26、何とか、生き返りました。
生まれ変わった私は、またネットの小説投稿サイトに最近投稿され始めた小説を読んでいた。
その小説には、前世でイーリスだった私のことが書かれていて、私は家族や国民を死亡フラグから回避させるために奮闘していた。
そして、最後には無事に家族も国民も助かり、めでたしめでたしで終わっていた。
ああ、良かった。イーリスは無事に家族の命を守ることができたんだな、そう思った私は、温かなベッドの中にいた。
白い大きな、天蓋付きの見慣れたベッド。私はそこで目を覚ました。
私はいったい誰なのか、目覚めたばかりの頭では分からなかった。
未琴なのか、イーリスなのか、それとも更に生まれ変わった誰かなのか。
身体がうまく動かなかった。
私は目だけをパチパチ繰り返し瞬きをして、周りの状況を確認しようとした。
その時、扉が開いて、誰かが部屋に入ってきた。
「もう三日かいな…、いつになったら目を覚ましてくれるんやろ…?」
元気のないその声は、間違いなく、聖女、未央のものだった。
「あ………、」
ようやく声を絞り出した時、こちらを見た未央とばっちり目が合った。
「イリィ!ようやく目覚めたんか!イリィ!良かった!ほんまに良かったでー!!!」
未央がものすごい勢いで、私に抱き着いて来た。
「未央……、」
ようやく出た声は、ずいぶんと掠れていたけれど、その痛みが、自分は生きているのだと実感させた。
「私…、助かったの…?」
毒蛇の神経毒にやられて、完全に死んだと思ったけれど、私はまだイーリス・ピュリファイングのまま助かったのだろうかと、信じられない気持ちで尋ねた。
「うち、あの日『力』使うの二回目やったから、出力落ちてしもてて、その場で完全に毒消ししたることができなかったんや、やから、三日も寝込むことになってもて…、」
「未央が助けてくれたのね…!」
聖女の『浄化する力』には、毒消しの効果もあったのかと、今さらながらに、聖女の力の万能さに驚いた。
「ほんまに、生還してもろて、ほんまに良かったっ…!これでイリィが死んでもたら、うち、後悔しても仕切れへん…」
「心配かけてごめんなさい、そして、ありがとう未央、貴女は私の命の恩人だわ。」
「ちゃうやん、先にうちを助けてくれたんは、イリィやん、ほんまやったら、蛇に咬まれてたんは、うちの方やったんやから。」
「未央が咬まれなくて、本当に良かったわ。だって私には『力』なんてないから、咬まれた後の人を助けるなんてできないもの。結果として、誰も死なずに済んだのは、本当に良かった。」
「良かったやないで、もー、死の淵さ迷っといて、何あっけらかんてしてんねん、ほんまにもー!」
私の胸の上でボロボロと泣く未央の頭を優しく撫でながら、私は、生き返れたことを本当に良かったと感じていた。
三日も寝込んでいた私は、体力も大分落ちていたけれど、未央の『聖なる祈り』によって、午後にはベッドから起き上がれるまでに回復していた。
後で聞いたのだけど、私が寝ている三日間の間、未央はずっと傍らで『祈り』を捧げてくれていたらしい。
絶大な力を持つ『祈り』を、三日間も続けなくては蘇生しなかったのであれば、やはりあの時の私は、すでに死んだも同然の状態にまでなっていたのだろう。
未央がいなければ、二度と会えなかったはずの人、見えなかったはずの景色。今目の前にあるものの、なんとかけがえのないものか。
ふらつく足でバルコニーまで出て、私はもう一度驚いた。
庭を埋め尽くす程の民衆が、私の姿を見て、一斉に歓声を上げてくれたのだ。
「皆、貴女の回復を、寝ずに祈ってくれていたのですよ。」
いつの間にか後ろに立っていたバルトが、私の肩にローブを掛けてくれた。
「どうして、こんなに…?」
「聖女様をお守りして、誰よりも国民のことを第一に考えてくださる、強くお優しい姫君が死の淵をさ迷っていたのです。祈らない者などいないでしょう。」
そう言うバルトの目の下にも、寝不足を表す隈ができていた。
「貴方も…?」
「当然でしょう。」
バルトは当たり前のことを聞かないでください、みたいな顔をして答えた。
「イーリス姫!もう起きて大丈夫なのか!?」
私がバルコニーに出たのに気づいたのか、ゼフィール皇太子も慌てたようにバルコニーに出てきた。
「無理はするな。」
そして、弱っていた私の身体を優しく抱き寄せて支えてくれた。
国民達の歓声に、私も皇太子も、軽く手を振って応える。
その姿は、誰が見ても、仲睦まじい、未来の国王陛下と皇后陛下だった。




