、それを日本でお金に変えて、更に珍しいものを購入する。

 可能性は無限大だった。


 聖座は珍しい物を売買する商売の象徴のような役職となり、未央は商売人としての資質を遺憾なく発揮していた。

 バイエル王国は胡椒の名産化に成功し、ピュレル王国の紅糖と、お互いに高値で貿易できるようになった。

 イーリスはピュレル王国から輸入した紅糖を元に、様々なスイーツを開発しては、聖座を通じて販売をして楽しんだ。



 一年後、平和になり発展した世界の中で、ゼフィール皇太子とイーリス王女の結婚式が、盛大に行われた。

 聖女未央に祝福され、全世界の国民もまた、二人の結婚を心からお祝いしていた。

 結婚式に参列した、ピュレル王家の家族皆の幸せそうな姿に、イーリスは心から感謝した。

 せめて皆の命だけでも守れたら良いと思って行動していたので、まさかこんな幸せな未来が自分に待っているなんて、思いもしていなかった。


 ゼフィール皇太子と並んで、皆からの祝福を受けながら、イーリスは自分を取り巻いてくれていた全ての人に感謝をしていた。

 確かに自分はある程度頑張ったりもしたけれど、ここまでこれたのは、自分を助けてくれた、周りの皆のおかげだった。


 これは一つの区切りであり、そして始まりだった。


 今イーリスは、こちらの世界の人間を、一時的に日本に転送できないかの研究をしていた。

 これに成功できれば、いつか自分とゼフィール皇太子と未央とで、道頓堀でたこ焼きを食べる未来も夢ではないかもしれない。


 望んで、努力をすれば、きっと夢は叶う。

 イーリスは未来に希望を持って、今日も皆と一緒に頑張るのだった。





おしまい


 

 

 

 

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。

悪役令嬢イーリスの話は、ひとまずこれにておしまいです。

自分の考えたキャラクターで何かを書くというのは初めての経験でしたので、各所に至らない点もあったかと思います。

でも予想以上の方に閲覧していただき、大変励みになりました。

また何か書きたくなりましたら、何か書くかもしれません。

その時には、また覗いていただけましたら、大変嬉しく思います。

お付き合いくださいました皆様、本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初めまして。今までにない設定に近くとても楽しく拝見させていただきました。聖女様が可愛すぎて主人公よりも聖女様応援に走ってしまいましたw出来たら一話完結でもいいので大阪、道頓堀でたこ焼きを食…
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